一人旅
なぜか世界を担われ旅に出ることに。
まずは、マワマワという国に行けばいいみたいだ。
広大な大地を原付でひたすら走っていると、正面に人がこちらに向かって立っているのが見えてくる。
「うわ、魔族かな。いきなり強敵すぎないか……?」
「よう、変わった乗り物だな。どこに向かってるんだ?」
男の前で原付を停止させて降りると魔族の男が聞いてくる。
「マワマワという町に向かっています」
「それだけか?」
「本当のことを言うと、魔王を退治しに行く途中です」
「ククク、そうか、だが残念だったな、俺は魔族だ。そして俺は、上位に位置する強さを誇る。さあ、俺を倒せるかな?」
「やばい……」
「せっかくだから教えてやろう。俺の能力は心臓を自在に操る力だ。心臓を自在に体内を移動させることで強力な力を発揮できる。例えば……」
そう言って、魔族の男は心臓を体中に移動させ、頭の上に心臓を出して見せると、こんどは右の手のひらに心臓を移動させ、空に向かって腕を伸ばす。すると、手のひらから光線が放たれた。
「ククク、だが今日はこっちだな」
魔族の男は右手の五本指をナイフのように変形させる。
「ククク、行くぞ」
魔族の男が向かって走ってくる。
やばい、何も思い付かない。もうゲームオーバーか。ええい、なんでもいいや!
「!!! なんだ、それは……」
ゆっくり目を拓くと、魔族の男は横を向いて固まっている。
「ん? 空き缶? 俺が想像して作り出したのか? 柄が前の世界にあるやつだし」
魔族の男は指を伸ばして空き缶を拾う。
「なんだこれは……この世の物とは思えないな。まさか、古文に記されたあの!」
そんなに珍しいのか? よし、それなら……。
「こっちにもあるぞ、こっちにも、こっちにもだ。あそにも!」
魔族の男は背中に大きな籠を作り出し、次々に空き缶を籠に入れていく。そうしているうちに、魔族の男は草原の彼方に消えていった。
「よく分からないが助かった……」
再び原付で走り出した。
「おっ、見えてきたぞ」
瓦屋根の家々が見えてきた。その先には互いに建物も見える。
街に入り、ゆっくりと走っていると、兵隊が慌ただしく作業をしている。
「魔王軍の進攻に備えているのかな?」
「この辺りの道には詳しいんだ、こっちから行けば近道だぞ」
兵士が何人かを引き連れてこっちに向かってくる。
「いかん、そっちに行くな!」
隊長らしき人物の命令を従わずに隊から離れた兵が分かれ道を左に曲がり、こっちに向かって走ってくると急に動きが止まった。兵士は一切表情を変えず、止まり続けるにはかなり厳しい体勢のまま止まってしまっま。
「な、なんだ?」
「だから隊から離れるなと言っておいたのに……」
「どうしたんですか?」
「私達にもよく分からないのだが、あっちの道からこの道を通ろうとすると、なぜか動きが止まってしまうみたいなのだ」
「魔物の仕業ですかね?」
「わからん、調査中なのだが、原因は全く掴めていない。おい、担架を持ってこい」
兵士が担架を持ってくると、止まった兵士を載せ、来た道を戻って行く。
「あの兵士は大丈夫なんですか?」
「向こうまで戻してやれば、意識を取り戻してまた動き出す」
少し待っていると、止まった兵士が苦笑いを見せて戻ってくると、隊長の前で申し訳なさそうに謝っている。
「ところで、君はどこから来たのかね?」
「ずっと東の地から来ました。一応、僕も魔王討伐のために戦ってるみたいなんです……」
「ほう、そうであったか。ちなみに、どこの国の軍に所属しているのかな?」
「えーと、訳あって記憶が曖昧なのですが、オッタンという王様に頼まれまして」
「おお、オッタン王か、元気であったかな? ヒュオ殿やズズ殿はどうしておられる」
「皆さん元気でしたよ」
「それは良かった」
「隊長、準備が整いました」
「よし、行くとしよう。見ての通り、我が隊はこれから前線に向かわねばならん。毎週この時間になると、巨大な魔物がこの町に攻め込んでくるのだ。お主も来てはいかがかな? オッタン王に認められた力を、是非我が隊に貸して頂きたい」
「あっ……はい。では町の外に乗り物があるので取ってきます」
「そうか、ところで、名前ななんと申す」
「ヒズルです」
「ではヒズル殿、私達は反対側で待っておるぞ。」
うーん、期待されてしまっては断りきれない……。しょうがない、自分の力を信用するしかないか。
町から少し離れた所に兵隊が整列している。
「さすがにあの規律の中には入れないな。近くで見てるか」
「ヒズル殿はどうされますかな?」
馬に乗った隊長が気づいて話しかけてくる。
「ここでいいです」
「では、行きますぞ」
前進する五十人程の兵隊に合わせ、ゆっくりと原付を発進させる。300メートル程進んだところで、遠くから物体が近づいてくるのが見えてくる。あれは……人? ゲームでいうオーガとかの大男かなんかかな?
