29 【時継視点】
ゆきが突然屋敷からいなくなった。家臣と逢引・・・そんな事、彼女に限ってあるわけがないだろう!!
しかし、だからと言って私はこの家の主。千代も近くにいる中でゆきに対して過剰に振る舞うのは良くない・・・そう心が揺れていた。
秋道がゆきを抱えて帰ってきたのを見た時、酷く安心したと共に自分の無力さを感じた。大切だと思う人を探しにも行けないなんて・・・。
もちろん千代の事を嫌いになった訳ではない。この家の為に尽力してくれている、良き伴侶に変わりはないのだ。だがしかし、この身体で話したい、触れたいと思う感情はゆきに対して日に日に大きくなっていた。
目が覚めたというゆきに早速会いに行こうとした。変なところは無いだろうかと何回も鏡を見る。準備の時間が欲しいと言われたのだが、それにしても時間がかかり過ぎている・・・もしやまた何かあったのか?はたまた具合が良くないのか・・・心配しながら右往左往している間に支度が終わったみたいなので急いでゆきの部屋へ向かった。
『ゆき・・・心配したぞ。随分支度に時間がかかっていたみたいだが、まだ具合が悪いのか?無理は禁物、今日は顔が見たかっただけだ。話はまた今度にでも・・・。』
とりあえず、会話が出来てよかったと思い立ちあがろうとする際にゆきが私のそでを引っ張ってきて思わずドキッとする。
『あ、その・・・すみません。身体の方はお陰様でかなり良くなりました。』
いかん・・・取り乱すな・・・平常心だ。とりあえず何があったのか聞かなくては。
『そうか、ゆきの家臣はあれから未だに行方不明だという。山小屋の中にいたという話は秋道から聞いた。一体、何があったのだ?』
そう言うとゆきは分かりやすく暗い顔をした。怖い目にあったのだ、思い出したくない事もあるのかもしれん。
『それが・・・ちょっとよく、覚えていなくて。気付いたらあの山小屋の中にいたのです。』
無理に聞くのは可哀想だと思い始め、はてでは何の話をしようかと思った時だった。
『あ、あの時継様と・・・お出かけがしたいです。』
ゆきから思いがけない言葉をかけられた。私からすれば本当は願ってもない言葉。だが、立場上大手を振って喜ぶわけにもいかなかった。気持ちは高ぶる。落ち着け、冷静を装うのだ。
『よかろう。』
『え?』
『よかろう、出かけようじゃないか。』
『で、でも、千代様が・・・。』
興奮して千代の存在が飛んでしまっていた。しかし、上手くやれば千代に見つからない方法は何かしらあるだろう。
『そうだな・・・まあだがそれはこちらで何とかしよう。せっかくだ、たまにはゆきと街に出て見るのもよかろう。しばし時間をくれ。また連絡する。その時までにしっかり身体を治しなさい。』
立ち上がり、私は思う。千代との祝言まであと1ヶ月。迷っている時間は無い。
『ゆきに、伝えなければならない事があるのだ。』
この想いを伝えたらゆきはどう答えてくれるだろう。もしかしたら突然過ぎて困らせてしまう可能性もあるな・・・それでも。
『え?それは・・・』
『それはまた、出かけた時に話すことにしよう。』
伝えないまま千代との祝言を迎えたらきっと後悔する。決意を胸にゆきの部屋を出た。




