瞬間移動しか使えないと馬鹿にされて追放された僕ですが、実は最強の空間魔術師でした
最近流行っている「追放ざまあ」を書いてみました。
ハイファンタジーの作品は初めてなので温かい目で見守って頂けると嬉しいです。
「シン、もうお前はクビだ。荷物をまとめて早く俺のパーティから出て行け。」
探索終わりにリーダーの魔法剣士プラタノに呼び出された支援魔術師のシンは唐突にそう告げられた。プラタノの後ろにいる他のパーティーメンバー達も嘲笑う様な目線でシンを見ている。
「そんな…いきなりすぎるよ。プラタノ、僕達はもう半年以上も一緒にやってきた仲間じゃないか。」
「はっ、お前のことなんて初めから誰も仲間だなんて思っちゃいねえさ。なあ、みんな。」
プラタノがそういうと、後ろにいたパーティメンバーの聖女ムルンと攻撃魔術師ペスカが嘲笑しながら同調する。
「聖女の私と下賤で低級な支援魔術師風情が仲間ですって?戯言もここまでくると滑稽だこと。」
「攻撃魔法もロクに使えない上に時間稼ぎとしょぼい移動魔法しか能が無いのに仲間面しないでくれる?」
2人はまるで汚物でも見たかの様な目をして、そう吐き捨てた。
「だそうだ。俺もテメエみたいな役立たずの荷物持ちでしょっぼいサポートしかできない雑魚魔術師にウンザリしていたところだ。早く消えてくれないか?」
プラタノは鼻で笑いながら虫でも追い払う様に手を動かして、去ろうとした。
プラタノが率いる4人組の冒険者パーティ『栄光を掴む者達』はA級モンスターを何体も倒したことから、ここ半年で注目度が上がっているA級冒険者パーティだ。王国やギルドからの信頼度も高く、高難易度のダンジョンを何度もクリアしていることから報奨金も潤沢にもらっている。
その報奨金を元手にシン以外のパーティメンバー3人は高品質な武器や装備を購入したり、酒場や歓楽街で豪遊していた。
しかし、シンには最低限の報奨金しか分配されていない。何故ならシンはパーティー全体で任意の場所に移動できる『瞬間移動』という初歩的な魔法しか使えないサポート要員だったからだ。
『瞬間移動』は後衛のサポート要員であれば、初心者の段階で覚えることができる簡単な魔法だった。故に仲間内から軽んじられ、有名な冒険者パーティーに所属しているとは思えないくらい貧しい生活をしていた。
大陸北部に広大な国土を持つシャンデリア王国は高名な魔術師を輩出している魔術大国であり、純粋な強さよりも使える魔法の数や練度が重視される傾向にある。
その為、一つの魔法しか使えないシンは魔術師としての評価が一段と低く、中々パーティーを組んでもらえなかった。そんな中でプラタノだけが声をかけてくれたのだ。それ以来、シンはサポート要員として今日まで必死で腕を磨いてきた。
「みんな、いくらなんでもひどいよ。それに僕がいなくなったらこのパーティーの壁役や支援業務や物品管理、書類仕事は誰がやるのさ。」
シンはパーティーの壁役・回復や探索に使う道具の管理・挑戦するダンジョンの情報収集やマッピング・報告書の作成や経理など本来は4人で分担して請け負う業務を1人で受け持っていた。
「あ?心配いらねえよ。あの支援魔術で高名なA級冒険者のパミドールを無理言ってこのパーティにスカウトしたんだ。大体テメエの代わりなんていくらでもいる。テメエは用済みだ。」
「そんな…引き継ぎもしていないのに無茶だよ。」
シンはプラタノに説明しようとしたが、遮ってこう言い放った。
「いい加減察しろよ、シン。俺らはこれから王族や貴族とも懇意にして国を代表する冒険者パーティになるんだ。パーティにバフ魔法一つ使えないクソ魔術師を抱えている余裕はないっつうの。」
「.....」
「まだ気付いていなかったんですの。私達は良い支援魔術師が見つかるまでの囮役や荷物持ちが欲しかっただけ。貴方は最初から不要な存在だったんですわ。」
「そうそう、前々から強くない癖にウロチョロしていて、ウザいと思っていたのよね。」
シンはこれまで一緒に冒険してきた思い出が一つずつ色褪せていく気がした。
役立たずの魔術師として、冒険者ギルドで邪険にされ続けてきた中で手を差し伸べてくれたとが嬉しかった。居場所があることが嬉しかった。だからどんなにパーティー内での地位が劣悪でも邪険にされても、ふんばってやってこれた。
