41 【千代視点】
山小屋の外に出て木々に囲まれた景色を見ながらずっと昨晩の事を考えていた。
『千代、大事な話がある。』
大事な話とくればもちろんの祝言の話だろうと思っていた。
時継様、ああ、もうすぐやっとあなたの本物の伴侶になれるのですね。正座をし、時継様の綺麗なお顔と対峙した。
もしかしたら改めてここで愛の言葉を囁かれるのではないかと密かに思っていた。そんな、身にあまりすぎる、光栄なお言葉。千代は小さき頃からずっと時継様、あなたを、あなただけを見続けてきたのです。まだまだ完璧な時継様にとっては未熟者の側面がある伴侶かもしれません。しかし、千代はこれからもあなたの為に学び続け、昇進する覚悟でいます。必ず隣にいるにふさわしい女性になってみせます・・・。
そう思った時だった。神妙な面持ちの時継様と視線がぶつかる。そしてその瞬間、何故か悪寒が走り不思議と嫌な予感がした。
『好きな人が出来た。』
『・・・えっ?』
わらわは耳を疑った。今のは何かの聞き間違いだろう。もしくはきっと冗談でその好きな人こそわらわに違いない。
でもそんな淡い期待も早々に打ち消される事になった。
『私は・・・ゆきの事が好きになってしまったのだ。』
時継様がこんなに悲しげな瞳をしているのを見たのは時継様のお父上が亡くなった時以来だろう。あの時と同じ瞳が非情にもこれは夢じゃなく現実なんだとわらわを貫いた。
恐ろしい早さで血の気が引いていくのを感じとりくらくらと目眩がしたあと、全身の力が抜けてその場に倒れた。
『千代!』
時継様が咄嗟に抱き抱えてくれた。
『大丈夫か?千代には本当に・・・すまないと思っている。』
・・・すまない?いいえ時継様、謝罪の言葉などわらわは欲しくありません。それに・・・すまないとは一体どういう意味なのですか?あなたはもう少しでこの千代と祝言をあげるはず。
・・・ゆきを好き?
・・・好き?
・・・いつから?
・・・なんで?
ぐるぐると回る思考に吐き気を覚え目の前が真っ暗になり次に気付いた時には布団の中に横たわっていた。
ぼんやり畳を眺めているとふと初めてあの女が屋敷に現れた日に時継様に抱き抱えられて目の前を通り過ぎた光景を思い出した。
自然と握られた拳に力が入る。
当たり前の日常が壊された。
あの、得体の知れない女に。
どう考えても時継様がゆきを好きになるはずなんてないではないか。
時継様は何か変な薬でも飲まされたのではないだろうか?・・・はたまたやはり忍びであって妙な術を使ったのでは?
とにかく、早急に決着をつけなければ。時継様を正気に戻すためにもわらわがなんとかしてあの女を倒さねばならぬ!




