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本部


 聖域の中には、それなりに発展した町が広がっていた。高層ビルなどはなく、すべて木造の建物だが、整備された美しい街並みがならんでいる。

 その中に、少し張り出た岩山に張り付くようにして立っている城のような建物があった。その建物の周囲には桜が植えられ、広めの公園になっている。


「綺麗な建物だな」

律は大きな城のような建物を見ながらつぶやいた。


「あれは夜桜一門の本部です。」

泉は大きな建物を指さしながら言った。

「あれが………大きいですね。」


「それだけ夜桜一門の影響力が強いってことですよ」

律のつぶやきを聞いた西城が建物を見据えながら言う。

「武門系の派閥は東西南北の門をそれぞれ守っている。この建物以外にもこんな感じの建物があと三つある。」

丹野は自分の刀をさすりながらつぶやいた。


「武門系以外に、中央府という貴族系の組織もあります。」

黒井が遠くの方を指さしながら言った。


「中央府の建物は聖域の中央にあります。聖域内は結構広いので、中央府まではわりと遠いです。」

泉はそう言うと本部の方へと進んでいった。


 その後も色々と聖域内のことを話していると本部にたどり着いた。


(桜の木が綺麗だな。っていうか今、桜の季節だったか?花びら拾ってもいいかな、やっぱりダメかな。)

律は考え事をしながら入り口に近づく。入り口から出てくる人の気配を感じて横にずれ避ける。


「……おい、この俺が見えないのか?」

出てきた人が律に向かって話しかける。

「見えていますが、どうかなさいましたか?」

律は何ということもなく返答する。


「ほう、見えていて何もしないと、この桜蝶の皇 正輝(すめらぎ まさき)に対して。入り口の隅によって通るか、もしくは礼でもするべきだ。次期桜聖とも目されるこの俺に対して。」


「桜蝶、なるほど。上から三番目の階級のことですね。それはすまなかった。あなたが桜蝶だとは知らなかった。」

律はなるほど、とうなりながらこたえる。

「知らなかった、と。この桜に蝶の紋様を知らないものはいないはずだ。他の門派であってもだ!」

(すめらぎ)と名乗った男は威圧的な態度で律の目の前に立つ。


「他の門派?夜桜流の階級はあくまで門派の中での武術の技量を示すものと聞きました。門派の中で、より高い段の者や、師範に敬意を払うのは必要でしょう。だが、それを外の者にも当てはめるのは間違っている、と私は思います。」


「なんだと?お前は夜桜一門を侮辱するのか!」

皇は激昂し、持っている刀に手を掛けた。

「侮辱しているのはあなただ。門を貶めるような行為はやめてほしい。」


両者は一触即発の様子で向かい合う。


「何をしてるんですか!」

歩いて先に行っていた泉がようやく事態に気づいて帰ってくる。

「気づくのおせぇよ」

西城がやれやれ、と首を振りながら小声でつぶやく。

((なぜ言わなかった!?))

泉は、声量をおとし、小声でつぶやいて西城をどつく。

((俺は四大門派じゃないんだぞ!?へたに桜蝶なんかに目を付けられたら、師範や師兄に迷惑かかるだろ!だいたい隊長が気づくの遅いんだよ!))


「なんだお前たちは。今俺はこいつと話してるんだ。邪魔するな」


「この方は桜主殿のお孫さんの夜桜律桜聖ですよ、桜蝶殿。」

泉は(すめらぎ)と律の間に入って言った。


「そんなわけがないだろう!桜主殿のお孫さんは54年前に取り残され、おそらく亡くなっている。この私に嘘を吐くとは……」


「本当のことです。桜蝶殿。」

泉は皇を前にして一歩も引かない。

「その男からは魔力が微塵も感じられない。そんな男が外界で生き残ったと?冗談を言うな!そんな奴魔物を前にすれば一瞬でやられるだろう」


「いえ。本当です。」


「そうか、お前たちはそんなにも俺を馬鹿にし、門を侮辱するというのだな。ここで一度痛い目を見ておくのが今後のためだろう。」

皇は手を掛けていた刀を鞘ごと抜き取ると、泉の意識を刈り取るため振り払う。


「話も聞かずに暴力に頼るとは、俺の流派も堕ちたということか。」

泉は律に担がれ、少し離れたことろまで移動していた。


「どうやって避けた?」


「技量も堕ちた、と。はやくじいさんに会いたいんだ。悪いがあなたにかまっている暇はない。」

律は泉を抱えたまま受付のところへ進もうとする。

「待て!!この私をここまで侮辱するか!」

皇はそう言ってそのまま律に切りかかる。


次の瞬間には皇は地面に転がされていた。

「は?この、私が?」

皇は顔を真っ赤に染め、すぐに起き上がり飛び掛かる。


「俺は、急いでいる。」

泉を地面に降ろした律は『気』を右腕に纏い、皇の刀を舞うように避け続け、時には右腕でいなす。

「なぜ避ける!戦わないというのか!」


「お前ほんとに桜蝶なのか?」

(弱すぎる)

律は、一瞬だけ左腕にも『気』を纏い、すきのできた皇の鳩尾に軽く手を触れると、皇が息を吐いたタイミングで『気』を鳩尾を貫通させるように放出した。

「がッ。ぐ、ぅ」

皇は呼吸困難で地面にうずくまる。


「うそだろ、桜蝶がやられたぞ」

「何者なんだあいつは?」

周囲で成り行きを見守っていた者たちは予想だにしない出来事にざわつく。



「夜桜様、すみません。私が至らないばかりに。すぐに上の階に案内します。」

泉は受付に歩いてゆくと何かを確認し、すぐに律を階段に案内した。


「桜聖殿、私たちはここらへんでお暇させてもらいますよ」

西城は律に笑いかけるとすぐに本部を出て行き、黒井は軽く一礼して出て行った。

「私も、自分の道場に戻ります。」

丹野はそう言うと踵を返し去っていった。


「じいさんは何階にいるんですか?」


「桜主殿は最上階の十一階にいらっしゃいます。十一階は正確には本部館ではないので、この階段からは行けません。途中までの道は私が、ご案内します」


「そうですか。よろしくお願いします。」

律はそうつぶやくと、何かを考えこみながら階段を上がっていった。



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