だけど、それら全ては彼らにとって全て無意味だったのだ。
「……わかった。もう『栄光を掴む者達』は抜けるよ。今までありがとう。」
シンはメンバーに気づかれないようにいくつかの書類を持ち出しながら、拠点を出た。
——こうしてシンは、パーティを追放された。
シンを魔法が一つしか使えない魔術師という色眼鏡でしか見ていなかったメンバー達は、誰が尽力して今日の名声があるのか少しも理解できていなかったのだ。
——後に彼らは、この時の出来事を心の底から悔いることになるとも知らずに。
* * * *
「これから、どうしよう。」
シンはため息をつきながら宿屋を出た。
パーティで使用していた道具は自費で買った分も含めて全て没収された。今のシンは必要最低限の金銭しか持っていなかった。
「とりあえず、脱退登録をしに行くか。」
シンは『瞬間移動』を使用して冒険者ギルドに向かった。
『栄光を掴む者達』のメンバーは書類手続きを全く行わないから気付いていない様だが、パーティーから脱退するにも冒険者ギルドで手続きが必要になるのだ。
「すみません、パーティーの脱退申請を行いたいのですが...。」
「お疲れ様です。ってええ!? シンさん、パーティーを脱退されるんですか!?」
ギルドの受付嬢は驚いた様子でこちらを見てきた。実際はもう少しひどい言われ方をされたのだが、追及されたく無いのでシンは適当にお茶を濁す。
「ええ、仲間との折り合いが悪くなってしまって.....。」
「そうなんですね...。シンさんの報告書は読みやすいとギルド内でも評判ですし、個人的に『栄光を掴む者』を陰で支えているのはシンさんだと思っていたのですが...。」
「そう言って頂けると助かります。」
ギルド内では冷遇されていたけれど、ギルド職員の方から褒められるとは思いもしなかった。パーティーを追放されて、自信を喪失しかけていたがシンは少し気が楽になった。
* * * *
「——提出書類、確認いたしました。ではこちらで脱退手続きの処理をしておきますね。ところで、シンさんはこれからどうされるんですか?」
「そうですね、本当はどこかのパーティーに加入したいところですが自分の様な魔術師を受け入れてくれるところも中々ないでしょうし、しばらくはソロで活動します。」
「そうですか。お気をつけてくださいね。」
ギルドの受付嬢に礼を言ってシンはギルドを出た。
ソロで攻略できそうなダンジョンや今後の身の振り方について考えながら冒険者向けの依頼掲示板でクエストを眺めていると、後ろから声をかけられた。
「あれーっ?センパイじゃないですか?」
「ああ.....アオイか。久しぶりだね。元気にしてた?」
「それがそうでもないんですが...センパーイ、会いたかったです!」
アオイは唯一仲良くしている冒険者ギルドの後輩の女の子だ。魔法が一つしか使えない僕は冒険者ギルドの冒険者からは馬鹿にされていた。だけどアオイは図書館で顔なじみになって以来、オススメの本や勉強法について教えているうちに何故だか慕ってくれるようになった。
「僕も久しぶりに会えて嬉しいよ。」
「.....実はセンパイ、ご相談があるんですが。一緒にお茶しませんか。」
「うん、僕で良ければいいよ。」
どうせパーティを追い出されたから時間はたっぷりあったし、今は誰かと話したい気分だった。僕たちはギルド近くの喫茶店に入ったところ、いきなりアオイは俯きながら話し始めた。
「センパイ.....実は私、パーティーを辞めてきたんです。」
「ええ、どうして!?アオイはすごく優秀なのに!?」
アオイはシンと違って使用魔法も豊富で冒険者ギルド内でも一目置かれ、有望視されている才媛だった。
「実は、パーティーが私の攻撃魔法ばかりに依存するようになってしまって一切手を貸してくれなくなってしまったんですよね。私、本当は後衛の様な立ち回りの方が戦いやすいのに.....。」
なんだか立場は反対だけど、自分と同じ様な状況だなと思いながらシンは気の毒に感じた。
「そこでセンパイのパーティーに入れて欲しいんです。」
「残念だけど、僕も先ほどパーティーを追い出されちゃったところなんだよね。」
