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街に戻り、待機していたお手伝いさんと合流して時継様と秋道さんとは時間差で屋敷に戻った。
部屋に行き畳に座り込みほっぺをつねってみる。
痛い・・・。
痛みで先程の事が現実だと実感する。時継様と、両思いになれた。そしてまさかのプロポーズも受けたのだ。
プロポーズの返事は出来なかったけど、まさか誰かと家族になるなんて考えた事も無かったな。ましてやこの環境で・・・。
街の風景や一本道を思い出す。毎日過ごせば過ごす程元いた世界の生活の記憶がどんどん薄れていった。明日もし朝起きた時に元の世界に戻っていてこれが全て夢だったとしたら、私はまた上手く生きていけるんだろうか・・・。
時継様。
時継様と一緒に毎日を過ごせたらどんなに楽しいだろう。どんなに幸せだろう。でも私がこれから時継様と過ごしたいなと思っている日々は本来千代と歩むべきだった生活だ。
今まではどうせ叶わぬ想いだと思っていたからだけど、時継様からこのことを告げられたら千代がどれだけ傷つくのかは想像を絶する。時継様の事が大好きで私の事が大嫌いな千代だからこそ暴れたりすることも考えられるだろう。
時継様にはしばらく千代とは会うな、関わるなと言われていた。今私達2人が話し合っても何もまとまらないだろう、そう思っての事だった。だけど、このままでいいんだろうか・・・時継様との生活が本当に始まるなら、私は千代にちゃんと謝りたかった。あなたの大切な人を奪ってしまったこと、あなたを傷つけてしまった事を本当に申し訳なく思っていると。
そうして思い悩みながらそれから3日経った日の事だった。
『た、大変です!ち、千代様が・・・置き手紙を残し屋敷を出られたようです!!』
廊下を走りながら血相を変えて千代のお付きの家臣がその手紙を時継様に渡していた。
時継様へ
少し頭を冷やします。
探さないでください。
気持ちが落ち着いたらすぐに戻りますのでご心配なさらぬよう。
千代より
『千代・・・。』
時継様の顔を見て私はすぐに理解した。
ああ、私との事を千代に伝えたんだ。2人の間でどんなやりとりがあったかは分からない。
でも、私の存在で千代を傷つけてしまった事は確実だ。
『ゆき殿。』
罪悪感にかられている私に小声で千代のお付きの家臣が話しかけてきた。
『実は、極秘でゆき殿に渡してくれと頼まれた手紙がございます。千代様が家出された経緯を何かご存知なのですか?』
そう言って白い封筒を渡された。
『あ、いや・・・。』
まずい、今は何も言えない。
とりあえず手紙を受け取り一礼して私はその場を立ち去った。部屋の隅で恐る恐る封筒を開けて手紙を開く。




