会合
階級:桜主>桜聖>桜蝶>桜人>桜下>初桜>師範>師範代>門下(師範は師範以上の階級と兼任も可)
その日、夜桜流の初桜以上の階級の者たちが突然本部に召集された。何があるかも知らされず召集がかかるのは、魔物関係の緊急事態か、もしくは上位の階級の者に何かがあった時のみだった。そのため、会場には重苦しい空気が流れていた。
「おい、緊急の召集はいつぶりだよ」
桜人の席に座る二人は突然の召集の理由について話していた。
「最近はなかったからな。迷宮から魔物があふれてるか、聖域外から誰かが引き連れてきたか。聞きたきゃないが、誰かの訃報ってとこか。」
「スタンピードか訃報だと事前に伝わることが多いだろ。それがないってことは、迷宮の下層でなんかあったか、聖域外か。どっちにしろいいことではなさそうだな」
「はぁ、桜聖の人たちは基本優しいけど、目の前に来るとやっぱり怖いからなぁ。できるだけ会いたくない。」
席について待っている者たちの何人かは、何かをやらかしてしまった後で、先生が来るのを教室で待っている生徒のようにそわそわしていた。
「魔力圧がなぁ。抑えきれてないよなぁ。でも俺らの門は優しいだけ恵まれてるだろ、、他の門派はもっと階級主義らしいし……」
「そろそろ時間じゃないか?お、来るぞ」
部屋に五十嵐が到着し、話し声が鎮まる。
「五十嵐桜聖。今回は何事ですか?もし緊急事態であれば、ぜひ私にやらせて下さい。」
桜蝶の席に控えていた皇が我先にと発言し、五十嵐の言葉を遮った。
「集まってくれてありがとう。今回は緊急事態が生じたのではない。心配をかけたようで、みんなすまないな。今回の議題は新しい桜聖についてだ。」
五十嵐がそう言うと、会場内に大きなざわめきが起こった。
「新しい桜聖だって?ついに桜主のお眼鏡にかなったやつが現れたのか?お前、知ってるか?」
「いや、俺は知らないな。」
その中で皇はニヤリと笑みを浮かべていた。
(ついに桜主も俺を桜聖にする気になったか!)
皇は席を立つと五十嵐の座る席の近くへと歩き始めた。
皇が五十嵐の隣に着いたころ、会場の扉が開く音が鳴る。
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道場を出た後、律たちは下の階へと向かっていた。
「律くん、階級についてはある程度知っているんだよね?」
伊織は隣を歩く律に確認する。
「はい。階級の名前と序列くらいは……」
「そうか。それは良かった。桜聖はこの組織の上から二番目の位に位置する。当然ある程度の規律が必要なんだ。僕がわざわざ言うまでもないかもしれないが、毅然とした態度で頼むよ。律くんは優しそうだからね。少し心配になって」
伊織は優しく笑いかけながら信念のこもった目で律を見た。
「はい。わかりました。ありがとうございます。」
律は真剣に返事をする。
「そうかい。安心したよ。当然威張るようなこととは違う。周囲に見られる状況では、桜聖として動いてほしい、ということだよ。」
「プライベートではある程度ゆるくても大丈夫だぞ。俺は、桜人に仲良いやつがいてな、よく飲みに行くんだ。」
歌代は人のよさそうな笑みを浮かべると、律の肩をたたく。
「律、今回の会合は正式なものだ。聖域外から帰ってきてすぐなのは理解するが、儂からもよろしく頼む。」
龍玄はそう言うと目の前の扉を開く。
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「皆、突然の召集に応じてくれたこと、感謝する。今日は新しい桜聖を発表しようと思う。」
部屋に入った龍玄は、部屋を見渡しながら言った。
「皇はそこで何をしている。何もないのであれば席に戻るが良い。」
五十嵐の隣で動きを止めていた皇は、顔を赤くしながら席に戻る。
「皆も新しい桜聖が気になるだろう。さっそく、紹介しようと思う。」
「正確には新しく、ではないが、保留のような状態になっていた桜聖の席に正式に就任することになる。儂の孫にあたる。夜桜律だ。聖域外から奇跡的にも帰還した。律。」
龍玄が呼ぶと同時に、律は一歩前に出る。
「はい。今回、正式に桜聖に就任する、夜桜律だ。聖域外から帰ったばかりで至らない点はあるかと思うが、同門として、ともに修行し技術を磨いてゆきたいと思っている。よろしく頼む」
律は軽く頭を下げるが、会場内はざわめく。
「魔力を全く感じないぞ、、」
「完全に隠しているのか?」
「子供じゃないか、だが待てよ、桜主のお孫さんとなると、実年齢はもっと」
「あいつは……」
律の実力を疑う声や、逆に歓迎する声。
皇はギリっと唇をかみしめ、律を睨む。
律は龍玄や伊織と目を合わせた後、何かを決めたように会場を見渡す。
「私の実力を信じることができない者もいるようだ。」
律は携えていた刀を鞘ごと杖のようにして地面に突いた。
律は練りこんだ『気』を放出し始め、会場内の者を押しつぶすような重圧が襲う。刀を突いた地面に同心円状に亀裂が広がる。律の周囲が陽炎のように揺らめく。
「納得できない者もいるだろう。今、名乗り出てほしい。挑戦に応じる。正式に桜主に認められれば、私の代わりに桜聖になれることだろう」
律は一度『気』を鎮め、会場を見渡した。