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『覚悟は出来ているか?ここからはかなり遠いし私も屋敷までの道のりを正確にわかっているわけではない。多少は遠回りになるかもしれん。』
『はい、大丈夫です!どんなに辛くても頑張ります!』
祝言一週間前の深夜になって私と秋道さんは脱走する計画を実行に移す事にした。信頼を得た事でお侍さん達の見張りはだいぶ緩くなった。とはいえ屋敷の周りには常時何人か立っている状態だった。
日中の方が見張りの数も多いし、太陽の光で見つかるリスクが高い。暗くてみんなが寝静まった今がチャンスだ。
この日の為に秋道さんと協力して見張りのいる位置や交代するタイミングなどを把握してきていた。
月明かりに照らされて満月が近い事を感じた。もしかしたらまた満月の日にあの青い光と落とし穴が現れるのだろうか・・・そんな事を考えながらいざ出発しようとした時だった。
『・・・待て。』
『!?』
秋道さんも私も驚いて後ろを振り向くとそこには毒虫に刺されて熱を出したあのお侍さんが立っていた。
まずいな・・・こんな時間に・・・なんで起きてるんだろう?この人は日中の見張り担当のはずなのに・・・。
今大声を出されてみんなを呼び出されたらこの計画はおしまいだ。最悪の結末を予想してゴクリと唾を飲み込んだ。
『・・・戻るのか、屋敷に。』
想像に反してお侍さんから語られた言葉が意外すぎて秋道さんと目を丸くして見つめあった。
『・・・や、何日か前からなんとなく二人がそわそわしている感じがしてな。何かあるんじゃないかと気になっていた。』
『ごめんなさい・・・あの・・・なんとか見逃してもらうわけにはいかないでしょうか?どうしても屋敷に帰りたい理由があるんです!』
『・・・・・。』
お侍さんが考え込んでいる姿を見て私は床に足をつき土下座の体制をとろうとした。謝ることしか出来ないけど、謝る事なら何回だって出来る。なんとかここを通して貰わないと時継様へは辿り着けない。
『ま、待て!別に謝らなくてもよい!それに・・・謝らなくてはならないのは私の方なのだからな。』
頭を下げようとした瞬間にお侍さんに遮られた。
『薄っぺらい事情しか知らず、そなたがどんな人間かもよく考えずにあの時は酷い事をした。本当に申し訳なかった・・・もし今ここから逃げ出したいのなら私にも手伝わせてくれないか?』
『・・・え?』
『手伝うとは一体どうするつもりだ?』
秋道さんも私もお侍さんの申し出に困惑した。
『千代様の屋敷に行っていた仲間からの情報によると千代様はもうすぐご実家から時継様の屋敷に戻られる。そして祝言前日の早朝には千代様のご両親も時継様の屋敷へと出発なされるようだ。移動の際は祝言の為の祝い品を多数千代様のご実家から持っていかれるとの事。その祝い品の一部の籠の中を空にする事が出来れば小さいそなたなら入り込む事が出来るだろう。秋道殿は変装して荷物持ちの家臣のフリをすればよい。さすれば道に迷う事無く祝言の日には時継様の屋敷へ辿り着けるはずだ。』
もし本当にそれが可能なのであればありがたいとは思うけど・・・そんなに上手くいくのだろうか・・・。
『安心してくれ。この屋敷にいる者は全員仲間だ。みんなの協力があれば必ず上手く行く。』
そうお侍さんが行った途端に襖が開き他のお侍さん達が勢揃いしていた。
『私達は金で雇われた身。千代様が後々探そうにも方々に散れば足がつく事はない・・・解散するのは寂しいが天涯孤独だった私にとっては楽しい日々だったぞ!あと何日かみんなで楽しく過ごそうではないか!』
こんな風に思ってくれていたとは知らず何も言わずに逃げようとしていた自分が恥ずかしくなった。
『みなさん・・・本当にありがとうございます。』
秋道さんの方を見ると私を見てゆっくり頷いた。みんなの力を信じよう。
時継様、待っててください。
あと何日かで時継様に会える。みんなの優しさに包まれながら決意を新たにその時を待った。




