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橋を越えてお地蔵さんの場所に向かうと確かにお地蔵さんの前が青く光っていた。
ああ、この光の中に入れば、もしかしたら元の世界に戻れるかもしれない。そう思ったと同時に落とし穴に落ちた時の感覚が鮮明に思い出される。
真っ暗な世界の中に一人落ちていくあの感覚。つかめるところが何も無くてこのまま死んでしまうのかと絶望しながら気絶した。そう考えると青い光が今目の前に現れたとしても・・・。
近づくのが、怖い。
『ゆき、そこで何をしているんだ!』
『時継様・・・。』
どうしたものかと立ち尽くしていると時継様が後ろから声をかけてくれた。息が切れているから時継様も走って来てくれたのかな。
『これ・・・。』
そう言って私は青い光を見つめなおした。
『・・・なんだ?一体どうしたっていうんだ?』
え?
時継様は不思議そうな顔をしている。
『ここに、何か見えませんか?』
『何を言っておる。ゆきが慌てて走って行くのが見えたから急いで来たのだ。そこに、何かあるのか?』
・・・時継様にはこの青い光が見えてない!
『あ、あの・・・。』
時継様に説明しようとした瞬間にお地蔵さんの前を強く大きな風が吹いた。
『危ないっ!』
吹き飛ばされそうな私を時継様が上から強く包み込んでくれたのでどこにもぶつからず二人で飛ばされて尻餅をつくだけで済んだ。そしてその風に巻き込まれるようにしてもう一度お地蔵さんの方を向いたときには青い光は消えてしまっていた。
『怪我は無いか?』
『時継様・・・すみません・・・ありがとうございます。』
『無事でよかった・・・何があったか、ゆっくりでいいから話してくれるな。』
時継様はそう言うと私が安心するように優しく頭を撫でてくれる。
『光が・・・見えたのです。』
『光?例の青い光の事か?』
『はい。つい先程、大きな風が吹いてくるまで私には青い光が見えていたのです。でも、その中に入れば元の世界に戻れるのかは分からないし、光の中の落とし穴に落ちた瞬間は真っ暗であの時とても怖かった・・・だから光が目の前に現れてもどうしていいかわからなくなって・・・。』
涙目の私を時継様はゆっくりと抱きしめてくれた。
『大丈夫だ。ゆきはちゃんと生きてここにおるぞ。私が保証する。』
『でも、時継様には青い光が見えなかったんですよね?』
『うむ・・・もしかしたらその光はゆきにしか見えないのかもしれないな。』
『それでも・・・私を信じてくれるんですか?』
時継様は私の目をしっかり見て言ってくれた。
『もちろんだ。』
そう言われた瞬間、ドクンと心臓が痛くなった。まつ毛が長い綺麗な瞳、たくましい身体、優しい声、言われてみれば時継様はイケメンの要素が盛りだくさんだった。
それでも自分の身に起こった出来事にいっぱいいっぱいだったし、何より最初に婚約者がいると紹介されたじゃないか。だからこそ男性としてなんて意識することはなかった。
そう、この時までは。
どうしよう・・・胸が、痛い。