門
「まあ、桜聖殿がそうおっしゃるなら」
西城はニヤッと笑うと、後ろに下がった。他の二人も西城と同じように後ろに下がる。
「ふぅ」
(気合十分。やっぱり見られてると、いい緊張感がある、)
「木が邪魔だな」
律がそうつぶやくと、律の周囲の木々がパキパキと音を立てて枯れ始め、枯れた木々を隠すように桜の花びらが律の影から舞い上がる。
律の周りを覆い、ゆっくりと旋回するように舞っていた花びらは、次第にまとまり、高速でとぐろを巻き、律の周りを竜巻のように天に向かって巻き上がってゆく。
魔物達は異常な木々や、周囲の様子に思わず立ち止まり、その元凶である律の様子をうかがって武器を構えた。
(お前たちは、考える脳を失ったんだろう、だったら……)
「せめて一瞬で、逝かせてやる」
「【龍桜】」
天へと昇っていた桜が一筋の巨大な龍のようになって魔物達の上へと降ってゆく。魔物達は悲鳴を上げる間もなく粉微塵になって散った。
「ふぅ」
ため息をついた律は深紅の水溜まりの中に佇んでいた。
「終わったな。ここいらの魔物はやっぱり手ごたえがない。」
『気』を一気に体外へ放出し、返り血を吹き飛ばした律は門に向かって歩き始めた。
「すみません。お待たせしました。」
律は門の前で待っていた四人のもとへ追いついた。
「桜の花びらを操作して切りつける技ですか?ミノタウロスの傷はもしかしてこれで?」
律の技を見ていた泉は顎に手を当て、考えながらきいてきた。
「ええ、そうですよ。強化した桜の花びらを使った技です。」
律が桜の花びらを一つ取り出しながらこたえる。
「にしても、えぐい技っすね。」
西城が血の水溜まりを見つめながらつぶやく。
「一枚一枚が小さいから、防ぎにくい。しかも一枚でも当たれば場所によっては致命傷になる。」
丹野は律の手の上の桜を見ながらつぶやく。
「弱点もありますけど。まあ、とりあえず中に入りましょうか」
律はそう言って開いた門の中へと入ってゆく。
「そうですね、入りましょう。夜桜一門の本部館はすぐ近くにあります。」
泉は四人の先頭に立ち、門へと進んでゆく。
「待ちなさい。」
門番の一人が律に話しかける。
「外出記録のある四人は中に入れることができるが、そこの君には取り調べを受けてもらわないと。」
門番は律のことを見据えて門の中の、岩山に埋め込まれるようにして建造されている建物を指さした。
「だから、この方は行方不明だった桜主のお孫さんだと言っただろう。」
泉はそう言って門番に詰め寄った。
「そうは言っても、一応取り調べくらいはさせてもらわないと。人に化ける魔物は確認されていないが、警戒はしておくべきだ。決まりは決まりなんだ。」
門番はそういうと五人を建物の中に案内する。
・・・・ウイーン
木製のふすまのような戸の前に立つと自動で開く。
「自動ドアあるんだな……」
「夜桜一門は研究施設をもっていて、このドアはそこで開発されたものなんです。名前は自動ドアです。」
自動ドアに驚いていた律を見た泉が説明する。
「研究施設?」
「俺は、聖域転送時に運よく技術者が多かったって、きいたことありますよ」
西城は補足するように続いた。
「きいたことあるって、歴史で習っただけだろう西城。戦闘職の人たちは技術を絶やさないように優秀な技術者を守ったときいています。」
黒井は顎に手を当てながら何かを思い出しながらつぶやく。
「なるほど」
「そこに座ってください。」
門番はエントランスにある席に律を案内した。
「今回は泉さんの話もあるので、簡単に終わらせようと思います。その代わり、この後すぐに本部に行ってくださいね。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「では、ここにお名前と年齢の記入お願いします。」
門番は書類と筆を取り出して指示する。
「はい、年齢は、私って何歳くらいだと思います?数えてなくて」
律はうなりながら頭をかいて担当の人に聞いた。
「聖域転移は正確には54年前です。とりあえず聖域転移前の年齢に54を足してください。」
「わかりました。」
(71歳か。複雑だな。転移前のじいさんくらいだ)
「はい。大丈夫ですね。それでは泉さんについて行ってください。あと、本部に着くまでは泉さんから離れないこと、これを約束してください。」
担当の人は、いいですね?と確認すると書類をもって席を立った。
「わかりました」
律は礼をして泉たちのものへと歩いて行った。