「ええ!?どうしてセンパイが追い出されるんですか!?」
アオイはシンが追い出されたことを疑問に思っているようだった。シンが先程の出来事を話すとアオイは憤慨して怒り始めた。
「はあ!?なーんでセンパイが追い出されなければいけないのですか!?センパイがパーティーを支えていたから実績を出してこれたのに.....!」
「僕があまり優秀じゃないからだろうね。」
「いやいやいや、センパイ超優秀ですし.....。大体、一般的な支援魔術師はそもそも壁役なんてしません。他の役回りもみんなで分担してするものですよ。」
「え、支援魔術師って壁役とかしないんだ。ずっとやっていたから当たり前にやるものだと思ってた。」
アオイは信じられないって顔でシンのことを見て、しばらく沈黙した後にこう提案してきた。
「それなら私と2人で組みませんか?」
「.....君と僕で?」
「同じ様な体験をしているセンパイとならやっていける気がします。」
シンは必要としてくれているのは嬉しいが、先程追い出されたこともあって一緒にやっていけるか不安だったので、別の提案をしてみた。
「じゃあまずはお試しで一回パーティーを組んでみようか。」
「全然いいですよ!センパイのお手並拝見です。」
アオイは花が咲いたような笑顔でそう答えた。これは格好悪いところは見せられないなとシンは思った。
* * * *
「そういえば、アオイは何級のダンジョンまで潜ったことある?」
「うーん、以前のパーティーだとC級ですね。」
C級ダンジョンに自分頼みのパーティーで潜れるということはアオイ個人はB級冒険者程度の実力は持っていることが窺える。因みにシンの冒険者ランクは魔法が一つしか使えない為に最底辺のE級で留まっている。
「それはすごい。だけど今回はお試しだから様子見でD級ダンジョンにしようか。」
「了解です!」
本来、E級の実力だとD級ダンジョンは潜れない。だがシンは『栄光を掴む者』に居たときに幾度となく情報収集やマッピングを行い、高難易度のダンジョンに攻略していたのでD級くらいなら潜れるという自信はあった。
軽く打ち合わせを行った後、シンとアオイはD級ダンジョンまで『瞬間移動』した。
ダンジョンは入る度に地形が変わるが、シンはこれまでの記録の蓄積から幾つかの地形パターンを把握していた。
「じゃあ申し訳ないですが、前衛はセンパイに任せても大丈夫ですか?」
「了解。これでも前のパーティーじゃ壁役だったから大丈夫だよ。」
「あっ、そうでしたね。だけどセンパイ、大荷物な上に盾とか持っていませんが本当に大丈夫ですか?」
一般的に壁役は盾を装備して、挑発しながら防御する。
だが、シンはパーティー全体の道具の管理をしている為、大きなリュックを背負っているものの盾らしきものは持っていなかった。
「うん、盾は使わないスタイルだから大丈夫だよ。」
「え?使わないんですか?」
「僕は回避盾だからね。」
「回避盾?」
アオイが首を傾げている間に熊型のD級モンスター”アーマーベアー”が出現した。
「今から実演して見せるね。」
シンは慣れた様子で『瞬間移動』でアーマーベアーのすぐ近くに移動しては避けることで、注意を惹きつけた。
「『十連移動』」
アーマーベアーは全力でシンに何度も襲いかかろうとするも、かすりもしない。アオイやアーマーベアーが視認できる限界を遥かに超える速度で、『瞬間移動』を使用しているからだ。
「『小刀の針鼠』」
シンは背後に移動した途端、アーマーベアーの体内から数本のナイフが出てきて、串刺し状態となってアーマーベアーは絶命した。
「こんな感じかな。」
「え.....ええ〜っ!?センパイ、センパイ、今何したんですか!?何でアーマーベアーは串刺しになっているんですか!?」
「大したことはしてないよ。練度の高い『瞬間移動』で敵を避けて、荷物に入れていたナイフ十数本を『瞬間移動』でアーマーベアーの身体の体内に移動させただけ。大抵の生き物って外側の耐久力は高いけど内蔵からの攻撃には弱いからね。」
シンはさも当然のように話しているが、アオイは驚きを隠しきれない。
一般的に『瞬間移動』はあくまでダンジョンや街への移動を想定されて作られた魔法であって戦闘で『瞬間移動』を使用するなんて聞いたことがない。
