試験2
龍玄の合図をきいた皇は、先手必勝とばかりに律に攻め入る。
「はぁぁぁぁ!」
律は刀を抜かずに余裕をもって避ける。
(魔法を使ってくる可能性もある。余裕を持っておかないと)
皇は主導権を渡さないため、そのまま連続で切りかかる。
「くそっ!なぜ当たらない!」
皇は小声で悪態をつくと、一度攻撃をやめ、距離を取った。魔力を高めた皇は、持っている刀に魔力を通す。皇の持つ刀から炎が上がり、熱気が律までとどく。
「なるほど。それが魔法か」
律は警戒しつつ、炎を纏った刀を珍しそうに眺め、つぶやいた。
皇は驚いている律を見て笑みを浮かべると、堂々と進み出た。
「桜聖殿のころは違ったのかもしれませんが、今や、スキルも含めた技量が夜桜流です。怪我をしても怒らないでくださいね。桜聖殿?」
「心配無用です」
「はぁぁぁぁぁぁ!」
皇が刀を振ると、炎の斬撃が飛び、律を襲う。
「よっと、なるほど」
律は皇が遠距離から放つ炎撃を交わし続ける。
「ここからは本気で行きますよ。桜聖殿」
皇は先程のように律に攻撃を仕掛ける。律は刀で迎え撃とうとするが、実体のない炎は切り裂いてもほとんどそのままの勢いで向かってくる。
「なるほど。そういう攻撃か」
律は身に纏う『気』を強くし、炎を弾き飛ばして防ぐ。
「俺の炎を体一つで防いだ。だと」
「では、私もそろそろ本気でいかせてもらいます」
律がそうつぶやくと、律の影から桜が大量に飛び出し、視界を覆う。
(俺も斬撃系の技で行くか)
律は刀を構え、桜は律の周囲を旋回する。
「【桜一文字】」
律が刀を振り上げ、切り上げると、それに従って一筋に桜が勢いよく飛び出し、皇に桜が襲い掛かる。
「【炎蓋】!」
皇は炎を自分の周りに展開し、桜を防ごうとするが、ほとんどの桜は炎を突き破って皇に到達する。
(危ない。止めなかったら大怪我させるところだった。ここまで簡単に終わるとは思ってなかったけど……)
律はひやひやしながら花びらの勢いを弱め、ぴたっと皇に付着させた。
「勝負あったのでは?」
律は祖父の龍玄を見て言った。
「そうじゃな」
龍玄はそう言って呆然としている皇を見た。
「お、俺は、まだ負けてません!しっかりと防ぎ切ったではありませんか!」
皇はそう言って食い下がる。
「いや、あれは夜桜桜聖が直前で攻撃をやめたんだ」
五十嵐は腕を組みながら皇を見据える。
「いや、そんなはずは……。俺の炎蓋が一撃で破れるなんて」
皇はそう言われてもなお、認めようとしない。
「みっともないぞ。日頃の手合わせで技術不足を認識し、それを糧に強くなるのがお前たちに求められていることだ。」
五十嵐は俯いた皇に言い放つ。
「それは……。ですが、本当に防ぎ切ったと……」
「夜桜桜聖、皇桜蝶は納得できないようだ。どうする?」
龍玄はそう言って律に問いかける。
「皇桜蝶、怪我をさせてしまうかもしれませんが、続けますか?」
律は皇に問いかける。
「続けます。」
皇は律を睨み宣言する。
龍玄は様子を見ると、再び開始の合図をする。
「では、はじめ!」
「ぐわぁぁぁっぁ」
合図と同時に皇に付いていた桜が皇を軽く切り刻んだ。律はその隙に皇に接近すると、刀を皇の首に添えた。
龍玄はため息をついて終了を告げる。
「試験はここまでとする。」
「今回の試験の結果は桜聖および人事部と相談し、後日通達する。今日は集まってくれたこと感謝する。これで解散とする。」
龍玄は踵を返し本館上階へと向かい始め、桜聖達もそれにつづいた。
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武道場を出た律たちは階段を上がっていた。
「就任初日から災難だったな!」
歌代は笑いながら律の背中をたたく。
「いえ。こうなることは予想できてましたし、犠牲になってくれた皇桜蝶には少し申し訳ないです。」
律はぎこちない笑みを顔に張り付けてこたえた。
「そうですね。桜聖としての力量を示すための見せしめ、という面もあったのは事実です。」
伊織は律を見ながら言う。
「ですが、皇桜蝶の素行が悪かったのも事実です。そこまで気に病むこともありません。」
「その通りです。まったく気にする必要はありません」
五十嵐は律に笑いかける。
「そういえば、人事部ってなんですか?」
律は武道場のことを思い出しながら五十嵐に尋ねた。
「ああ、人事部というのはその名前の通り夜桜流に所属する者の役職などを決定する部署ですよ。我々桜聖と桜主の5人だけで昇格や降格を決めると不公平だと思われる可能性があるので、初桜以上の階級の者からランダムで20人選び、任期一年で人事部という部署を作っているんですよ」
「なるほど。」
律は感心したようにうなずく。
「それと、桜人以上の階級では新しく席に着くものに対する不信任拒否権があります。反対者が全体の2分の1以上になると人事部に昇格差し戻しで再考となり、4分の3以上になると昇格は白紙になります。」
伊織はさらに詳しく昇格システムについて説明し始めた。
「結構複雑な運営になってるんですね」
律はぎこちなく笑いながら返事をした。
「律、聖域の中での常識について、五十嵐に教えてもらうといい。前の世界を知っている者の方が良いじゃろう。五十嵐桜聖、頼むぞ」
龍玄は五十嵐と律を見て言った。
「わかりました。お任せください。」
「よろしくお願いします。五十嵐さん」
律は五十嵐に礼をし、ちょうど一行は人事部のある8階に到着した。