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世にも奇妙な異世界物語  作者: ジョン・タオレサーナ
4/5

第4話 異世界的異文化交流

無駄にイチャイチャさせたせいで話が進みませんでした。


 窓から見える空は白み始めていた。

 俺はベッドから起き上がり服を着替える。

 隣のベッドではヤチがまだ眠っている。

 ここへ来てからどれくらい経っただろうか。2ヶ月は経ったが3ヶ月は経ってない気がする。もしかしたら経っているかもしれないが、正確には分からない。

 俺はヤチに世話になっていた。一人暮らしだったヤチは俺を部屋に招き入れると、俺のために色々としてくれた。ベッドもそうだし、一緒に服や靴を買いに行った。

 子供が使う様な教科書も用意して俺に言葉や魔法を教えてくれた。

 おかげで最近は日常会話程度なら理解できるようになってきたし、ごくごく簡単な魔法なら使える様になってきた。

 初めて炎を灯した時は、才能があると喜んでくれた。

 俺は眠っているヤチを起こさない様に静かに家を出て、近所の水場へ行く。


 街の各所に噴水の様に水が溢れ出している場所があり、生活に使う水は皆んなそこから汲んで使っていた。魔法で地下から汲み上げているらしいが、俺にはまだそんな魔法は使えない。

 おはよう、ガウレリオ。顔を洗っていると近所のおばさんが笑顔で声をかけてきた。


 俺は街で少し有名になっているみたいだ。見た目も違うし言葉も通じない、おまけに何でも指差して、ガウス、なんて訊いていたら変な男がいると噂になるだろう。

 レリオというのはこの街なのか世界なのか分からないが、男の名前に付いていることが多いようだ。ガウスとレリオでガウレリオってことらしい。まぁ、いいさ。

 きっとこの街の人達にとって俺はオモシロ外国人みたいな感じなんだろう。

 最近ではすれ違う人が声をかけてくれる事も増えたし、自分の持っている物を指差して言葉を教えてくれる。指差した物を俺が先に答えると相手は嬉しそうに笑うのだ。そういう人たちを見ていると俺も嬉しくなる。


 俺は服で顔を拭いながら挨拶を返し、ストレッチをする。おばさんは水を桶にたっぷり入れると、気をつけてね、と帰って行った。

 この街は役所の広場を中心に、同心円状に道があった。水場から一番外側の道まで走り、そのまま街を4周して近くの公園へ行き、ダッシュやシャドーボクシングを目一杯する。

 それらが終わる頃には辺りはすっかり明るくなり、水浴びをしてから新しい服に着替えユムアの店に腹ごしらえに行く。

 狩りが休みの日、ヤチはいつも昼頃まで寝ている。特に前日俺が怪我なんかして治癒魔法を使わせたりすると、どっと疲れちまうみたいだった。


 おはよう、サガラ。ユムアは俺の前の席に座り頭に巻いていた白い布を外した。後ろで括られていた髪が肩の辺りで切り揃えられている。

 髪を切ったのかを尋ねると、似合ってる?、とユムアは毛先を指に巻きながら少しうつむいた。


「良いよ、似合ってる」

「ありがと」


 そう言ってユムアはニコッと笑った。

 俺の好みを言えば髪は短い方が好きだけど、そんな余計なことまで言うのはやめておいた。俺の好みなんてどうでもいいだろう。

 たまに訊いてもないのにベラベラと自分の事を喋りだす奴がいる。そういう奴は大抵面白くもなんともないし、こっちが興味がない事に気付きもしない。


「朝は客がいないな」

「夜が忙しいからね」


 ユムアも最初は俺に色々と言葉を教えてくれていたが、最近は普通に会話をするだけになっていた。

 トレーニングしてきたの?、トレーニングしたらサガラみたいに強くなれる?、と胸の前で拳を動かしながらユムアが尋ねてくる。


「なれるさ、ここの人達は大きいから、それに、俺は別に強くないよ」


 俺は身振り手振りを交ながら辿々しく答える。

 今度付いて行っていい?、ユムアは小指で俺を差しながら言う。


「どこに?」

「サガラのトレーニング」


 ユムアは首を傾けながら、ダメかな、と悪戯っぽく笑った。




 辺りはまだ薄暗く人通りはない。レストランの通りをしばらく歩き路地裏に入ると小さな公園がある。背の低い木に囲まれたキレイな公園だ。

 ストレッチをしていると薄闇の中誰かが近付いてきた。

 寝坊しちゃった、ユムアはそう言って両眉を上げ小さな赤い舌を出した。

 腋から下が前後に別れていて、中間と裾の部分が紐で括られた服を着ている。動きやすい服で来てくれとは言ったが。服の隙間からは胸に巻いた橙色の帯が見えている。

 ヤチを連れて来なくて良かったな、と思った。


 昨夜、明日のトレーニングはユムアが一緒だからヤチも来ないか、とヤチに訊くと、こめかみに両手を当てしばらく考えてから、やめとくよ、と答えた。


「ユムアの事、好きじゃなかったのか?」


 俺がそう訊くと、ユムアは良いよね、可愛くて背も高いしケツもでかい、と言ってニヤリと笑った。

 それに今日は狩りでたくさん魔力を使ったし、明日は広場の屋台にカハルが店番の日だから食べに行かなきゃ、今度の休みは必ず行くからって約束したんだ、だから昼まで眠らせてもらうよ。

