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世にも奇妙な異世界物語  作者: ジョン・タオレサーナ
3/5

第3話 街にて

あと1、2話続きます


「サガラ」


 そう言ってヤチは歩きだした。

 赤褐色と白の石造りの家が立ち並び、細い路地がまっすぐ続いている。玄関先や窓際には色々な花が咲いていた。石畳の道は塀の外よりも歩きやすい。

 ヤチは白く清潔感のある建物へ入っていく。

 病院なのだろうか、独特の臭いが鼻をつく。

 狭い部屋には入ってきた扉とは別にもう一つ扉がある。

 5つある椅子に顔色の悪い老人が一人座っていた。

 ヤチは老人に話かけると老人は面倒臭そうな表情を見せたが、老人が席を離れるまでヤチは一方的に喋り続けた。

 

 しばらくすると扉が開き、元気そうな老人が出て行った。

 ヤチが俺にした様に治したのだろうか、ヤチは医者なのだろか、そんなことを考えていると俺の名前が呼ばれた。ヤチは俺の腕を取ると扉へ入って行く。

 白髪まじりの髪を後ろに撫でつけた男が椅子に座っている。

 ヤチは俺をその男の前の椅子に座らせると男に何かを喋り出しベロベロと前歯を舐めた。

 男は俺の服の袖をまくり、腕を触ると何かを言った。

 何を言ったのか分からないからヤチを横目で見ると、代わりにヤチが喋り出した。

 何が何だか分からないまま診察は終わった。帰りに薬らしいものを渡され、ヤチは肩から下げた皮のカバンを開けると小さな金属をいくつか男に渡していた。お金なのだろうか。ヤチはきっと良い奴なのだろうと思った。

 病院から出るとまたヤチは手招きをして歩き出した。次はどこへ連れていかれるのだろうか。


「いてて、おいヤチ、どうしたんだよ」


 急に立ち止まったヤチにぶつかってしまった。ヤチは何も言わず動かない。

 正面からヤチと同じ服を着た大柄な男が二人歩いて来ていた。

 俺よりも頭1つ分大きいだろうか。二人は俺たちの前までくるとニヤつきながらヤチに話しかけた。

 長髪で細身の方がヤチの頭に手を置き、もう一人の短髪でガタイの良い男に何かを言った。

 ヤチは伏し目がちに笑っている。あまり良い関係ではなさそうに見える。

 長髪は俺の方を一瞥したあとヤチに何かを言った。ヤチは目を泳がせながら口籠った後、何かを言った。ヤチが何か冗談でも言ったのだろうか、男たちは一斉に笑った。

 

「行こうぜヤチ」


 俺はヤチの頭に置かれた腕を払い、男達の間を割って歩いた。俺に追いついたヤチは何かを言うと、両方の眉をあげ下顎を突き出して俺を見た。いったい何を意味するジェスチャーなのか分からなかったが、


「気にすんなよ」


 そう言って俺はヤチの肩を叩いた。


 路地を抜けると広場のような場所に出た。広場にはたくさんの人が行き交っている。

 皆一様に背が高い。そういう人種なのだろうか。

 しかし、ヤチはさほど高くない。だからあんな奴らにナメられてるのかもしれない。

 ヤチは広場に面した白く大きな建物へ入っていく。

 役所の様な場所なのだろうか。受付に置いてある小さなベルの様な物を弾くと男が小走りでやってきた。よく見るとここにいる人達とヤチは色が違うだけの同じ服を着ている。

 ヤチやさっきの連中はここの人間なのかもしれない。

 俺は壁際に並べられた椅子に座り。ヤチ達のやりとりをぼんやりと眺めていた。

 ヤチは床に何か印を書くと両手を広げ何かを呟いた。すると印が光出し、豚野郎が2匹現れた。

 俺は驚き椅子から立ち上がったが、ヤチがこっちを見て笑った。

 豚野郎は2匹とも倒れていて動かない。

 そういえば、と思った。森で広場から離れる時、ヤチは豚野郎の手足に何か印を書いていたのを思い出した。目の前にいるのは、俺が戦った奴らなのかもしれない。

 役所の男は2匹の豚野郎を観察すると受付の奥に戻って行った。俺は豚野郎を指差しガウスと聞くと、ハント、とヤチは答えた。

 役場の男が戻ってきてヤチに何かを手渡した。ヤチはそれを両手に1枚ずつ持ち、1枚を俺に渡した。半透明で青く薄い円形をしている。お金なのだろうか、ヤチが病院で出した物よりずっとキレイだ。