「センパイ、ツッコミどころが多すぎるのですが...。というかそもそも先輩、今『瞬間移動』何回使いました?」
「んー序盤の敵だったから10回かな。」
「10回....!?多すぎませんか?」
「そうかな?少ないほうだよ」
先程の戦闘はわずか数秒程度で終わったので、1秒に何回も使用したことになる。『瞬間移動』は簡単な魔法とはいえ、空間に作用する魔術なので消費魔力が激しく多用できるような代物ではない。
因みに一般的な支援魔術師は往復で2回程度の使用が限度だとされている。およそ人間業ではない…とアオイは息を飲んだ。
「そもそも本来、ダンジョン上層にいる敵なんてここまでする必要ないんだよね。内蔵にナイフを一撃で入れるだけで済むし、ただ今回は僕の能力を実演しようと思ってね。」
「そう、センパイの『瞬間移動』のむちゃくちゃなところはそこです....!!なんでそんな大量のナイフを単体で移動させられるんですか!?」
「ん?普通のことじゃないの? だってほら移動する時、みんな衣服や武器も一緒に移動しているし。」
「それは付属物として認識されているからです。物単体を『瞬間移動』するなんて相当、難易度の高い魔術ですよ。」
「知らなかったな。確かに我流で身に付けた技術だったけれども。」
シンは『栄光を掴む者達』以外の冒険者パーティーと交流することが殆どなかったので、自分の『瞬間移動』の異質さにこれまで気づかなかった。
「一体どんなに過酷な修行をすればそこまで高度な魔術が使えるんですか?」
「修行というよりも攻撃手段が殆どないのに壁役として前線に立たされてモンスターかた襲われそうになっていたから、逃げるためにひたすら『瞬間移動』ばかりしていたのが良かったのかもしれないな。」
「うわぁ...センパイって中々ブラックなパーティーにいたんですね....」
アオイが憐みの視線でシンを見ている。
「もしかしてセンパイ、攻撃魔術師として活動した方がいいんじゃないですか?」
「いやいや、アオイ。僕は『瞬間移動』しか使えないんだけど。」
「あのですね、十回連続で使用したり、数十本のナイフを移動させたり....ってそれはもはや一般的な『瞬間移動』とは呼べないです。もう、大魔術です。」
「ええ、大袈裟だなあ。」
シンとしては当たり前のことをしているだけなのにアオイから手放しで褒められてこそばゆい気持ちになった。
「全然、大袈裟なんかじゃないです。センパイは最強の....そう、空間魔術師です!」
「アオイ...」
「さっきは先輩だけで倒しちゃったけれど、私も後衛で雷系の支援魔法バンバンかけるので、二人で連携して一緒に頑張りましょう!」
「....そうだね、背中は任せたよ。」
——その後、シンの『瞬間移動』を駆使した魔法とアオイによる強力な雷魔法や支援魔法によって、難なくD級ダンジョンは踏破できた。
それ以降、2人は正式に冒険者パーティー『時空を超える者達』を結成。拠点をシャンデリア王国から実力主義のランプ帝国にある冒険者ギルドに移して以降、立て続けにS級モンスターを撃破することで名声を得ていくこととなった。
* * * *
一方、『栄光を掴む者達』はというと、
「おいおい、何でこんなにバフ魔法に時間がかかってるんだ!?パミドール!サボってるんじゃないだろうな?」
「ああ!?1人でやっているんだからこれが精一杯だろ。それにアンタらこそモンスターを倒すのに時間がかかりすぎなんだよ。」
「う、うるせえ。いいから早く魔術をかけろ。」
「ちっ…」
『栄光を掴む者達』の新メンバーであるパミドールは不満気な表情になりながら、支援魔術をかける。
これまではシンがバフ魔法の代わりに能力向上系の魔術薬を転移して、振りかけていたので一瞬だったのでプラタノには時間がかかっているように感じてしまう。
(くそ…敵の数は今までより多いし、何でこんなことになってるんだ。)
プラタノは焦りを感じていた。
無能なシンを追放し、S級冒険者のパミドールをスカウトしたことで最初は浮かれていたが実際にダンジョンに潜ってみると普段より強いモンスターが多く、ダンジョン探索が一向に進まない。
「おい、またモンスターが出たぞ!お前ら、動け!!」