「来たな……」
隊長が呟く。
普通の人間より二回り程の大男が猛突進してくる。八体はいるな。
「ここは私達にお任せを」
「おお、魔術隊か。今回も頼んだぞ」
突然、兵隊の前にローブ姿の女性が四人現れると、一斉に光の球を放った。光の球は大男達に直撃し、大男達は後ろ大きくふっ飛んだ。しかし、大男達は立ち上がり、また突然突進してくる。
「やはり駄目か。魔術隊」
「了解」
魔術隊が放った電撃を受けた大男達は、痺れて動きが止まる。
「かかれ!」
身動きが取れなくなった大男達に向かって、槍を持った兵隊が突進していく。しかし、槍が大男に触れた途端、兵隊達はゴムの様に跳ね返されてふっ飛んだ。
「もう、この作戦も効かぬか……」
しょうがない。
うなだれる隊長の前に俺が立ちはだかる。
「おお、ヒズル殿。頼みましたぞ」
とはいえ、どうしたものか……。そろそろ麻痺の効果も切れそうだし……。
迫りくる大男を目前に閃いたのは、これだ!
空から透明のグミのような物体が五十個以上も降ってくると、積み重なって壁を作った。
「何だあれは……今にも崩れそうだぞ。ヒズル殿、大丈夫なのか……」
隊長は驚きと困惑の表情でぷよぷよした物体の壁を見つめる。
すまないが、これしか思い付かなかった。でも俺にとっては、絶望の壁なんだよ……。
「もはやこれまでか……」
隊長は、目を細めて透明の物体の先に見える大男達を見つめる。
そしてついに、大男達は透明の壁など構わず、腕を振りながら透明の壁に突っ込んだ。すると、大男達は次々に跳ね返されて吹き飛ばされた。
「跳ね返した! そうか、あのぷよぷよした性質のおかげか。しかし、全く崩れないのはなぜなのだ」
隊長は目を丸くして予想外の光景を見つめる。兵隊からも驚きの声があがる。
大男達は何度も透明の壁に向かって突進するが、透明の壁はびくともしない。中には透明の物体の隙間に指を入れて抜き取ろうとする大男もいるが、透明の物体は全く動こうとしない。別の大男は隙間を利してよじ登ろうとするが、滑って落ちてしまった。ついには、微動だにしない透明の壁を前に、大男達は頭を抱えて絶叫したり、拳と頭を地面に叩きつけだした。
「我を忘れてわめいておるわ!」
疲れ果てたのか、大男達は動きを止めて地面に座り込んでうつ向いている。
「諦めたか」
すると、透明の物体が大男達に倒れ込んで張り付いた。そして、大男達の体が光だし、パッと消えてしまっま。
「おおおおお」
兵士達から歓声かあがる。
「助かりました、ヒズル殿。しかし、あの魔法は一体……」
「いやぁ、なんとなく思いつきで……」
「おお、美味しそうな料理ばかりだ」
城に招かれた俺は、兵士達と共に豪華な料理を振る舞われた。隣には隊長が座っている。
「そういえば、魔術隊の皆さんはどうされたんですか?」
「普段はほとんど人前には現れない方々みたいでな」
「そうですか」
「ところでヒズル殿、やはり旅に出られるのですかな?」
「そうですね、行先標は分からないのですが、まあ適当に回ろうかと」
翌朝、町の外で兵士達に見送られることになった。
「それではヒズル殿、またどこかで会いましょう」
「はい、皆さんもお元気で」
別れを告げ、原付で走り出した。
投稿の間隔が長そう。