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到着


「そうでしたか、そんなことが……」


「夜桜さんのことは俺らから言っておきますよ。」

西城はいたずらっぽく笑うと自分の弓の手入れをはじめた。

「はい、お願いします。そろそろ出発しませんか、?」

律は祖父が生きていると聞いてから、はやく聖域に行きたくてうずうずしていた。


「ええ。そろそろ出発しましょう」

泉は仲間に呼びかけて出発の準備を始めた。










「では、行きましょうか!」

泉は張り切って歩き始めた。

「あの、泉さん、実はもっといい移動手段があるんですが……。それでいきませんか?」

律は少し遠慮しながらも、おずおずと挙手して四人に提案した。


「もっといい移動方法?」


律は自分の影から大量の桜の花びらを出現させた。

「うわっ。何ですかこれ、桜?」

西城は突然出てきた桜に驚きながら花びらを手に取って確認する。


「これに乗って移動しましょう!」

律がそう言うと桜は五人を覆うように球を作り、空中に浮上した。


「わわわわっ!これ大丈夫なんですか!?目立ちそうですけどっ!」

泉は突然球状になった足場にバランスを崩し、転びそうになっていた。

「心配いりません。ここらの魔物では桜の膜を破れないですから。」

律はそう言うと『気』を練って、桜の球を一気に加速させた。


(さっき思い付いてやってみたのは初めてだったけど、大丈夫そうだな、)










「あとどのくらいありますか?」

律は桜の膜に穴をあけ、外を見ながら、四人に聞いていた。

「このペースで行けば、今日の夕方には着きそうです。」

丹野は俯きながら律の問いに返事をした。


「そうですか!それはよかった」


「桜聖ってほんとにこんなんばっかりなのか……」

西城はため息をつきながら泉の方をみた。

「私には分からない。師範代には桜聖と会う機会なんてないからな。せいぜい遠目に見るくらいだ。だが、桜聖はそれぞれ奥義のようなものを持っていると聞いたことがある。」


「奥義、ですか。うちの流派に決まった奥義はないはずですよ。」

西城と泉の会話をきいていた律は、首をかしげて言った。

「そうなんですか!?」


「うちの流派は、基本の動きを叩き込んで、あらゆる状況に対応できるように練習します。攻守、変幻自在の動きが売りの流派です。よく言えば「いいとこどり」、悪く言えば「器用貧乏」というところでしょうか。」


「ですが有名な桜聖は、その奥義が二つ名になって、名を轟かせているという方もいらっしゃいます。」

泉は何かを思い出すようにつぶやいた。

「おそらく各自の技術なんでしょうね。祖父は必殺技のような技はあまり好きではなかった、と記憶しています。私は必殺技にも魅力があると思ってますけど」

律は自分にとっては数年前の祖父との会話を思い出しながら言った。


「桜主の技は桜聖しか知り得ませんが、間違いなく最強。夜桜流内部でも派閥はありますが、対立が深刻なものにならないのは桜主の強さ故だと言われています。」

泉は嫌なものを思い出した、という様にこたえる。


「そうですか、そりゃあ会ったこともないような奴が重役の席を占領してたら、気持ちよくないですよね。」

律は苦笑いしながら泉に笑いかける。

「いや、そんなことは……」


「気になってたことがあるんですが、その階級制度は日常生活での地位にかかわるような強力なものなんでしょうか、?祖父がそういうものを作るとは思えなくて。」


「ああ、桜主はただの武術の腕前の階級だとしています。ですが、生活での地位に結び付いてしまうといった部分があることは否定しません。それを利用して脅す、といった事件が起きたこともありました。」

泉は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、こぶしを握り締める。


「武家よりの流派の派閥以外にも貴族みたいな特権階級があるんですよ。階級制度はそれに対抗するような感じで作られたんです。」

西城は俯いた泉の代わりに律に対して説明した。


「聖域に入れば面倒事も多くなるかもしれない。どうか気を付けてください」

ずっと黙っていた黒井は律の目を見据えて言った。




「そろそろ着きます。」

『探知』を使っていた丹野が一方を指さして言った。


「あれが、聖域ですか?」

律の目線の先には岩山がそびえたっていた。

「ええ、聖域は切り立った岩山(いわやま)で囲まれた盆地になっています。」


「もっと結界のようなバリアがあるのを想像してました」

律はもう目の前に迫ってきた岩山を見上げながら言った。


「岩山に沿うように結界はあります。ですが、結界の効果は魔物が近寄りにくくなるというもので、物理的な効果はないので、岩山で魔物を防いでるという状況です。」

泉は岩山を指さして説明する。


「これどこから入れるんですか?」

律は入り口が見当たらないのを心配してつぶやいた。

「入り口は東西南北にそれぞれ一つずつで、四つあります。今回は西門を使いましょう。西門を管理しているのが夜桜一門なんです。」

泉はすぐ近くです、と手で促しながら案内した。しばらく進むと岩肌に紛れるようにして大きめの入り口があるのが見えてきた。

 律は桜の船を降ろして影にしまうと、門を観察した。門の上には三日月と桜の花びらの紋様が彫られていた。


「うちの家紋だ」

律はボソッとつぶやく。

「はい。夜桜一門が管理する門なので、夜桜流の家紋が彫られています。」

泉は、少し待っていてください、と言い残すと門まで走っていった。






「桜聖さん、あっちから魔物が、たくさん」

律が泉を待っていると丹野が森の奥の方を見ながら武器を構えた。

「聖域に入ってしまえば追ってこないのでは?」

律は不思議そうにきいた。


「聖域は寄ってこないようにする結界だから、人の出入りがあると魔物が寄ってきちまうことがあるんですよ」

西城が心底面倒だ、といった様子で肩をすくめる。

「それが理由で聖域からの人の出入りには制限があるんです。出て行った奴らが魔物を引き連れて来たりしないように」

黒井は、門の前で門の管理をしている人と話している泉を横目で見ながら説明した。


「聖域への魔物のトレイン行為は罰則事項。外から入る場合は、ついてきてしまった魔物をきっちり処理しないといけない。」

丹野は刀に手を添えながら森を見据える。


「そうでしたか。」

説明してくれてありがとうございます、と三人に告げた律は三人の一歩前に出た。


「ここは私にやらせてください。肩書だけもらって何もしないのは、、胸の奥がもやもやしますから。」

律は三人に笑いかけると、魔物がいる森の方に向き直った。


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