不思議な光
「なんだよ……これ」
こうつぶやく俺の前には、幻想的な光景が広がっていた。家の裏山の奥、そこには青く輝くオーロラが学校の教室ほどの規模で発生していた。
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今年高2となった俺ーー夜桜 律は祖父に言われ、タイヤ引き訓練のための訓練道具であるタイヤを取るために裏山へとやって来ていた。律の家は、割と古くから続いている古武術の家で、小さいながらも歴史を感じる道場と、裏山を所有している。
「俺は明日も普通に学校があるんだぞ」
高2になり、育ち盛りを迎えた俺に、祖父は待ってましたと言わんばかりのハードな修行を課している。
放課後もその修行をやることが多いため、クラスではなんだか浮いた存在になってしまっていた。唯一の仲の良いと呼べる友達は同じクラスの瀧谷健仁くらいだが、なぜか健二にも修行バカと思われているようである。
一度くらい青春漫画のような展開があったら良いなと夢想する毎日だ。
「はぁ」
そんなになってもそこまで憂鬱にならずに学校に行けているのは、やはり健二の存在が大きい。
健二は、一見とっつきにくそうな雰囲気だが、話すとかなり気さくで空気も読める男で、イケメンである。そんな健二と仲がよさそうだと思われている俺は、とくに嫌な気分になることもなく無難に生活を送れている。
「修行修行って、はぁ」
タイヤ引きは修行の一環で祖父曰く、「タイヤを引けば嘘のように足が速くなる」とのことだ。最初は今までの訓練よりは楽で、タイヤを引くのが何となく楽しかったので、素直に進めていたが、後になってやらかしてしまったことに気づいた。
少し楽しそうな俺の様子を見た祖父が、タイヤを大型車のものに変え、数を増やすなんてことを言いだしたのだ。
そんなこんなで俺は今、裏山にあるらしいそのタイヤを確認するために、一人裏山に分け入っている。
「はぁ……ほんとに倉庫なんてあるのか?」
パキパキと地に落ちた小枝を折りながら奥に足を進めてゆく。裏山の管理は、かなりしっかりとされていて歩きやすく、前の代で植えた木が間隔をあけてきれいに天に向かって伸びている。
「ん?」
一瞬少し遠くの地面が光ったように見えた。
(もしかすると倉庫の防犯ライトかもしれないな)
すこし速足に光った場所へ駆け寄ると、なんてことはないただの少し開けた空間があるだけだった。
「おかしいな」
とつぶやいたその瞬間、青い光が視界を埋め尽くした。
「なんだっっ!!?」
ゆっくりと目を開けるとそこには青く幻想的な光が薄いカーテンのように折り重なり、揺れ動いていた。
この世のものとは思えないその光景に律は思わず見入ってしまい、息を呑む。
「なんだよ……これ」
オーロラが日本の、しかも地面のすぐ上で起こるなんて話は聞いたことがない。不思議に思い、なんとなく光に向かって手を伸ばす。すると突然光が大きくなり、光に触れた瞬間、視界が暗くなってゆき、地面が近づいてくる。
「まず、い」
地面に倒れた衝撃とともに、俺は意識を手放した。
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「う……」
(随分と長い間眠った気がする、全身がだるい。)
「く、そ」
俺は目を開け、ひとまずなんとか体を起こそうとするが、なかなか体がいうことを聞かない。
「うっ」
必死の思いで膝を立て、なんとか体を起こそうとしたとき、突然地面から振動音がなり、次の瞬間、森の木より少し上のあたりまで飛び上がっていた。
「……は?」
混乱の中、このままでは転落死まっしぐらだと悟り、どっと冷汗が湧き出る。
(まずいまずいまずいまずい)
なんとか衝撃を受け止めるように着地しようとするが、体が思うように動かない。今日二度目の地面の急接近に、舌だけは噛むまいと歯を食いしばり、思わず目をつむる。
(…………)
しばらくそうしていたが、背中に少しの衝撃があっただけで、想定していたほどの衝撃がいつまでたってもおとずれなかった。恐る恐る目を開くと夜の森が広がっているだけだった。無事に背中から地面に落ちたようだ。
「なんだったんだ」
だいぶ体が慣れて動けるようになり、慎重に立ち上がると、体を支えるためになんとなく隣の木に手をついた。次の瞬間、木が半ばから吹き飛び、手をついたところから真っ二つにかち割れた。
(え?)
俺はなんとなく自分におきていることを理解し始めた。
「どうすっかなぁ」
ひとまず家に引き返すことにした。