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【完結】ブラック企業で働く私が落ちた落とし穴の先はイケメン御曹司が住むお屋敷へと繋がっていました。  作者: 望月ナナコ


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79 【千代視点】

『ち、千代・・・いつからそこに・・・。』


『時継様・・・。』


顔色の悪い時継様がそこにいた。


『時継様、まだ夢から覚めないのですか?』


自然と瞳から涙が出た。


『小さき頃から時継様、あなたのそばにおりました。そして近くにいながら時継様にずっと恋心を抱いていました。楽しい時も、悲しい時も一緒に気持ちを共有してきたではありませんか。祝言を挙げる事でやっとこの想いが成就する、そう考えていました。なのに何故、何故ある日突然屋敷に現れたゆきに・・・大切な時継様をとられなければいけないのですか?何故・・・千代には愛してると・・・言ってくれないのですか?』


『千代・・・本当にすまない。』


時継様は千代に土下座する形になった。隣でゆきも静かに同じ形をとっている。


『言葉で伝えた事はなかったかもしれないが千代が大切な存在だったという事は嘘ではないし、大切な存在という事に対しては今だって変わらない。ついこないだまで千代と祝言を挙げる事になんら迷いはなかったのだ。』


時継様の言葉が身体の中に入ってきてはすぐにボロボロになって抜けていった。大切な存在?大切な存在なのにこんなに傷つけるのですか?それに・・・一番大切じゃなきゃわらわにとっては意味がないのに・・・。


『だがゆきと出会って私の中の世界が変わった。たわいもない話をする日々の中で、少しずつゆきに惹かれていく自分に気付いたのだ。そんな自分に気付きながらもすぐに周囲に伝える事もせず過ごしてしまった私に全ての否があると思っている。』


ゆきと出会って・・・世界が変わったのはわらわも同じです、時継様。きっとわらわの知らない所でのやりとりでもあったのでしょうね。


『すまない・・・どんな罰だって受け入れるつもりだ。全てを失っても構わない。どうか・・・私との祝言はなかった事にしてくれ・・・。』


頭を下げ続ける時継様は客観的に見てとてもみっともなかった。だがそんな事より嫌だったのはこれがあの女、ゆきの、ゆきとの未来のために頭を下げているとわかっていたからだ。そしてそれよりも嫌だったのは時継様に対して嫌悪感を持ってしまっている自分自身にだった。


あんなに好きだった時継様も、わらわ自身の想いも全て巻き込んでバラバラにしてしまったゆき。そのゆきが今目の前で頭を下げ続けてじっとしていた。


なんだか頭を下げているにも関わらずゆきがわらわをバカにしているような錯覚に襲われた。


泥だらけの身体に痩せた身体。確かに千代はそなたに対して酷い事をした。でも、結局一番大切な人を奪っていくんだから千代もそなたに心を殺されたといっても過言ではない。身体の傷は見えるけど心の中は見えない。残酷だな。


わらわの心が殺されたのであれば・・・それと引き換えにゆきの身体も死ぬべきであろう。


深呼吸をした。


小さき頃からずっと護身用として胸元に小さな刀を忍ばせるよう教えられていた。


まさかこのような場所で使う時が来るとはな。


『・・・もう・・・いいです・・・時継様・・・これ以上会話を続けても・・・何も解決しないと思いますので・・・頭を上げて下さい。』


そう言った瞬間、わらわは小さな刀を握りしめながらゆきに向かって行った。

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