「もう何で私がこの程度のモンスターに手こずっておりますの!?」
「くっ…数が多すぎるわよ。」
ムルンとぺスカも愚痴をこぼすが、モンスターは増える一方だ。これまではシンが遠距離で『小刀の針鼠』などの魔法で内々に処理して倒していたのだが、『栄光を掴む者達』のメンバーは3人ともその事実に気づいていなかった。
「ちくしょう、なんでアタシがこんな目に…」
「おい、そこから動くな!前方にはトラップが…」
パミドールはぺスカがトラップを踏むのを止めようとしたが、間に合わず天井から岩石が落ちてきた。
「うう、痛っ…」
「ぺスカ、大丈夫か!?シ……パミドール、ハイポーションを出せ!」
「な!?持ってねえし、そういうのは聖女様の仕事だろ。」
シンがいる時であれば、すぐにハイポーションの中身を傷ついたメンバーに転移させて回復させていたが、今はムルンが回復系の道具の管理をしている。だが、管理や持ち歩きを面倒に思った彼女は何の準備もしてこなかった。
「そ、そういうのは全部下賤な者にお任せしておりましたので…。」
「何寝ぼけたことを言ってやがる。ちっ、仕方ねえな。俺用の緊急用ポーションをやる。」
パミドールが見かねて、緊急用ポーションを取り出した。
「なんだ、持ってるなら、さっさと出せよ。」
「…。」
プラタノはパミドールに礼も言わずにぺスカに緊急用ポーションを使った。
「うっ…」
「よし、治ったな。次、行くぞ。」
ぺスカが回復したのを確認して、プラタノは先に進もうとした。その様子を見たパミドールはついに堪忍袋の緒が切れた。
「悪いが、俺はここで『栄光を掴む者達』を抜けさせてもらう。」
「はあ!?なんでだよ。」
「分からないなら教えてやるが、お前らが役割一つこなせない雑魚だからだ。A級モンスターを何度もクリアしたというからどんなに強い連中かと期待して加入したが、見込み違いだったらしい。」
パミドールはこれ以上、話したくないといった様子で引き返した。
「ちっ、好きにしろ。お前みたいな奴、こっちから願い下げだ。」
「はん、ほざいてろ。この事はギルドの方に報告させてもらうからな。」
パミドールはプラタノに背を向けたまま、去っていった。
結局、パミドールが脱退したこともあって探索は中止し、帰還することになった。
(くそ…これもパミドールのせいだ。A級冒険者なんて言われていたが、あいつも期待外れだったな。次はもっと能力がある奴を入れないと。)
プラタノはパミドールに責任転嫁しながらそんなことを考えていた。
しかしこれ以降、固定のパーティーメンバーが定着することはなかった。横暴なパーティーメンバーや積み重なる役割に耐えられる人間がいなかったのだ。
これ以降、メンバー同士の連携は本格的に崩れ、『栄光を掴む者達』は次々にクエストを失敗。なんと冒険者パーティーのランクもA級からD級にまで降格させられてしまった。
* * * *
「ほら、あいつらだぜ。短期間でA級からD級になっちまった冒険者パーティー。」
「基礎的な立ち回りも出来ない癖に新メンバーに無茶な仕事を押し付けるって噂のな。」
「ああは、なりたくないな。」
プラタノ達が歩いているのを見て冒険者達は口々に噂する。『栄光を掴む者達』はすっかり評判の悪いパーティーとなってしまった。
「畜生…好き勝手言いやがって。」
プラタノは毒づくものの、一々反論する気も起きない。
「…なんでこんなに失敗続きなんですの。」
「…マジで有り得ないんだけど。」
ムルンもぺスカも愚痴をこぼすが、妙案は思いつかない。
(シンの奴がいなくなってから、どうにも調子が上がらねえ。)
プラタノは頑なにシンのお蔭で成り立っていたという事実に薄々気づき始めていた。
(そうだ、あいつを連れ戻して奴隷のように働かせればいいんじゃないか。そうすればあの無能も泣いて喜んで縋ってくるに違いない。)
プラタノは反省など微塵もせずに、シンを奴隷の様に使うことで解決させればいいと考えた。
「おい、ムルン。シンの奴の居場所を探ってこい。」
「嫌ですわ。何であんな無能について聞いて回らなければなりませんの。」
「まあ、そういうなって。あいつをまた奴隷の様に働かせれば俺たちは楽が出来るし、またA級モンスターも倒せるようになるだろ?」
