駆られて
「クッソ!何処行った、あの馬鹿弟子が!」
地上より高く、神都より低い位置にある浮き島、“仙楼”で金色の三つ編みを揺らしながらとある仙人は叫んだ。
「いやぁ〜ほんと、どこ行ったんでしょうね。メイくんが君のそばを離れるなんて珍しいな〜」
そう言うのは同じく仙人である眼鏡をかけた少し小柄な女性。
「スレンド、先言っとくけどさぁ、俺何にも協力してないからな?」
その隣には不思議な気配の魔女が居る。
「先生と呼べよ〜?あと敬語な」
背伸びをして、ぺし、と軽く頭を叩いた。
「へいへい。でもあの人探して意味あります?大抵の事は自分でどうにかできるでしょ」
「…この間いなくなった時は火神から賜った刀を折って、持ってきた」
その場の温度が下がる。
「ついでに所有者の骨も折った。馬鹿も重症で帰って来たがな」
ここは北極だったようだ。
「屋敷も半壊させたらしい」
早く…早く探し出さなければ…分かったものではない。
「まっ、待ってください!火神から貰った刀?もしかして桃源家のやつですか!?」
「あぁそうだ。しかも『鬼怒』だ」
「“最初の火神”様に貰ったやつじゃないですか…マジ何やってんだよ。クソじゃねぇか」
「そうだ。あれはクソで馬鹿でどうしようもないんだ」
彼の師匠はそう断言した。
「え、そしたらこのまま放置はまずくない?心当たりないの〜?」
「無い」
「前回はなんで桃源家に行ったの?」
「……私が『鬼怒』を見てみたいと言ったからだ」
「それだけ…?」
「馬鹿はそう言っていた」
呆れた。寒気がする。もし彼にこの師匠の事を語らせたらどうなるのだろうか。考えたくもない。その話を聞く羽目になった人は不幸と言わざるを得ないだろう。
「メイさんがいなくなる前の会話って覚えています?」
「原因になりそうな言葉は覚えているが行動に移せるような事は言っていない。ほら、あとひと月で“あの日”になるだろう?だから私は…」
『焼かれたり、拷問まがいの事をされて死ぬよりは痛みを感じず安らかに逝きたいと思うよ。仙人になった以上、無理な夢だがな…』
「それだー!!ごりっごりに原因だよそれ!」
「仙人様、知っているとは思いますが、この世には言っていい事と悪い事があります。これはダメな事です。特にあの人には」
「いやっ、まて、じゃあこれをどうやって叶えようとするんだ?生と死は水神の領分、しかもまだまだ先の未来の事だぞ!?どう考えても神の…」
そう、神の仕事だ。
仙楼の遥か北の上空ある神都に住まう神の。
冷や汗は、止まらない。
ここから行けば、少なくとも2週間は掛かる。しかも“あの日”が近いせいで神都周辺、特に火神の住む地域には蒸し焼きにされそうな程の熱風が吹いている。そのため、陸路も空路も危険になる。
「メイさんって魔法の扱いバカ上手いし、仙術だってもう何100年も前に履修し終えてましたよね…?」
魔力が高く、魔法の扱いに長けているエルフでも流石に厳しいだろう。だが、彼は仙人の弟子だ。仙術は身に付けている。頑張れば行けない訳じゃない。
そして幸か不幸か、
彼は師匠の為なら何でもやってしまう。
3人は神都に向かう事を決意した。