 ヤチはベッドに倒れ込むとすぐに寝息をたてた。ヤチは街中の自分好み女の子が働いてる店を把握しているらしく、日によって行く店が違った。

 2匹のウサギを追いかけると1匹も捕まえれないぞ、と一度注意したが、10匹追いかけたらどうなるかな、と笑っていた。まったく困った奴だ。


 ユムアは俺の真似をして屈伸をしている。体が柔らかいらしく地面に掌を付け、股の間から得意げな顔をして俺を見ていた。

 俺は小さく首を振り、行くぞ、と踵を返し公園を出る。後ろから、待ってよ、とユムアの声がした。

 ユムアは普段運動することがないらしく、1周目を終えたところで大きく肩で息をし始めた。


「少し歩こう」

「ごめんね」

「気にするなよ」


 ユムアの前髪は額に張り付き、頬を汗が伝っている。俺は腕に巻いていたタオルをユムアの頭に被せた。この調子だと俺は汗をかく程走らなさそうだ。


「サガラは優しいね」


 ユムアはタオルで汗を拭い、前髪をかき上げた。

 初めて会った時は、言葉は通じないし、変な服着てたし、怖い人だと思った、でも、そんな事なかった、喧嘩の時も、相手を殴らなかったし、心配してるヤチを気遣ってたし、いっつもうちの店に、ご飯食べに来るし、たまに来ない日あるでしょ、すごく心配になるんだ、森で魔物に食べられちゃったんじゃないか、って。

 ユムアは息を切らし途絶え途絶えに言う。俺は頭の中で必死に翻訳する。ユムアは俺のためになるべく簡単な言葉と文脈を使ってくれる。


「大丈夫、ヤチがいるから、心配ない、食べられないよ」


 俺がそう言うと、ユムアは微笑んだ。

 2周目が終わると俺たちは公園に戻った。

 ユムアの服は胸と背中が汗で濡れ色が変わっている。風邪を引くから今日は終わりにしようと言ったが、他のトレーニングも見たいと言うので、仕方なくシャドーボクシングをして見せた。

 新しい踊りみたいだ、そう言ってユムアは喜んだ。

 俺の真似をしてぴょんぴょん飛び跳ねるユムアに基本的なフットワークを教えた。

 爪先で立ち、テンポよく足を前後に動かすだけの簡単な動きだったが、しばらくするとユムアはへたり込み芝生の上に仰向けになった。


「今日は、もう終わりにしよう」


 わかりました、先生、そう言って手を挙げたユムアの腕をひっぱり立ち上がらせ、近くの水場へ移動する。


「一回帰って、着替えたら、飯にしよう」

「お風呂は?」

「風呂は、寝る前に入る、それでいい」


 俺がそう言うと、


「着替えを持って、またここに来て」


 と、ユムアは腰に手を当て睨み付けてきた。




 この世界の家には風呂とトイレがないようで、公衆トイレの様に浴場も街のあちこちにあった。

 トイレと同じく男女で分かれていて、大抵が6個くらいの小さな個室と、家族用なのか大きい個室が2つある。

 いつもはヤチと夜に行くのでこんな朝っぱらから行くのは初めてだった。

 当たり前だがヤチとは一緒に行くだけで、一緒に入るわけじゃない。まぁ、混んでいる時は一緒に入ることもあるけど。

 着替えを詰めた鞄を肩から下げ先ほどの水場へ戻る。同じ様に鞄を下げたユムアが壁にもたれかかり退屈そうに靴の爪先を見ていた。


「遅いよ」


 ユムアは俺に気付くと笑顔で駆け寄ってきてた。


「子供みたいだな」


 そう言ってユムアの頭に手を置くと、唇を噛み恥ずかしそうにうつむいた。


 浴場は換気のための隙間が壁と屋根の間に少しあるだけで薄暗い。ランタンに明かりは無く、利用者はいないようだった。こんな朝っぱらから風呂に入る奴は少ないだろう。

 俺は男湯の入り口にあるランタンに手をかざし魔力を送る。ランタンの中には魔法の石が入っていて、魔力に反応して光を放つ仕組みだった。この世界ではこれくらいの魔法は子供でも使えるらしい。

 俺は一番奥の広い個室に入る。いつもは他の利用者がいるので小さい方でさっさと終わらせるが、どうせ女ってのは長風呂だろうし、今日はゆっくり入らさせてもらうことにした。

