◇紗雪
「それで~なんでそんなに機嫌が悪いわけ~?」
夜、病院の前にあるカフェで、二人の少女が向き合って食事をとっていた。
「べつに、いつも通り。」
少し機嫌が悪そうに席に座っているのは、律が屋上で出会った少女だった。
「嘘だぁ~」
おどけるように返事をする茶色がかった髪の毛の少女は、向かいに座る友人の瞳をのぞき込む。
「嘘じゃないから。」
「お待たせしました~オムライスです~」
店員が料理を持ってきて、二人の会話は中断する。
「「ありがとうございます。」」
「それで、なんでなのさ~。はやくげろっちゃいなよ~」
「……食事中。はしたない、黙れ由。」
「ぐはっ!紗雪~いつもよりきつくない~?やっぱり不機嫌~」
由、と呼ばれた少女は、友人の過剰な反応にさらに好奇心が刺激され、さらに探りを入れる。
「違う、くそ由、馬鹿由」
オムライスを口に運び、少し表情を柔らかくした紗雪は、目の前の友人をさらに罵倒してゆく。
「ちょ~と。紗雪もはしたない~」
「で、なんなのさ、」
食事を終えた二人は向かい合って再び話を再開した。
「べつに、屋上で、人にあった、だけ」
紗雪は綺麗な黒髪を少しかきあげ、目線を横にずらして返事をした。
「なんでカタコト。それで、屋上の人がどうしたのさ」
由は続きを話すように促す。
「べつに、面会カードの返却、押し付けられただけ」
紗雪は話はこれで終わりだ、と言わんばかりに腕を組んだ。
「押し付けられた?誰かお偉いさんにでも会ったの?」
由は話が見えずに眉根を寄せる。
「分からない。気づいたらいなくなってた。」
「それって。なるほど。紗雪は自分が気配を感じられず、その人をとり逃したのに機嫌を悪くしてるってことね。」
由は、ようやくわかった、と薄ら笑いを顔に張り付けた。
「うるさい。」
「にしても、紗雪が気配をつかめないって、何者なんだろうね~」
由は髪の毛を軽く整え、紗雪の顔をのぞき込む。
「わからない……。でも立ち姿とか、多分私よりずっと強い」
紗雪は不機嫌そうにつぶやく。
「ふ~ん。紗雪よりってそれ相当強いじゃん?お偉いさんってのも案外当たってるかも?」
「多分、由と二人でかかっても負ける。気配が全く感じられなかった。完璧な魔力操作か、隠密系極めてるか。」
紗雪は座席から外を眺めながら真剣な顔で考える。
「まあ、気にする必要ないんじゃない?私たちは私たちで、頑張ろうよ。今日もこの後迷宮行く?」
「今日はもう遅い、由はどうする?」
「私は今から行こうかな〜、明日用事あって行けないから」
由は使っていた座席を整理すると、席を立ちながらつぶやいた。
「そう、明日は休日だもんね。じゃあ今から軽めに行こう」
紗雪はそう言うと、立ち上がった由に続いて支払いを済ませて店を出た。




