75 【時継視点】
華々しい宴では豪華な料理が並び、煌びやかな琴の音と祝いの踊りで周囲は派手に盛り上がっていた。千代の家族や家臣も含め今は大勢の人数がこの屋敷にいる。
薄暗くなってきた空には満月の形が浮かび上がっていた。
千代と祝言を挙げた事実を飲み込まなければいけない・・・そうわかってはいつつ今夜ばかりは気持ちがふわふわと定まりそうになかった。
『ちょっと御手洗いに行って来る。』
そう言って立ち上がりふと遠くを見ると不思議とお手伝いの1人とバチっと目が合った。私を見て何やら駆け足で去っていった・・・どうしたんだ?まあ、気にする事は無いか・・・宴を円滑に進める為にいろいろ忙しいのだろう。
『時継様、私もお供します!』
『いや、一人で大丈夫だ。』
『し、しかし!』
『こんな夜に襲ってくる者などいないだろう。すぐ戻ってくるから心配するな。せっかくの宴、そなたも楽しんでくれ。』
『は、はあ・・・で、ではお言葉に甘えて。』
本音を言えば一人になりたかったが素直にそう言うわけにもいくまい。
長い廊下を歩きながらゆきの顔を思い浮かべていた。
『・・・時継様!』
そう呼び止められた瞬間は忍びに狙われたかと思って深く構えた。しかし、そこにいたのは思いがけない人物だった。
『・・・・・秋道?秋道なのか?』
屋敷を出てから何か苦労があったのだろう、そこには少し痩せた秋道が立っていた。
『時継様、お久しぶりです。』
夢かと思い目を擦ったがそこには紛れもなく家臣の秋道がいた。
『あ、ああ・・・秋道、そなた今まで一体何処へおったのだ?心配したぞ・・・ゆきは・・・ゆきは一緒ではなかったのか!?』
そうだ・・・ゆきと秋道は同時にいなくなったのだ。秋道が生きているという事はもしやゆきもまだこの世界に・・・!!
『時継様、みなの目もあります。声を静かに、落ち着いて聞いてください。ゆきも無事でございます。今は屋敷の自分の部屋に潜んで隠れています。』
『お、おお!そうか!!そうか・・・やっぱり生きていたか・・・良かった・・・本当に良かった・・・こうしてはおれん。早速部屋に』
そう言ってゆきが待つ部屋に急ごうとした瞬間に秋道に強く腕を掴まれ止められた。
『・・・秋道?』
急な秋道の素振りに私は少し動揺した。
『時継様。久しぶりにお会い出来たのにも関わらず、失礼をお許しください。今、はっきりと時継様に聞いておかなければならない事があります。』
秋道は意味もなくこんな事はしない。それは長年一緒に過ごした私が一番良く知っている。
『・・・ふむ。どうしたのだ?』
『時継様・・・ゆきが戻ってきた今、この先どうするおつもりなのですか?』




