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『ゆき・・・心配したぞ。随分支度に時間がかかっていたみたいだが、まだ具合が悪いのか?無理は禁物、今日は顔が見たかっただけだ。話はまた今度にでも・・・。』
時継様がそう言ってすぐに去ろうとしたので私は無意識に時継様の袖を引っ張っていた。
『あ、その・・・すみません。身体の方はお陰様でかなり良くなりました。』
『そうか、千代の家臣はあれから未だに行方不明だという。山小屋の中にいたという話は秋道から聞いた。一体、何があったのだ?』
正直に話して時継様は信じてくれるだろうか?千代はきっと問い詰められても私は知りませんとか関係ありませんとか言うだろうし。時継様を困らせてしまう事はもちろんなんなら私が嘘をついてると思われるかもしれない。あのお侍さんがどこにいるかわからない以上、こちらとしては殴られた事も、攫われて山小屋に放置された事も何も証明出来ないのだ。
『それが・・・ちょっとよく、覚えていなくて。気付いたらあの山小屋の中にいたのです。』
落とし穴に落ちて気を失ったり、刀を持ったお侍さんに囲まれたり、急に殴られて攫われたり、高熱が出て意識が飛んだり・・・覚えている限り、この世界に来てからかなり危ない目にあってきた。
そう思うと今また時継様にこうしてお会い出来て話が出来たことはなんだかとても特別な事にも思えて来る。そもそも、穴に落ちた瞬間から私の人生はあるのか、無いのか、続いているのか、いないのか、夢なのか、現実なのか・・・本当に謎が多すぎる。
どうせこの先もどうなるか分からないと思ったら先程の弱気な気持ちから少しずつ勇気が湧いてきた。
『あ、あの時継様と・・・お出かけがしたいです。』
言った途端に無言の空気が流れて気まずくなった。な、なーんて、やっぱり無理だよね・・・。
『よかろう。』
『え?』
『よかろう、出かけようじゃないか。』
『で、でも、千代様が・・・。』
『そうだな・・・まあだがそれはこちらで何とかしよう。せっかくだ、たまにはゆきと街に出て見るのもよかろう。しばし時間をくれ。また連絡する。その時までにしっかり身体を治しなさい。』
そう言って時継様は立ち上がり外を見つめた。
『ゆきに、伝えなければならない事があるのだ。』
『え?それは・・・』
『それはまた、出かけた時に話すことにしよう。』
去っていく時継様を見ながら呆然とする自分がいた。え、これは、時継様と一緒にデート出来るかもって事だよね!?やった!やったー!!勇気出して言ってみてよかった!
それから私は興奮して落ち着く事が出来ずしばらく何回も同じ場所を行ったり来たりしながらそわそわしていた。




