幕を開けて
「毎年やっているのでしょう?練習するだなんて真面目ね」
舞台上に上がり、縁に腰を下ろす。
「そうでもないさ。ただ、火神達に見せるからね。半端なものを出そうものなら盛大なブーイングが来そうだ。流石のボクもそれは怖い」
キリッとした顔で持ち前のビビリな部分を出した。
(何話しに来たんだっけ?)
変わらないビフェリオの態度に一瞬目的を見失いそうになる。
(あぁ、天使のこととか、目的とかだったな)
「…キミの知りたい諸々は後でセキラに聞くと良い。彼はもう既に知っていると思うから」
「…?セキラが私より先にここに来るだなんて出来ないわよ?彼はまだあの町にいるのだし」
「ボクと同じ見た目をした人が2人いると言ったら驚くかな」
「…いいえ」
自分の直感に従えばビフェリオのやりたい事はそれじゃ足りないぐらいだろう。もっと居てもおかしくない。
「わざわざ、同じ見た目って言ったわね。中身は別人なのかしら」
「キミも知ってる有名人さ。ボクなんかの真似をしてもらっているだなんて畏れ多い」
そう言って再度、水を飲む。
(…)
ここで1つ、また直感が働いた。
こればっかりは知らなくて良かった事実かも知れない。自分の冴えた頭が恨めしい。
「貴方の協力者は“最初の風神”様ね?」
「…当たり」
イタズラっぽい顔でそう言った。
「神都を滅ぼす気かしら。それが貴方達の言う“運命”とやらなの?【天】の意思なの?」
「おっ、もうそこまで仕組みを理解してるんだ。でもね、この世界においては【天】は関われないんだ。協力者様のお陰でね」
「これは、ビフェリオの意思なの?」
一呼吸、間を置いてから
「そうだよ」
と、彼は答えた。優しい、薄っぺらい笑みだった。
「神様なんていっそみんな無くなればいい」
小さな声だったが確かにそう聞こえた。
私はどうするべきだろう。
この場で一発殴ってしまうのが一番だ。私に相談してくれないし、隠し事が多過ぎるし、抱え込んでるし、聞きたい事がいっぱいあるし…言いたい事もあるし。
でも、体が動かない。言葉も出ない、指先一つ動かせない。
これは決して精神的な話じゃない。魔法だ。
「ごめん」
ゆっくりとこちらに近づき手をかざす。どう考えても加害する一歩手前だった。
少なくとも意識は失うだろう。最悪の場合は死ぬ。肉体の質が高く、たとえ神でもこの身には血が流れている。脳からの指令で体は動く。食べるし、寝るし、病気にもなる。つまるところ、ただの生物だ。
ビフェリオの固有魔法は不明だが、風神は権能として【風を生み出す力】を持っている。神特有の特技のようなモノだから、魔法のように事前動作は必要ない。ましてや不可視の風だ。避けるのは難しい。
例えば、耳に向かってジェットのような勢いのある強風を吹かせたらどうなる?
神とて生き物。それで死ねる。
(何で?止めなさいよ!私はまだ…)
「ごめんね」
メイテイは意識を失った。
風神の彼は倒れた火神の娘を抱き抱えていた。まるで、悲劇のクライマックスだ。
観客のいない舞台で彼はどんな表情をしていたのだろう。




