決意
「私は探索者をまとめて向かうので先に向かってください!」
部屋を飛び出した酒井は律と紗雪に叫ぶと、ロビーに向かっていく。
「分かりました!」
律は返事をすると、紗雪とともに建物を飛び出した。
「実際、スタンピードが起こるとどのくらいやばいんですか?」
律は迷宮へと続く道を駆けながら紗雪にきく。
「私はスタンピードに遭遇したことはないのですが、防衛力の低い街であれば壊滅的な被害を受けると聞いています。」
「急いだほうがよさそうですね。強化して走りましょう。」
律は体中に『気』を巡らせ、一気に加速する。
「良いのですか?桜聖の立場が露見してしまう可能性がありますが………」
紗雪は慌てて身体強化を行い律の速度についてゆく。
「実はそれほど秘密と言いうわけでもないんです。三澄さんに言わなかったのは、なんとなく面倒事が起こる気がしたからです。すみませんでした。緊急事態であれば仕方ないです。」
律は笑みを浮かべながら返事をした。
「そうですか………」
紗雪は申し訳なさそうに目を伏せる。
「見えましたね。まだ迷宮から飛び出してはいないみたいです。」
律は迷宮を囲む壁の上に飛び乗って入り口を見る。
「今の状況は?」
紗雪は駆け寄ってきた門番に話しかける。
「もう2階層は突破された!!もうそろそろ地上に出る!ここまできたら外で迎え撃つ!協力してくれ!」
あちこちに傷を負った門番は二人が援軍だと確信したようで、状況をつたえる。
「今中に人はいるんですか?」
「殿として何人か残ってる。」
「私が中を見て………
律が言葉を言いかけた瞬間迷宮の入り口をふさいでいた柵が破られ、何人かの探索者が凄まじい勢いで飛び出てきた。
「おい!すぐに魔物が来る!攻撃用意!!!」
凄まじい速度で誰かを抱えながら飛び出してきた男は、叫び声をあげる。
「由!!?」
男に抱えられた人物を見ながら慌てたように叫び声をあげる。
「三澄さん。来ます。」
律は飛び出そうとした紗雪を制止し、影から刀を取り出した。
「来る………」
心臓に直接響いているかと錯覚させるような大きな足音が響き、入り口を囲んでいる探索者の緊張の糸が張り詰める。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ついに出てくるかと思われた瞬間、入り口から必死の形相で走る少年が一人、飛び出し、それを追う魔物の群れが入り口からなだれ出て、少年を襲う。
「蓮!!?」
紗雪はまた叫び声をあげる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
必死に刀を振る少年を助けようと、入り口の近くで構えていた探索者が魔物を切り分けて進むが、届かない。少年がゴブリンに打たれ地面に転がる。
「やめて!!」
先に男に抱えられて門から飛び出してきた由が、抱えられたまま目を覚まして叫ぶ。
少年がゴブリンの一撃で命を散らそうとする直前、壁の一部がはじけ飛ぶほど強く踏み切り、周囲に薄く桜の花を纏った律が一直線に飛来する。
「【桜一文字】」
少年へと攻撃するゴブリンの上に着弾した律は、そのままゴブリンを押しつぶし、群れに向かって刀を横に一振りする。
律が刀を振るった軌道をなぞるように桜の斬撃が波紋のように広がる。一寸の後、ゴブリンの上半身が生々しい音をたてて地面にずり落ちた。
「少年!立て、とりあえず壁まで引くぞ。」
律は斬撃が届かなかったゴブリンや、すぐに回復して向かってくるゴブリンをさばきながら、尻もちをついたままの少年の腕を引く。
(少年が隣にいる状況では強力な範囲攻撃が打てない………。最初から桜聖の立場を前面に出して一人でやればこんなことには………。少年を戻した後で殲滅するしかないか。)
律は少年を護るように戦い、壁を目指して敵を切り伏せる。
(せめて自分で立ってくれれば、片手が空くのに)
「少年!!」
律は呆然としている少年を片腕で揺さぶる。
「は、い。はい!あ!」
ようやく気を取りなおした少年は、律の顔を見て目を見開く。
「いいか、自分で立って動くんだ。怖いのは分かるが君も探索者………君は朝の………?」
「桜聖殿!?」
「君は朝の手続きの時の………管理部職員ならシャキッとする!いいか、今から君を桜につつんで壁まで飛ばすから、壁にいる人達に俺の近くに寄らないで壁の上で待機するように言うんだ、いい?」
律はゴブリンの攻撃を防ぎながら話す。
(ここからは桜聖として、ふるまうべき、なのかな。)
律は会合の前に伊織から言われた言葉を思い出していた。
「へ!!?飛ばす?待機?あっ僕はアルバイトで職員では……」
少年は何が何だか分からずに返事をする。
「今から範囲攻撃を打つ。命令は壁の上で待機。これは桜聖からの命令。いいね?」
律は口調を有無を言わさぬものへと変え、少年に命令する。
「ひゃ、はい!」
少し震えながらもしっかり返事をする少年を見た律は、少年を桜で包み、壁まで飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
飛ばされた少年は、壁の近くの地面に降り立ち、周囲の探索者に律の言葉を必死に伝える。
「範囲攻撃がきます!壁の上で待機です!」
突然飛んできた少年に駆け寄った探索者たちは、少年の言葉に反応する。
「範囲攻撃、あの飛んでった人がそう言ったのか?」
探索者は、凄まじい勢いで魔物の群れを倒している律を遠目に見ながら言う。
「はい!とにかく!速くしないと」
「おい!みんな!いったん退避だ!」
声を聞いた探索者たちが駆け寄ってくる。
「どうした!?倒さねえと壁が破られるぞ!」
「いったん退避する!範囲攻撃がくる!」
「待ってくれ!あの姉ちゃん達が結構先まで行っちまってる。」
集まった探索者がゴブリンを切り分ける紗雪と由を見て叫ぶ。
「姉さん達………」
少年が少し離れたところで戦う紗雪たちを見ながらつぶやく。
「二人で先に行ってるのか?」
「ああ、どんどん行っちまった………」
「あの嬢ちゃん達を何とかしないと」
最初に少年の話を聞いた探索者がつぶやく。
「少年、名前は?」
「蓮です。」
「あの飛んでった人には悪いが、退避はできそうにないぜ。」
探索者たちは頷きあうと、再び魔物に向かおうとする。
「待ってください!!」
蓮は、信念がこもった目で動きを止めた探索者を見る。
「あの人は夜桜流桜聖です。退避命令は桜聖としての命令だと、言っていました。」
「「……………………」」
探索者たちは目を見開くと、確かめるように戦う律を見る。
「それは、ほんとか?」
「はい、間違いありません。恐らく、人が近くにいると強力な攻撃を放てないのだと思います。」
蓮は探索者たちを見上げながらつぶやく。
「おい、お前ら、腕の立つ奴ら以外は壁の上に退避。小数で嬢ちゃん達を迎えに行こう。蓮の言ってることが本当なら、俺らは足手まといだ。」
「だが、流川さん、あの二人もう桜聖のところまで行きそうだぜ。」
一人の探索者が紗雪たちを見て言った。
「そう、だな。あそこまで行けば桜聖さんが何とかするか。よし!俺たちの仕事は終わった!壁の上に行くぞ!」
流川の号令を聞いた探索者たちは急いで壁に上り始め、蓮だけが心配そうに紗雪たちのことを見ていた。
「姉ちゃん………」




