手続き
「平時には桜聖の仕事は少ない。事務処理はそれ用に人員を割いているからじゃ。よって、迷宮でレベルを上げたり、道場で修行や後輩を指導したりする。基本的に自由行動じゃ。」
朝、律は本部にある家で、祖父と話していた。
「自由行動?俺も自由に動いていいの?」
律は新調した服と外套に身を包み、外出の準備を始める。
「ときどき五十嵐から域内のことを教えてもらうこと以外は基本自由じゃ。」
龍玄は玄関へと進む律を見送ろうと立ち上がりながらこたえる。
「了解。じゃあ街でもみてくるよ」
「迷宮に行くときは受付にカードを見せて手続きすれば大丈夫じゃから。いってらっしゃい」
龍玄は壁に立てかかりながら律を見送った。
「了解。いってきます。」
「迷宮、ね。霊樹からも聞いてたけど、どんな場所なんだろうな」
律は街のメインストリートを歩きながら考えていた。
(じいさんも迷宮の持つ本当の危険性は知ってるみたいだったけど、一応直接見ておきたいよな)
「平屋建てばっかりだけど、やっぱりかなり発展してるな……あ」
道沿いに並ぶ店を見ながら進んでいた律は、武器屋を見つけ、吸い込まれるように店内へ入っていった。
「いらっしゃいませ~。」
店に入ると、カウンターにいた店員が笑顔で挨拶してくる。
「どうも」
律は置いてある武器たちに意識が向いてしまい、ぼそっとだけ挨拶を返す。
「これは、安いな。波紋がない。金属を削っただけか?」
「それはお金の無い門下や、迷宮探索者の方のために造ったものなんです」
律が大量に置いてある刀を見て不思議そうにしていると、店員が話しかけてきた。
「そうなんですか」
(軍刀みたいな感じなのかな)
「奥の武器を見てもいいですか?」
「ええ。もちろんです。」
店員は律を店の奥へと案内した。
「鍛冶師によって展示コーナーを分けております。」
律は感心するように武器に見入る。
「綺麗ですね……」
「こちらはこの街でも一二を争うほどの腕を持つ鍛冶師の作品です。」
店員は律が見ている刀を見ると、説明を開始した。
「この方の作品の特徴は……
「なるほど。勉強になりました。」
律は店員の話が一通り終わったところで、詰まっていた息をはいた。
「いえいえ。すこし熱が入ってしまいました。申し訳ございません。」
「そうだ。投擲武器と薙刀を見たいのですが、良いですか?」
「承知いたしました。こちらへどうぞ」
「こちらが投擲武器です。」
「おぉ。広いですね……」
律は目の前の光景に驚きながらつぶやいた。
「これでもこの街で一二を争う武器屋ですので」
「この飛針を30本ください。」
律は端が木製の長い針のような暗器を指さして注文した。
「30本ですか?かしこまりました。」
店員は別の店員を呼んで指示を出すと、今度は薙刀がある場所へと歩いてゆく。
「これください」
律は大量生産の薙刀を持ち上げて言った。
「これ、ですか?これは大量生産品ですので、耐久性に乏しく、補償もありませんが、よろしいですか?」
店員は疑うように律を見て告げた。
「大丈夫です」
「あ、会計は夜桜本部でお願いします。」
カウンターに付いた律はカードを取り出しながらこたえた。
「これは、しょ、承知いたしました。こちらの用紙に記入とサインをお願いします。」
店員は名前、所属や購入目的、階級などの欄がある用紙を取り出した。
「書き終わりました」
「はい。ありがとうございます。こちらが薙刀と飛針です。ケースと飛針用のベルトはサービスになります。またのご利用お待ちしております。」
店員は商品を渡すと、出てゆく律を入り口まで送って深く頭を下げた。
「よし、迷宮行ってみるか」
街から少し離れた迷宮区と呼ばれることろに着いた律は、さっそく迷宮に入るため、迷宮管理部の建物に訪れていた。
「あの、新規で、迷宮に入りたいのですが」
「はい!ではカードの提示と、こちらにお名前のご記入お願いします!」
律が話しかけると、受付にいた少年が元気に案内をした。
「はい。これカードです。」
律は少年にカードを渡し、用紙に記入を始める。
「書き終わりました。」
律は少年に話しかけるが、少年はカードを見たきり固まって動かない。
「あの、書き終わりましたよ?」
「おおおお、桜聖!?」
少年は一気に顔を青くすると、カードをもって震え始める。
「はい、そうです。でもあんまり大きな声では言わないでください。」
律は唇に人差し指を当て、しーっと言った。
「しししし失礼しました!すぐに用意します!」
「おおおおおお、お手数をおかけして申し訳ありません。」
少年は顔を青くして手を震わせながら入場許可証とカードを律に渡した。
「いえ。決まりなので。桜聖だからと特別扱いはされたくありません。じゃあ、ありがとうございました。」
「あ、あの!」
「はい?」
律は呼び止められて、振り返るが、そこにはプロポーズするように手を伸ばして硬直する少年の姿があった。
「もし、よければ、、握手を、していただけませんか……」
「へ?」
律も一瞬固まるが、冷静さを取り戻して、少年の手を取る。
「はい。握手くらいなら。手続きありがとうございます。それでは私はこれで」
律はそう言ってその場を去る。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「おいどうしたんだ飛鳥馬!?大丈夫か!?」
少しすると管理部の建物から謎の奇声が響いたが、律は聞こえないふりをした。




