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『ゆきに・・・伝えなければいけない事があるのだ。混乱させてしまうかもしれないが落ち着いて聞いて欲しい。』
時継様はゆっくりと身体を離すと私の目をじっと見つめてこう言った。
『私と、家族になってほしい。』
しっかりと声は聞こえたはずだけどその内容があまりにも唐突過ぎて私はすぐには反応出来なかった。
『思い返せば初めて会った時から本当は惹かれ始めていたのかもしれぬ。最初は可愛いなと思う程度だったが、日に日に自然とゆきの姿を目で追うようになっていった。だが、私は許嫁がいる身。自分の立場もあるゆえ今までは気持ちを押し殺すしかなかったのだ。祝言まであとわずか、最近はこのままでいいのかと自問自答する日々だった。』
時継様はゆっくりと私の手を取る。
『私は・・・私はゆきの事が好きだ。許されぬ事とはいえ、好きになってしまった。これから歩んでいく道、隣には必ずゆきにいて欲しいと思っている。だから・・・だから、私と家族になって欲しい。』
『時継様・・・。』
時継様の包んでくれている手の温もりがこれは現実なんだと理解させてくれた。自分の想いも、正直に伝えよう。
『わ、私も・・・時継様の事がずっと好きでした。』
本当はもっと伝えたい言葉が沢山あるのに、顔と身体が熱くなって上手く言葉が出てこない。
『そ、それは・・・誠か?』
コクリと頷いた瞬間、時継様は笑顔でまた優しく抱きしめてくれた。嬉しくて私もぎゅっと時継様を抱きしめ返す。
『千代は私のために今まで色々と尽くしてくれたしその想いも十分に感じてきた。早急に、話し合いを持たねばならぬと思っている。』
『・・・はい。』
そうだ。千代が時継様の事が大好きだって事は今まで見てきて分かっている。そして時継様の事になると周りが見えなくなる事も・・・この時暴力を受けた時の事を話そうかと思ったけど千代の時継様に対する想いを考えて思いとどめた。
『急な事で屋敷の人間も混乱するかもしれぬし、一時的に嫌な想いをさせる事ももしかしたらあるかもしれん。だが必ずちゃんとけじめをつける・・・私を信じてしばし時間をくれ。』
それからしばらくして秋道さんと合流した私達は屋敷に帰ることにした。そういえば秋道さん今までどこにいたんだろう?ま、まさか全部見られていたって事は・・・不安になって秋道さんの顔色を伺ってみたけど特に変化は無さそうだった。そ、そうだよね。でも、秋道さんは私が時継様と一緒になると伝えたらどう思うんだろう?ずっと千代の側にもいて見てきた訳だし、やっぱり反対するのかな・・・そんな事を考えながら屋敷に戻る道をまた歩き始めた。




