起床
「おはようございます。朝ごはん出来てますよ」
律は目を覚ました泉に向かって自分の隣をすすめながら言った。
「う、ん?おはよう?朝……?」
泉は目をこすりながら返事をする。
「ええ、朝ですよ。」
律は笑いながら空を見上げた。
「ほんとだ……。じゃなくて、申し訳ない!夜桜さんに任せきりになってしまったのではないだろうか。ほんとうに申し訳ない!」
泉は、他の三人の爆睡具合をチラチラ確認しながら、ものすごい勢いで謝った。
「いえ、心配いりませんよ。強敵は来ませんでした。」
律は夜に戦った魔物の残骸を見た。
「強敵、って、あんなに」
泉は土で覆い隠されている魔物の残骸を見て、驚きに目を見開いた。
「あの角は、一種ミノタウロスじゃないか」
「一種?」
初めて聞いた言葉に首をかしげながら律が聞き返すと、
「ミノタウロスは角の色で強さがだいたい分かるんです。黄が三種、青が二種、赤が一種、それ以外が零種です。数字が少なくなるほど強くなる」
「そうですか、零種が来なくてよかったです。」
律はなるほど、とうなずきながら朝食の肉を頬張った。
「ええ、にしてもこの傷口、、どんな攻撃をすればここまでミノタウロスをぼろぼろにできるんだ?」
泉は小声でボソッとつぶやくが、律には聞こえなかったようで、律はそのまま食事を続けた。
「おい!起きろ!お前ら、朝だぞ!」
一通り残骸の確認を終えると、泉は他の三人を起こしにかかった。
「……ん?隊長?朝……?」
丹野はゆっくり起き上がったが、あとの二人は飛び起きて武器を構えた。
「んぁに、敵ですか!?」
「敵!?」
「敵が来たのは昨日の夜だから……」
泉が落ち着け、と言い聞かせながら朝食の席に着かせた。
「すみません。夜桜さん。」
「「申し訳ない。」」
席に着いた三人はようやく状況を理解し、気まずそうに頭を下げていた。
「いえ。それほど強敵は来ませんでしたし、問題ありませんよ。スキルのせいで睡眠もあまりいらないんです。気にしないでください。それより、食べましょう。」
律がそう言うと、三人はほっと息をついて朝食を食べ始めた。
「少し、行ってきます。」
律は近くに魔物の気配を感じたため、席を立とうとする。
「私も、行きます」
丹野が食事を切り上げ、ついて来ようと席を立った。
「なんだ、?魔物か?」
西城が周囲を警戒しながら、聞いてくる。
「うん。魔物。私と夜桜さんで行ってくる。」
「私一人でも大丈夫ですよ?」
律がそう言うと、
「森では最低二人行動が基本……」
丹野はそう言ってどうしても着いてきたいようだった。
「なるほど、分かりました。では行きましょう。」
律は立てかけてあった刀を持つと、魔物のいる方へと進んでいった。
「いましたね、オーガ二匹です。私がやりましょう。」
律はそう言うと魔物の前に歩いて行く。
「あ、ちょっと。そんなに前に出たら!」
丹野は律の予想外の行動に慌てながらもついて行った。
「「ガァァぁぁぁぁぁぁ」」
律はオーガが襲ってくると、刀を抜き放ち、瞬時に二匹の首を切り裂いた。
「敵の強弱も分からないとは」
律は憐憫の眼差しでオーガの死体を見た後、一応後ろにいる丹野の無事を確認した。
「大丈夫でしたか?」
「…………」
丹野は声を失って固まっていた。
「どうしましたか?」
律が不思議そうに問いかける。
「……その、動きは…………」
丹野はまだ固まって動かない。
「戻りましょう?」
律がそう言って戻ろうとすると、心ここにあらずといった様子ではあったが、丹野は律の後ろからついてきた。
(いったい何に驚いてるんだ?魔物の方はそこまで強いというわけでもないのに。)
律も疑問に表情を硬くしながら歩く。
(迂闊なことを言うと、墓穴を掘りかねないし)
二人は無言で森の中を通り、テントまで戻った。