 部屋には大人が二人は入れそうな白い石造りの浴槽があり、浴槽の外側には1段の段差がある。なかなかユニバーサルなデザインだ。

 段差に腰掛け、湯をかぶり全身の汗を流す。

 湯船に肩まで浸かり目を瞑ると、取り留めのない思いが頭を駆け巡った。

 この世界へ来てからしばらく経つ。

 ここに来る前、俺は何をしていたんだっけ。

 俺はいったい誰にボクシングを教えてもらっていたんだったか。

 汚れた町の古臭い建物でサンドバッグを殴っていた。

 小さいけどガッチリしたおっさんだ。

 見た目の割に素早く俺のパンチは全然当たらなかったな。

 名前はなんて言ったっけか。

 おっさんは結構厳しくて毎日朝から晩までしごかれてたな。

 そのおっさんに会う前はどうしてたんだっけ。

 前にいた世界の事を思い出すと懐かしくなるが、あまりあの生活に戻りたいとは思わなかった。今の生活の方が良い様に感じる。

 ぼんやりそんな事を考えていると部屋のドアが開く音がした。驚いて目を開けると、ユムアがいた。


「お、おい」


 ユムアは何も言わず、部屋の壁に掛かったランタンに手をかざす。ランタンは光を失い、部屋には天井と壁の隙間から差し込むわずかな光だけになった。

 薄暗い部屋にユムアのシルエットがぼんやり浮かび上がる。シルエットは服を脱ぐと俺の正面に座った。


「来ちゃった」

「き、来ちゃった、じゃないだろ」

「恥ずかしいね」

「女の子が、こっちに入ったら、ダメだろ」


 ユムアは三角座りをし湯船に鼻まで浸けブクブクと空気を吐き出して何かを言っている。


「早く、あっちに戻りなさい」


 俺は女湯の方を指差した。

 ユムアは顔をあげると、でもね、と言った。

 でもね、子供の頃はね、いっつもお兄ちゃんと一緒に入ってたんだよ、背中や髪を洗ったりしてくれたんだ、今日はお礼に、サガラの髪と背中洗ってあげるね。


「いいよ、自分で洗えるから」




「気持ちいいでしょ」

「あ、あぁ」


 浴槽に背を向け段差に座った俺の頭を、後ろにいるユムアが洗っている。

 細い指が優しく小刻みに頭皮を撫でる。


「頭下げないで」

 

 目に垂れてくる泡が不快でつい下を向いてしまう。わかったよ、と姿勢を正し前を向く。

 ユムアが動く度、肩の辺りに何かがかすってくすぐったい。

 左肩に腕を回しその部分を爪で擦ると手の甲に何か柔らかいものが当たった。

 ユムアの指が一瞬跳ね、強張った。


「あ、悪い、さっきからくすぐったくて」

「う、うん」


 浴槽にお湯の流れる音だけが響いている。ユムアは俺の頭に手を置いたまま動かなくなってしまった。


「どうした?」

「なんでもない」


 そう言い終わると、頭から勢いよくお湯が降ってきた。


 ユムアは正面に座ったまま何も喋らない。また何か企んでいるのだろうか。

 俺は肩まで湯に浸り目をつぶる。


「サガラは、狩りに行かない日は、何してるの?」


 いつもよりトーンの低い寂しげな声だった。なぜか俺が何か悪い事でもしてしまったみたいで、胸が苦しくなった。


「トレーニングしたり、飯食いに行ったり、まぁ、大抵はヤチに、言葉や魔法を教えてもらってるよ」


 ユムアは、そっかぁ、と言った後、しばらくの沈黙を置いてから、私ね、と続けた。

 私ね、サガラがお店に来ない日は心配だって、言ったでしょ、ずっとサガラの事考えてるの、家まで行こうかなって思うんだけど、怖いの、もしサガラがいなくなってたらって、だから次の日もお店で待つの、サガラがいつも通り来て、いつもの席に座って、いつもの料理を注文するのを、何でだろうね、最近はね、サガラがお店に来た日でも、1日中サガラのこと考えてる、何してるのかな、早く明日にならないかな、サガラも私のこと考えてるかな、って。

 ユムアは少しうつむき独り言の様に話す。部屋は薄暗く表情は見えない。

 どうしてそんなに寂しそうに言うんだ。

 俺も、と言いかけた時、部屋の外から足音が聞こえた。誰か風呂に入りに来たのだろう。

 隣の個室に誰か入った。

 浴槽からお湯が溢れる音がし、あ〜〜〜、と雄叫びの様な老人の声がした。

 ユムアは背を向け俺の股の間に座った。

 何してんだよ、俺が声を殺して言うと、浴槽の淵に置いていた俺の手にユムアは手を重ね、


 サガラのこと、好きだよ。


 と囁く様に言った。




次で最終話の予定。

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