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召喚先で訳もわからず異文化交流  作者: 凪野 凪子
5/6

5.ありがとう

 

 キィ……。

 何かが軋む音がして、葵は目を開けた。

 双子に押し込められた物置き小屋でいつのまにか眠っていたようだ。変な姿勢で寝ていたせいで体のあちこちが痛かった。窓の外はもう暗くなってる。


 物置き小屋の扉がゆっくりと開かれて、葵は息を飲んだ。するりと誰かが入ってきたその人は、双子の片割れのエマだった。エマは、ハムを挟んだパンと水の入った皮の袋を差し出した。その時、ものすごくお腹が空いてることに気がついた。


「…ありがとう、ございます…」


 お礼を言ってみたものの、エマはきょとんとした顔をして首を傾げている。やはり言葉は通じないらしい。葵はパンとお水を受け取って食べ始めた。エマはその様子を微笑んで見つめていた。

 しばらくして、物置きの扉が小さくノックされた。エマが静かに扉を開けると、カイルが入ってきた。二人はやっぱり葵にはわからない言葉で会話している。そして、カイルが双子が着ているものと同じ白いカフタンワンピースとズボンを渡してきた。葵に着替えろというのだろうか?蒼は服を指差してから自分を指さした。すると、エマは笑顔でうんうんと首を縦に振った。その様子を見て、カイルは葵にに背を向けた。ここで着替えろということらしい。葵は素直に渡された服に着替えた。


「あおい…¥$€#☆」


「え…」


 カイルが先に物置小屋をでると、エマが葵に声をかけた。何を言っているかわからなかったが、口元に人差し指を立ててから、扉を指差して、葵の手を引いた。どうやら外に出るらしい。外に出ると、少し離れたところにいるカイルがこっちにくるように手振りで合図を送る。エマは、葵の手を引いてカイルの元へと小走りで移動した。


 双子の様子を見ていると、どうやら葵は双子以外の人間に見られてはいけないらしいことはわかった。見つかったら、どうなるのだろうか…。林を抜けると、少し離れたところに馬車が止まっていた。


 カイルが先に行き、馬車の扉を叩いた。開いた扉から背の高い影が見えた。カイルが振り向き、エマと葵を手招きする。エマに手を引かれて馬車まで着くと、エマはあおいの背中を押して馬車に乗るような仕草をした。馬車の中には、黒髪に深いブルーの瞳の青年が座っていた。初めて見る顔だ。葵は双子を振り返り、困惑した表情で二人を見つめた。カイルとエマは葵を安心させるためなのか、満面の笑みで頷いている。葵は訳がわからないく不安に駆られて、エマとカイルの手を握りしめた。この世界がどこかわからないが、この双子は葵が初めて接触したこの世界の人間で短い時間ながら唯一頼れる人間だと感じており、双子と離れることは葵をひどく不安にさせた。瞳に涙を浮かべる葵を見て、エマは戸惑う様子を見せつつ、葵を抱きしめた。そして何か呟くと笑顔で葵を馬車に押し込んだ。カイルもなにを言っているのかわからないが、笑顔で何か言いながら馬車の扉を閉めた。しばらくすると馬車は動き始めて葵は馬車のガラスに縋りつき二人の姿が見えなくなるまで見つめた。


 しばらくして、暗い顔で葵が椅子に座り直すと、斜め向かいに座っている青年が、葵にハンカチを差し出した。葵の瞳には今にも溢れそうに涙溜まっていた。


「ありがとう…」


 そう呟いてハンカチを受け取ると、青年がハッとしたように葵を見つめて、こう言った。


「ドウイタシマシテ」


 葵は目を丸くして固まった。今、何で言った!?


「…日本語が話せるんですか?」


 青年は困ったように首を傾げた姿を見て葵はがっかりした。でもさっき確かに「ドウイタシマシテ」って言ったよね?!葵はもう一度お礼を言ってみた。ハンカチを持ち上げて、


「ありがとう」


 すると青年は少し微笑んで


「ドウイタシマシテ」


 確かにそう言ったのだった。


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