屋上
「はぁ、さすがにこたえるな」
健二の病室を離れた律は、病棟屋上の木陰に隠れたベンチに座り、暗くなった空と目の前に広がる街並みを眺めていた。
「わっ……!」
律がベンチで黄昏ていると、後ろから小さな悲鳴が聞こえた。
「ん?」
律が振り向いた先には、鋭さを感じさせる目つきの帯剣した少女が硬直していた。
「すみません。人がいると思わなくて。」
少女は、驚いて見開いていた瞳を冷え切ったものに変え、その場を立ち去ろうと素早く向きを変えた。
「あ、いえ。もう少ししたらいなくなるので、どうぞ」
律は少女を引き止めるように声をかけた。
「そうですか。それでは失礼します。」
少女は少し長めのベンチの端に腰掛けると、律と同様に空を眺めはじめた。
「何か見えますか?」
律はなんとなくで話しかけた。
「空が見えます。」
「そうですね。お見舞いですか?」
律はなんとなく話さないといけない気がして話しかける。
「はい。お見舞いです。」
少女は表情をあまり変えずにこたえる。
「そうですか。それでは私はそろそろ失礼します。」
律はそう言って席を立った。
「あなたは、ここで何をしていたんですか?」
少女は射貫くような美しい瞳で律を見つめた。
「私は、街を見ていました。きれいな街です」
律は再び視線を街並みにやった。
「そうですか。もう面会時間は過ぎていますよ。きっとこのまま出たら少し怒られると思います。」
少女は少し目つきを厳しいものへと変えて律に言い放った。
「あなたは大丈夫なんですか?」
「私はお見舞いに来たわけではないので、大丈夫です。」
少女は懐の刀を少し触ると、律を見ながらこたえた。
「…………見回りかなんかですか?」
「そんな感じです。」
少女は厳しい目つきで言う。
「それは、丁度よかったです。あなたの方からこれを返しておいてもらえませんか?」
律は少女に首掛けストラップを渡した。
「え。」
少女はストラップに視線を落とし、一瞬混乱したが、すぐに返そうと律の方を振り向いたが、律はすでにいなくなっていた。
「はぁ、やっちゃったな。でもあのまま行ってたら面倒なことになってたかもしれないし」
屋上から降りた律は本部館へと戻っていった。