「まあ、そうですわね…。」
ムルンもクエストが失敗続きで高級な化粧品や綺麗な衣服にお金がかけられなくなってきた。聖女としての威厳を取り戻すためにもシンを働かせるのは賛成だった。
「ちょっとギルドの受付嬢に聞いてまいりますわ。」
ムルンは足早に行ったが、すぐにトボトボと歩きながら戻ってきた。
「あの無能はランプ帝国のギルドに移籍したそうですわ。」
「移籍だと…?俺たちに挨拶もしないで失礼な奴だ。よし、俺たちもランプ帝国に行くぞ。」
「そんなお金ないんだけど。」
シンがいなくなってぺスカが臨時で経理をやることになったが、適当に投げ出して「お金を出し渋る」ことで仕事をしている振りをしていた。
「あん?そんなの借金してあの無能に払わせればいいだろ。」
「じゃあ、いっか。」
ぺスカはシンに会った後は今まで滞っている会計業務を全部押し付けようと考えた。
こうして、『栄光を掴む者達』の面々は借金をしてランプ帝国に向かった。
* * * *
シンとアオイはランプ帝国の冒険者ギルド内の換金所でS級モンスター素材の換金をしていた。
「もう、センパイと私にかかれば怖いものなしですね。」
アオイは微笑みながらそう言った。
「こらこら、調子に乗らない。でも、アオイと一緒に組めて本当によかったよ。まさか自分がここまでやれるなんてあのパーティーにいた頃は思いもしなかったし。」
「本当に見る目ないですよね、その人達。まあそのおかげでセンパイと一緒になれたんですけどね。」
「ハハハ、そうだね。」
シンはランプ帝国での冒険者活動やアオイとの日々が楽しすぎて、『栄光を掴む者達』での辛い思い出を思い出すことも殆どなくなった。
「『時空を超える者達』の皆様、査定が終わりました。見積書はこちらになりますので、ご確認ください。大変高額になりますので、査定額に関しては後程、お振込みいたしますね。」
換金所の受付嬢が慣れた様子で見積書を渡した。
「承知致しました。ありがとうございます。」
「お礼を言うのはこちらの方です。いつも希少素材をお持ち込み頂けて、お二方には大変感謝しております。」
「いえいえ、今後とも宜しくお願い致します。」
換金所の受付嬢は頭をペコリとさげたので、シンとアオイも会釈をしつつ立ち去った。
「センパイ、今日は何食べます?」
「そうだな、あそこの定食…」
「おい、シンじゃねえか!!久しぶりだな!!」
アオイの問いかけに返答しようとしたところ、突然大きな声に遮られた。
「ん?…ああ、プラタノか。随分やつれたね。」
「うるせえ、シンの癖に俺を馬鹿にするんじゃねえ。」
――それはかつてシンを追放した『栄光を掴む者達』の面々だった。
だが、大きな声とは裏腹にプラタノは最後に会った時よりももボロボロの様子だった。髪も髭も生えっぱなしでやせ細っている為、初めは誰だか判別できなかった。
「無能の癖に生意気ね。口を慎みなさい。」
「相変わらず冴えないわね。」
口調や見下す姿勢こそ変わっていないが、ムルンとぺスカも肌が荒れ、髪が痛んできている。とても他国に渡る余裕があるようには見えなかった。
「それで今更何の用?」
シンは早く会話を終わらせたかったので、ポケットの中の魔道具を弄りながら要件を聞いた。
「なーに、お前がそろそろ俺達のパーティーが恋しくなってきたんじゃないかと思ってな。お前が泣いて謝ったらもう一度、『栄光を掴む者達』に戻してやってもいいぜ。」
「私達の慈悲に感謝しなさい。」
「ほら、さっさと謝りなさいよ。」
自分達から追放したにも関わらず、シンが断るはずがないと確信している様子で3人とも勝ち誇った顔をしながら謝罪を要求してきた。
「結構です。さようなら。」
シンとアオイは相手にせず、立ち去ろうとした。
「おいこら、何で謝らねえんだよ。せっかく呼び戻してやる為に来てやったというのによ。」
「何してるんですの。早く謝りなさい。」
「無能なんだから、行き場所なんてないでしょ。」
断られたにも関わらず3人がしつこく食い下がってくる。
「いい加減にしてください。センパイのことを何だとおもって…。」
「アオイ、怒ってくれてありがとう。僕の方からちゃんというから大丈夫だよ。」
憤慨している様子のアオイを宥めて、僕は3人に向かって言い返した。
