少女
森を『気』の反応を頼りに進んでいった律は、『気』の周辺に人間の気配が多数あることに気が付いた。
「もう手遅れだったか?」
律は霊獣と人間が交戦しているという事態を想定し、走る速度を上げる。
「馬を奪え!!馬車の中はその次だ!」
律が『気』がある場所にたどり着くと、盗賊のような恰好をした者達が一台の馬車を襲っているところだった。
「させるか!」
馬車を護っている兵士はほとんど倒れており、立っているのが残り一人というところであった。
「【桜一文字】」
瀕死の兵士にとどめを刺しに行く盗賊を寸前のところで止める。
「何もんだてめぇ。」
邪魔をされた盗賊は斬撃が飛んできた方へと切っ先を向ける。
「…………。【波桜】」
大量の桜が盗賊たちを馬車から遠ざけるように押し流す。
「うわぁ!!?なんだこれは、虫か?桜か?」
「ひるむな!!」
「馬は抑えたか!?」
「抑えた!!」
「ずらかるぞ!」
やけに連携が取れた盗賊たちは馬が目的だったのか、律という新手の登場ですぐに森の奥へと逃げて行った。
「大丈夫ですか!?」
律は一人だけ生き残っていた兵士のもとへと駆け寄る。
「いや………。この通り、もう長くなさそうだ。」
兵士は腹の傷を抑えながらつぶやく。
「助けてくれてありがとう………。最期に、頼みがある。これを下沢郡の郡都にある『定食屋数野』の数野大志郎に、渡してくれ。それと、馬車の中、生き残りがいるはずだ。その子を助けてやってくれ。」
兵士は懐から紙を取り出すと律に押し付ける。
「頼む。報酬は俺の手持ち全部、やる」
「わかった。必ず届ける。馬車の中の人も助けよう。」
律は紙の束を受け取り、返事をする。
「中の子は、郡には、渡すな。大志郎に、保護してもらってほしい。」
「了解した。」
「いい目だ。頼む。お前、名前は………?」
兵士は律の目を見て微笑むと、大の字になって倒れ込んだ。
「夜桜流桜聖、夜桜律。あなたの名前も教えてほしい。」
「ははっ。まじかよ。最後の最後でこんな桜聖なんて生きた伝説に会えるとはな。俺は曽根崎 宗。大志郎組の仲間。」
「間に合わなくて、すまない。俺がもっと急いでいれば………。」
律は唇をかみしめながらつぶやく。
「あんたがほんとに桜聖かは知らんが、本当なら、桜聖ってのもちゃんと人間なんだな。できればでいい大志郎に協力してやってくれ。」
「ああ、できることはさせてもらう。」
「そうかい。そりゃ、心強ぇ。大志郎に、あとは頼むと………。」
「…………。必ず伝えよう。」
律は宗の目を閉じさせると、馬車の方へと走っていった。
「『気』の気配は馬車の中からしている………。」
律の心臓は『気』に近づくにつれて速く波打つ。馬車の入り口から中へ入る。
馬車の中には、縄で縛られている、銀白色の髪をもつ少女が気を失って倒れていた。
「おい!大丈夫か!?」
律は少女の縄をほどき、ためらいながらも駆け寄る。
少女からは律が追ってきた『気』が発せられていた。少女が持っているにしては、あまりにも大きな『気』が内包されていることに気づき、律の動きは固くなる。
「どういうことだ?聖域転移は54年前だ。」
律は今まで使うのを避けていた鑑定を使用する。
ーーーーーーーー
日月 璃音
種族:人間
………バチッ
「!!!?」
ステータスを見ようとした律は、何かにはじかれる。
「馬鹿な………。」
(鑑定の妨害はより格上か、同格の存在にしか効かない………。人間が仙人の鑑定を妨害するなんて、不可能なはずだ。途中までは見れたから、同格か少し格下程度か。)
律は驚きを隠せずに、しばらく佇む。律が霊樹から習った通りであれば、仙人は人間よりも存在の格が上なため、鑑定を妨害可能だという話であった。逆に、霊樹は仙人よりも格が上なため、律の鑑定を妨害可能であった。
実際、霊樹との修練では、律は何度も鑑定を妨害されていた。
「どういうことだ………。」
考えても謎は深まるばかりであったが、律は少女を抱えて、取り出した布の上に寝かせると、馬車の外に出て兵士たちの遺品を回収し始めた。
「こんなところか。」
埋葬まですべて終えた律は登ってくる焦燥感に背中を押されながら、謎の少女を抱えて森を抜け、街への道を進んでいった。




