襲撃
あのニュースから一週間が経過していたが、なにも進展はなかった。警察は捜査をつづけているようだったが、町にはなんだか重い空気が漂っている。
「何も分からない、か」
誰も歩いていない道路を窓から見つめながら俺はつぶやいた。
ここ三日は事件がおさまらないことなどから、学校は臨時休校になり、生徒はできるだけ外出しないようにと言われていた。
いつもならこの時間は下校する学生たちで多少の賑わいを見せていたはずの道路である。
訳が分からないまま、家に箱詰め状態なのはつらいだろうな。クラスチャットの会話では遊びに出かけているやつもいるようだ。
しみじみつぶやいた俺は、なんだか不釣り合いなほど晴れ渡っている空を見上げながら、瞑想をするために布団の上で柔軟を開始した。
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誰もが寝静まる真夜中に、俺はランニングの用意をしていた。
「よしっ、行くか」
日課だったランニングを明るい時間に行うのはなんだか気が引けたので、俺は真夜中にランニングをしていた。
今のところランニング中に目立ったトラブルはない。以前と同じく、たまに巨大な『気』を感じるだけである。
「ふぅ」
気功の訓練の効果なのか、体力がつき、走ってもなかなか心地よい負担が来ない体になってしまった。
グルルルルルルル……
「ん、犬か?」
なんだ?
よく見てみると、遠くの林の中に真っ黒な大きめの犬がこちらを見て佇んでいた。瞳孔が輝いており、小さな光が夜闇に沢山浮いているように見える。
「おかしいな」
このくらいの距離ならば気配で存在に感づいたはずである。
「まったく気配を感じないぞ」
疑問を感じながらつぶやいたその瞬間、
「「「ウォォォーーーン」」」
一番大きな犬が遠吠えをあげた。その瞬間、
「ッッッッ、!!?」
俺はとっさに腕を振りかぶり、直感で急所をガードした。
「グッッ!」
黒い犬が一匹ずつ両腕に噛みついていた。
(まったく近づくところが見えなかったが、とんでもないスピードで移動したのか?)
全身の気を強化し、右足で犬を蹴り上げようとしたとき、突然噛みついていた犬が消えた。
(は?)
二匹の犬は少し離れたことろに移動し、こちらを睨んでいた。
俺は次の攻撃に備えるために、全力の気功で体を強化した。
俺の気に反応し、犬が少し身構え攻撃の姿勢をとったとき、
「ガァァッ」
突然前の犬が消え、黒い靄とともに電柱の影から這い出て、俺に向かって跳びついてきた。
(そういうことか!)
「オラッ!」
今度はしっかりと反応できていた俺は、首に巻いていたタオルに気功をこめ、すれ違いざまに急所めがけて振りぬいた。
「ギャンッッ」
殴った犬は鳴き声をあげてから動かなくなった。
「フッ……!」
俺はその勢いのまま加速し、影に潜ろうとしていたもう一匹のところまで駆け抜け腕を振りぬいた。
「ふぅ、フォルムは犬じゃなくて狼っぽいな」
とりあえず危機が去って緊張をといた俺は、そこでようやく夜闇につつまれた街のあちこちから悲鳴がきこえ、警報音が鳴り響いていることに気づいた。