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赤くて大きい鳥居をくぐり街から一番近い神社にたどり着いた。この時代の神社にも何か神聖なパワースポット的な力を感じてしまう。やっぱり神様の力なのかな。
秋道さんから小銭をもらいお賽銭を入れて拝む。
・・・・・。
『何をお願いしたんだ?無事に・・・元に戻れるようにか?』
『そう・・・ですね。』
言葉に詰まったのは心の中に小さな矛盾が生まれ始めていたからだ。仕事漬けの毎日だった私がある日突然そんな日々から解放された。この世界では膨大な仕事の山に押し潰されることも、上司に嫌味を言われる事もない。
ここ何年か仕事の事ばかり考えて過ごして来た。それしか考えてこなかったからこそ、急に訪れた沢山の自由時間がある日々の中で今まで抑え込んでいた根本的な疑問が浮かび上がってくる。
幸せってなんなんだろう?
元の世界に戻ったらまた仕事に忙殺される日々が待っている。きっとこんなにゆっくり他の事を考える時間なんて作れないだろう。夢中で過ごしていた日々はあっという間ではあったけど、辛い事も多かった。
・・・・・。
私、本当に戻りたいのかな?
元の、世界に。
元の、生活に。
だからって自分にとっての幸せが何で、この世界にいたからって何がしたいとかもすぐには思いつかなかったけど。この世界にいても、結局誰かしらに迷惑かけちゃうし・・・。
神様、どうか何かしらの答えが自分の中に見えて来ますように・・・。
『秋道さんは何をお願いしたんですか?』
『それは・・・ゆきに言うことではなかろう。』
あ、名前で呼んでくれた。なんだ、時継様が言っていた通り優しくて素直なところもあるじゃないか。
そう思いながら街へと戻っている途中、なんだか遠くの方がザワザワしているのを感じた。
何事かと思って見ていると誰かが物凄い勢いでこちらに向かって全力疾走してくるじゃないか。
『泥棒だ!!!待てー!!!!!』
少し遅れて集団のお侍さん達も爆走しながらこちらに向かって来る。
え・・・。
急な出来事に私はその場に立ち尽くす事しか出来なかった。泥棒だと追いかけられている人が必死な顔で段々こちらに近づいてくる。
・・・どうしよう、身体が動かない。
その思った瞬間ぐっと身体を引き寄せられ、気が付いたら側にあった建物の隅っこに避難していた。
『ボーっとしてたら危ないではないか。
ここでちょっと待っておれ。くれぐれもここから動くでないぞ。』
びっくりして私は頷く事しか出来なかった。秋道さんはそう言うと道に出て泥棒と真っ向から対峙した。
『クソっ、そこをどけぇー!!!』
かなり興奮している泥棒は胸から隠していた小さな刃物を出して秋道さんに襲いかかって来た。
『秋道さん、危ないっっ!!』
秋道さんは向かってくる刃物を可憐に交わして泥棒の腕を捻り上げ刃物を道に落とさせた。
そしてその後すぐに思いっきり泥棒を蹴飛ばしてそのままボコボコに殴っている。
・・・秋道さん、強いんだな。