会話
「やっと来たか……」
何もない森の開けた場所で佇んでいた律は、待ちわびた存在に気づき、立ち上がった。
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「おい、ここは聖域の外だ。絶対、注意を怠るなよ」
黒の外套に身を包んだ男性は過剰なほど周囲を警戒しながら森を探索していた。
「そんなこと言っても、花梨さんの『探知』に引っかからないなんてことはないでしょう」
弓を持った軽そうな男性は、首をすくめながら、やれやれといった様子で返事をする。
「私の『探知』でも感知できない敵はいます。各自でも警戒はしておいてください」
帯刀した女性が軽そうな男性を睨みながら言った。
「お前ら、余計な会話は謹んで。」
迷彩柄の外套に身を包んだ女性は軽口をたたいていた三人を注意しながらも、緩めることなく歩みを進めてゆく。
「おかしいですね、情報では霊樹はこの辺りなのですが、、私の『探知』にも異常ありません」
「泉隊長~どうしますか、?」
軽い男性は迷彩柄の外套の女性に話しかけた。
「このまま警戒を続け……
「あなたたちが、聖域からの方々ですか?」
「「「「!!!!?」」」」
聖域から来た四人は、突然話しかけてきた律に飛び上がるようにして驚いた。
「ああ、驚かせるつもりはなかった。すみません。」
「あなたは、?私たちは霊樹の観測任務で来たものですが」
隊長の泉は表向き冷静を装って、問い返した。
「ああ、すみません。人と話すのは久しぶりで。私は夜桜律といいます。」
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無事に聖域からの使者と会った律は、最初こそ警戒させてしまったが、おおむね平和的なファーストコンタクトが取れていた。
「じゃあ夜桜さんは50年ずっと外で生きてきたんですか?」
軽そうな雰囲気の西城晴也は律に疑いの目を向けていた。
「ええ。信じられないでしょう。」
律は西城に笑いかけた。
「私は丹野花梨といいます。私の『探知』にかからなかったのはどうしてですか?」
「そうだ、花梨さんの『探知』にかからなったですよね」
西城は丹野につづいて律に疑問を投げかけた。
「それは多分私のスキルのせいですね。」
律は顎に手を置きながら考える。
「そんなスキルが……」
丹野は自分のスキルが破られたことがショックなのか、俯きながらつぶやいた。
「私は隊長の泉という。ここにいたはずの霊樹について知っていることがあれば教えてほしい。私たちはそのためにきたんだ。」
泉はそう言って律に頭を下げた。
「ああ。霊樹ですね。霊樹はちょっと前に魔物化したので、私が倒しました。あなたたちのことは霊樹から教えてもらいました。」
律は空を見上げ、泉の質問に答えた。
「そう、でしたか」
「名乗り遅れたが私は黒井亮という。我々も一年前に霊樹からそのことをきいていた。無事に倒せたようで何よりだ。」
「ええ。ところで、聖域まではどのくらいかかるのですか?」
律は話題を変えようと問いかけた。
「聖域までは一週間ほどです。」
隊長の泉が律に探るような目を向けながらこたえた。
「ああ。自分の身は自分で守りますよ。心配いりません。」
律は手にもっている刀に触れて言った。
「とはいえ、霊樹がないんじゃここにも魔物が来るかもしれませんね」
西城がめんどくさいといった顔をして言った。
「皆さんは長旅で疲れているでしょう。食料は私が取ってきます。」
律は森へと入ろうと歩き出した。
「え、いや、私たちは食料を持参しているんです。」
泉は少し申し訳なさそうに手元の食料を見せた。
「なるほど。では、私の分の食料を取ってきますね」
律はそう言うと森の中に消えていった。
「泉隊長。彼、どう思いますか、?」
律が森に入ったあと、四人は集まり、律について話していた。
「少なくとも敵ではなさそうだが、50年も生き残っていたというのは正直信じられん」
「彼、私の『探知』をすり抜けてます。相当強いんじゃないですか?」
スキルを破られたことが丹野の心にかなりの衝撃を与えているようだ。
「強いなら安全に聖域に戻れてラッキーじゃないですか、何をそんなに深刻そうに。」
「素性の知れないやつを連れ帰って何かあれば、我らの責任にされかねないぞ」
四人のこそこそ話は律が帰ってくるまで続いた。