諦めて
「あーなるほどなるほど。キミの気持ちはよく分かった」
自分の師匠の死因が知りたいそうでその理由を訊ねてみると大体1時間ぐらいだろうか、その師匠がどれほど素晴らしいか美しいか事細かに、本当に細かく語ってた。
お陰で面識がないのに具体的な顔がイメージできてしまう。
重度の依存症と見た。
やばい人も居るものだ。怖いね。
「叶えてくださいますか?」
「無理」
「何故やってもらえないのでしょうか」
圧が強い。“やれ”と言われている気がする。
(絶対神への信仰心とか毛ほども無いな)
「やるやらない以前にボクには“できないね”その人仙人らしいじゃないか。」
「仙人だとできないのですか?」
「そうだね。自己の研鑽によって付け足された時間があまりにも長すぎる。聞いた限り人間の体で数百年もしかしたら1000年生きているんだろ?……必ず肉体より魂の方が先に朽ちる。魂が死ぬってどういう事か分かるかい?」
「精神の死と同義と聞きました」
「そう。精神が死に近づくほど肉体もそれに引っ張られる。自発的に死のうとするんだ。だから、どんな事でも死因になり得てしまう。多すぎてボクじゃ全てを視きれない」
「…」
「もし、狂ってしまった愛しい人を見たくないのなら先に殺しておくことをお勧めするよ。自ら狂いたい人なんていないしね」
(その場合、キミは後追いしそうだけど)
メイは聞き終えると色の違う両眼を瞼で隠し、“分かりました”とだけ言って帰っていった。
はぁ、とため息を吐き椅子に深く座り直す。
「狂う前に死んでしまったら楽だろうなぁ」
そんな戯言をほざきながら。
(にしたって、よく神都に単身乗り込めるな)
その無謀な勇気は賞賛に値する。地上から来るには遠すぎるし、仙人の住処である“仙楼”からでも少々きつい距離だろう。それに加えて、今の季節で神都周辺を飛行するにはかなりの魔法の腕前が必要だ。
(一応、昼寝でもしておこうかな?)
前回とも、前々回とも違う展開に少し不安を覚えた。何も視えないからと言って自発的な行動をしない、今回の風神の気持ちもちょっとだけだが理解できる。
しかし、壁掛け時計の針を見て、そんな時間はないことに気がついた。
「そろそろ…かぁ」
重い腰を上げ、この部屋から出て行こうとする。
質素な作りの重い扉は、どこからともなく鳴ったぱちん、という音と共にギギ、と音を立ててゆっくりと閉じていった。




