桜
「おはよう……」
病院での出来事の次の日、目を覚ました紗雪は、眠たそうに目を細めながら、同じ部屋で暮らしている、由に話しかけた。
「おはよう~紗雪。早いね、紗雪は今日も迷宮に行くの?」
由は朝食を手早く作りながら言った。
「行く。」
「気を付けてね~、最近はイレギュラー個体がでることもあるって聞くし」
由は少し心配そうにつぶやいた。
「わかってる。大丈夫。由は買い物?」
紗雪は軽く髪をまとめて聞く。
「そうそう。午後からは弟とデートだよ~」
由はニヤッといたずらっぽく笑みを浮かべながら紗雪を小突いた。
「そうですか。楽しんでください。」
紗雪はつまらない、といった様子で返事をする。
「なに~。冷た~い。紗雪ちゃんは、デートしないの?弟いないから彼氏とか?」
由は出来上がった朝食を机に並べながら、目を細めて紗雪を見た。
「いないから。デートとか、しないし。私には目標があるの」
紗雪は突き放すようにこたえる。
「ふーん。そんな紗雪ちゃんも、運命のような恋にっ」
由はわざとらしく演技をしてふざける。
「落ちない。」
紗雪は黙々と朝食を食べると、自室へと戻り、武器の手入れを始めた。
「それじゃあまた~」
「うん。楽しんでね」
二人は一緒に家を出ると、それぞれ反対方向へと歩き出した。
「所属麗梅流です。」
紗雪は迷宮に着くと、入場手続きを済ませ、迷宮へと足を踏み入れた。
「少し低層のレベル帯が高くなってる?」
紗雪は流れるような剣技で、力の強いゴブリンの攻撃を受け流し、その力を利用し、敵を切り殺していた。
(ここは人の目があるし、少し下にもぐろうかな)
迷宮にいる人間からの視線を感じた紗雪は、下を目指して迷宮を降りて行った。
「ジャイアントゴブリン……。レベル58ならいける」
紗雪は目の前のジャイアントゴブリンの前に出て、攻撃を誘い、流麗な動作で急所を狙って倒してゆく。
「ふぅ。」
紗雪は持ってきていた水筒の水を流し込み、一息つくと、道を進んでいった。
「またジャイアントゴブリン」
(レベル60……ぎりぎりかな。今日は引き返そうかな)
紗雪が敵のレベルを見て、引き返そうとしたとき、紗雪の後ろからもジャイアントゴブリンが現れ、退路をふさがれる。
「っっっ!見つかった!」
前方のゴブリンが紗雪を見つけ、【魔力纏】で体を強化し、突進してくる。
「なんでいきなり襲い掛かってくるの!?」
紗雪は衝撃を受け流しきれず、後ろに飛ばされ、今度は背後のジャイアントゴブリンに気づかれる。
「【魔力壁】!」
受けきれないと判断した紗雪は、とっさにスキルを発動し、攻撃を防ぐ。
(こっちのレベルは……69!?下の階層から来たの?まずは前のゴブリンを倒してから、それから、それから)
紗雪はいきなりの状況に思考がまとまらず、壁を背にしたまま、その場に立ちすくむ。
隙ができた紗雪を見て、ジャイアントゴブリン二体が襲い掛かってくる。
(【天歩】!)
空中を駆けて攻撃を何とかかわした紗雪は、躱しざまに魔力による斬撃を飛ばし、弱い方のジャイアントゴブリンをけん制する。
(速さは私の方が上!)
素早く懐に踏み込み、弱い方のゴブリンの急所を突いて殺した紗雪は、そのままの勢いでもう一体のゴブリンに切りつける。
(いける!)
剣を振って二体目も同じように急所を突いた紗雪だったが、魔力に覆われた表皮に防がれ、刃が届かない。
「がはっ」
目の前で隙をさらした紗雪は、ジャイアントゴブリンの拳をくらい、剣を吹き飛ばされ、地面に転がる。
(そんな、あいつが纏ってたのは魔力纏じゃないの!?私の剣が通らなかった…………やばい……どうすれば……)
ジャイアントゴブリンは動けない紗雪のもとへとゆっくりと進み、拳を振り下ろす。
紗雪は思わず目を閉じて、その時を待つ。
「え?」
拳が振り下ろされず、ゴブリンの悲鳴が聞こえた紗雪は、ゆっくりと目を開ける。大量の淡く輝く桜が幻想的に宙を舞い、その場を覆いつくしていた。
「綺麗…………」
その光景に目を奪われ、釘付けになる。
紗雪が呆けていると、ジャイアントゴブリンを倒した人物が紗雪に話しかけた。
「大丈夫ですか?」