「いい加減にしろ。だったらこっちも言いたいこと言わせてもらうけど、僕の代わりはいくらでもいるんじゃなかったのか?」
「ああ?」
「『下賤で低級な支援魔術師』『時間稼ぎとしょぼい移動魔法しか能が無い』『役立たずの荷物持ちでしょっぼいサポートしかできない雑魚魔術師』とか散々言ってくれたよな。自分達から追い出しておいて、今更戻ってこいなんて虫が良すぎるんだよ。」
「それは…。」
「しかも謝れだと?お前らがむしろ僕に謝れよ。報奨金も分配せず、役割も全部押し付けて、不当な扱いをして申し訳ありませんでしたってな。まあ今更すぎるし、謝られたところで”もう遅い”けどな。」
「「「ハア⁉︎」」」
まさかここまで言い返されるとは思っていなかったようで3人は固まってしまった。シンは間髪入れずに続けた。
「もし次に会う時に反省していたら取り下げようかと思っていたけど、やっぱり辞めた。君たちのことは裁判所に訴えさせてもらう。脱税、報奨金の横領、不当な労働の強制や理不尽な脱退についても全部証拠書類にして残してあるからね。今の音声も全部、録音機能付きの魔道具で保存済みだ。」
シンはポケットにある録音機能付きの魔道具を見せながら、そう言い放った。
「おいおい、俺達、仲間だっただろ。裏切るのか。それに金なんてないぞ。」
プラタノは急に媚びるような目でシンを見たが、シンは態度を変えなかった。
「僕のことなんて最初から仲間だと思っていなかった癖によく言うよ。隣国に来れるくらいにはお金に余裕があるんだろ?あと裁判所だけじゃなくて冒険者ギルドや聖教協会、攻撃魔術師協会の方にも同様の書類は送付させてもらうから今まで通りの職に就けると思わない方がいいよ。」
シンは冷めた目で3人を見ながら、話し終えた。
「はあああ!?そんなことしていいと思ってるのか!?」
「な…そんなことが公になったら破門されてしまいます。」
「なにいってんのよ、あたしの魔術師人生が断たれるじゃないの。」
ここまで言ったのに、まだ自分の非を認めずシンを責めようとしていることにシンは本格的に愛想が尽きた。
「まだ自分の非を認めないのか。もういい、後は代理人に手続きしてもらうから。二度と僕の前に顔を出さないでくれ。」
シンはアオイと立ち去ろうとした。
「畜生…許さねえ‼︎お前らあいつらまとめてやっちまうぞ。『爆炎斬撃』」
「『聖なる光球』」
「『激水流』」
3人は自棄になってシンに攻撃を仕掛けた。プラタノは剣に炎を纏って、ムルンは光魔法で聖なる光の球体を構成し、ぺスカは水を高速発射する魔術をかけ、三者三様にシンを狙う。
「『反転する一撃』」
3人の決死の一撃はシンの空間魔術によって転移され、跳ね返された。プラタノには炎の斬撃が、ムルンには聖なる光の玉が球体が、ぺスカには高速発射された水がそれぞれクリーンヒットした。そして、力尽きた。しばらくは動けないだろう。
「あれ?この3人ってこんなに弱かったっけ。」
「たぶんセンパイが強すぎるんだと思いますよ。もう放っていきましょう。」
「そうだね。もう君たちとは会うことがないだろう。さようなら、『栄光を掴む者達』」
そう言ってシンは過去のパーティーと決別し、アオイと2人で立ち去った。
これ以降も2人は『時空を超える者達』として大陸中にで名を馳せるほどの活躍を果たした。
シンは『瞬殺のシン』、アオイは「紫電のアオイ」と呼ばれ、後世に名を遺す冒険者パーティーとなる。
やがて2人は互いを愛し合うようになり、結婚。沢山の子を為し、2人は孫たちに惜しまれながら大往生を遂げることとなった。
一方で、『栄光を掴む者達』の面々は数々の悪事が明るみに出た。当然、有罪で懲役を課され、多額の賠償金を支払わなければならなくなった。
その後、3人は強制収容所で労役を行って過ごしたが出所後も賠償金が返済しきれなかった為、戦闘奴隷として使役されながら余生を過ごすのだった。
如何でしたでしょうか。
数ある作品の中からお読みいただいて、ありがとうございます。
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また今後書いてほしい小説などの要望もあれば教えて頂けると幸いです。