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朝の学校で俺は健二と話していた。
「昨日いきなり北署の刑事さんがうちに来て、ほんとに驚いたんだよ、」
「まじ?やっぱ相当苦戦してんのかなぁ」
と、やや不安そうな感じで健二はつぶやく。
(「明日は我が身」か……)
幸いなことに今のところ近くで事件の被害にあったという話は聞かないが、なんだかじりじりと距離を詰めて、自分のところまで近づいてくるような恐怖がこの事件にはある。
「そういえば、昨日もまた北区の森で集団の変死体が発見されたらしいぞ」
八月にもなり暑さのピークを迎えているこの教室で、健二はけだるそうにつぶやく。
「また北区でも出てきたよな、一瞬落ち着いた気もしたんだが」
と、俺も少しだるそうに言うと、
「なんか律はあんまり興味なさそうだなぁ。修行以外のことも大事だと思うぞ?」
と、どこか安心したような、そんな声で健二は返事をする。
「おう、そうだな、わかってるよ」
と、欠伸をしながら返すと、
「まさか律、お前昨日も修行ばっかりしてたんじゃないだろうな」
と、あきれたように言ってきたので
「まさか、少し考え事してたんだよ」
と、本当のことを言ったのだが、
「熱心なのは良いが体が一番の資本なんだからな?」
と、言われてしまい
「おう、悪いな、心配かける」
と、思わず謝ってしまった。そうこうしてるうちにチャイムが鳴り、授業が始まりそうになった。
「お、はじまるか」
「おう、今日も頑張るか」
と、そこまで頑張る気もないが俺は返事をする。
「それでは一時間目の授業をはじめます」
『おねがいしまーす』
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<東都捜査所轄>
「まったくどうなってるんだ、これで何人目だ!」
「まあ五十嵐先輩、落ち着いてくださいよ、怒ってもどうにもなりませんよ……」
「ああ、分かってるよ、そんなことは」
五十嵐は少し気まずそうに資料をデスクの上に置く。
「とはいえ、何も手掛かりがないのも事実ですよね、殺人か病死かもはっきりしない。
唯一の手掛かりと呼べそうな少年も、なんてことはない普通の少年でしたしね。」
もう田代は眉間にしわを寄せ、深刻そうな面持ちでデスクに両手をつく。
「このまま増え続けるならお手上げだぞ、ほんとに」
「そうっすね……」
『--------!--!!!--』
「なんか少し騒がしくないか?」
五十嵐が外の騒音を聞いてそうつぶやいたとき、
「五十嵐さん」
一人の刑事が走りこんできた。
「どうした?」
「ちょっとこれ見てもらえませんか、」
「ん?動画、か?」
「ええ」
「なんっすか、新情報ですか、?」
田代も一緒に画面をのぞき込んだ。
・・・・
映像には夜に夜景のきれいな郊外のスポットで、明日の天気をリポートするキャスターが、突然燃える瞬間が映り込んでいた。
田代は難しい顔をしながらつぶやいた
「なんっすかこれ、CG?」
「普通ならそうだが、テレビの生中継の映像だよな」
「ええ、それが問題なんです。」
刑事は難しい顔をしながらこたえた
「生中継ではこのようなCGはありえない、と?」
「ええ」
「ふむ、本当に、訳が分からないな。事件現場には他の署の刑事が行ったのか?」
「ええ」
「とりあえず他の署の報告が上がるまで待つしかないな」
この事件は五十嵐にさざ波のように嫌な予感を感じさせていた。
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深夜、俺は家で、今日の夜のテレビ中継での事件についてのネットニュースを見ていた。
「正直なにがなんだか分からないが、巨大な『気』がキャスターを覆っている」
(事件の原因は『気』なのか。それならおそらく、あの刑事さんたちが俺を訪ねてきたのは正しかった。確かに俺はランニングのとき、気が集まっている場所に何度も遭遇した。なんだか少し罪悪感がわいてきたが)
「俺も、もしかしたらこうなっていたのかもしれない」
自分が燃えるのを想像すると、背中に冷たい汗が流れた。