1.カイルとエマ
カイルとエマは代々続く神殿を守るマクシミリアン家に生まれた双子の兄妹だ。二人の顔は瓜二つで父親ジョセフ譲りのアッシュブラウンの髪に、母親エリザベス譲りのヘーゼルの瞳を有し、幼いながら美しい顔立ちをしていた。
双子の生まれたマルドリッド国は、王族の祖先と言われている神々を信仰していた。中央の神殿は王族の祖であるマルドリッド王を祀っており、そこから散らばる地方の神殿は神話として語り継がれている過去の王族を神として祀っていた。東北にある双子生まれた神殿は、他の神殿が王族を祀る中、唯一救済の女神と言われるアリサを祀っていた。女神アリサは王族との血縁はなく、異世界から召喚され、王族の危機を救ったとされる人物と言い伝えられており、王国を救済した後にマクシミリアン家と婚姻を結び、その子孫がカイルとエマにあたる。
カイルは兄らしくいつも妹を気遣い年齢の割に落ち着いた聡明な少年に、エマは少し甘えん坊だが心優しく勤勉な少女に成長した。ジョセフは北東地方をまとめる神殿の神官長をしており、双子達は自分たちの血筋に誇りを持ち、いずれは自分たちも神殿に携わるものだと物心ついた時には感じていた。8歳になると、二人は中央の神殿に神官見習いとして奉公に出されることとなった。
二人は日々神官になるための学びと、神官達の小間使いをしながら、同世代の少年・少女達と充実した日々を送っていた。そんな頃二人が10歳になる年に、二人の母親エリザベスが病に倒れたとの知らせがきた。一時的に帰宅を許された二人は、ベッドに伏せっているエリザベスを見て驚愕した。浅い息をくりかえし、苦悶の表情の母の腕には黒い蔦のような模様が広がっており、ただの病ではないことが見てとれた。
「…父上、これは…呪い、ですか?」
カイルとエマの頭の中に昨年学んだ、魔術の授業での呪咀が浮かんだ。ジョセフは険しい表情で、
「そのようだ、お前達も神殿で学んでいるからわかるだろう」
「父上…!どうしてこのようなことが……!」
エマが青ざめて父親に問いかけた。
すると、ジョセフは肩を震わせて語り出した。
「……先日、王族の一人が病で伏せっていると知らせがあり、急ぎ祈祷をしてほしいと依頼があった。私は、外せない祭祀があり代わりにエリザベスが祈祷に向かったんだ…」