死の貯金
「聞いてくれ、Kよ! 私は遂にやったぞ。夢を叶えたんだ」
S博士は歓喜の声を上げていた。
完成した発明品を手にして、子供のようにはしゃいでいる。
だが、助手であるKは気怠そうに言葉を返した。
「どうせ、またガラクタみたいな物でも出来たのでしょう」
「違う。私は今度こそ、アインシュタインのように歴史に名を残す物を完成させたのだ」
「ダメ博士の歴史になら、既に名を残していると思いますが」
「な、なんだと!」
あまりの暴言に立腹したS博士は、K助手に掴みかかった。
「助手のくせに、なんで私より偉そうなんだ」
「では、どんな物を発明したと言うのですか?」
「それは、分からない。ただ、寝てたら枕元に死に神が立っていて、私に発明を授けて」
「S博士、もう少しマシな嘘を考えてください」
「待ってくれ、私の妄想だと疑いたくなる気持ちも理解できる。だが、本当なんだ。このカードを相手の貼り付けると効果が出るらしく」
S博士がキャッシュカードのような物を取りだし、K助手の腕に乗せた。
だが、何も起こらなかった。
「あれ、変だな」
「変なのは、S博士ですよ。そんな妄言を口にするなんて、ほとほと愛想が尽きました。私は、これでご厄介になります」
そう言い残すとK助手は荷物を纏め、研究所を出て行ってしまった。
1人取り残されたS博士は、隣に立っている死神に話しかける。
「何故、K助手は信じてくれなかったのだろうか」
「人間は難儀な生き物ですから、仕方ありませんよ」
「そういうものかな。それはそうと、本当にこのカードは何に使う物なんだ? 君に言われたとおり作った代物だが、まるで理解できなかった」
「まあ、そのカードは死の預金が出来るのですよ」
「預金? 具体的に何をする物なんだ」
「口頭で説明も出来るのですが、効果が出るまで時間が必要です。それまで楽しみに待つというのは、どうでしょうか?」
「なるほど。私は孤独になってしまったし、時間も沢山余っている。君の言うとおりにするよ」
だが、S博士はカードの効果を見ることなく天寿を全うしてしまった。
その300年後。
とある警察の接見室で、弁護士が犯罪者と相談していた。
「Kさん、いい加減、私には真実を話してくれませんか。何故、見も知らぬ通行人のSさんを殺したんですか?」
「弁護士さん、それが私にも分からないのです。確かに、その人とは縁もゆかりもありません。だが、彼を見た途端、手が止められなかった。まるで、私の知らない所で積もった殺意というか、溜まっていた鬱憤が爆発したかのように、体が動いてしまったのです」