「ありがとよ」


 俺は礼を言ってそれをポケットに入れた。

 アリガトヨ、とヤチは首を捻りながら何度か繰り返した。




 役所を出ると広場は飴色に染まっていた。どこからか芳ばしい匂いがする。そういえば目が覚めてから何も食べていない。


「腹ぁ減ったな」


 俺は腹を摩りながらヤチを見た。ヤチは笑顔を見せながら、ニャオニャオ、と何度かうなずき歩き出した。ヤチは広場の隅にある建物の前で止まった。入り口が2つありドアは無い。

 なんの建物だろうか。片方の入り口から中を覗いてみる。小さな個室が5つ並んでいた。個室の中には穴の開いた椅子があり、少し嫌な臭いがする。


「ヤチ、違うんだ、腹がいてーんじゃねーんだ、腹が減ったんだよ」


 俺は手を口へ持っていき食べるジェスチャーをした。

 ヤチは大笑いし、また何度かうなずくとトイレを出た。


 広場から路地へ入る。人が増え芳ばしい匂いが強くなる。

 ヤチは入り口に赤い日除けのついた白い建物に入っていく。


「レストランか?」


 店の中はさほど広くない。窓際に白い布のかかった二人がけのテーブルが2つ、反対側はカウンター席、奥には4人がけのテーブルが2つあった。席は半分ほど埋まっている。カウンターの奥では頭に白い布を巻いた男が料理をしていた。

 ヤチは壁際の席に座ると、奥の席で他の客と喋っている女を呼んだ。

 女は俺達の席へ来ると、珍しそうに俺を見た。

 白い布から出た色素の薄い金髪を後ろで括っている。目が大きく小さな鼻がツンと尖った女で、気が強そうだな、と思った。

 ヤチはいつのも様に何か一気にまくしたて、胸の前で拳を握りパンチを2、3度打つ。何となくだが俺のことを説明しているようだった。

 女は俺の顔をまじまじと見て何か言った。

 俺は頭をポリポリ掻きながら、ガウス、と言うと女は吹き出して笑った。

 ヤチは女を小指で差し、ピサロ、と言うと女は怒った様に、ユムア、と自分の胸に手を当て言った。俺は女の真似をして胸に手を当て、サガラ、と言うと女はもう一度、ユムア、とゆっくりと言った。

 ヤチは俺の代わりに何かを注文してくれたようで、10分程するとユムアがでかい肉の乗った皿と金属製のジョッキ2つを持ってきた。


「うめーな、ヤチお前も早く食えよ」


 肉は少し癖のある臭いがしたが、柔らかくて美味かった。

 ヤチはユムアに何かをずっと話している。

 ジョッキの中は酒なのだろうか、少しアルコールの匂いがしたが水みたいで飲みやすい。

 俺が肉を半分食べたところで、ユムアは帰った客の食器を片付けに移動した。

 その後ろ姿をヤチはぼんやりと眺めている。


 奥の席にいた男が一人近付いてきた。生活感を纏った腹がだらしなく膨れている。男はニヤニヤしながら大声で何か言っている。

 ヤチが体を硬らせ笑顔を作りながら男に何か言ったが、男はヤチに一瞥もくれない。どうやら男はヤチではなく俺に話かけているようだった。

 男は俺の頭に手を置き顔を近付けニヤニヤと笑った。顔が赤く酒臭い。

 俺は男の腕を払い、皿の肉を切り口へ運んだ。

 男は怒った様に何か言うと、肉の乗った皿を掴み傾けた。

 皿からこぼれた肉と肉汁が俺のズボンにかかる。

 男は大笑いしながらまた顔を近付けてきた。

 ヤチはどうしたらいいか分からず狼狽している。


「おっさん、ちょっと酔いすぎだぜ」


 俺はジョッキを手に取ると男の顔に中身をぶちまけた。

 ユムアが大きな声を出しながら男を後ろから引っ張って俺から離そうとする。どうやら男はだいぶ頭にきてしまったみたいで全く動こうとしない。


「おっさん、こいよ」


 俺は席を立ち、手のひらを上にして手招きをした。

 男はユムアを振り払うと思い切り腕を振り回した。

 俺は膝を曲げパンチをかわし、背後へ回り込む。体勢を崩した男の足をちょいと引っ掛けると、男は派手に倒れた。


「子供みたいに転んで、みっともないぜ」


 男の襟首を掴み立ち上がらせ、服についた汚れを払ってやる。男の体が小さく震えだし鼻息が荒くなる。


「そんな心配するなよ、ヤチ」


 小さく左手を振りヤチに笑いかける。

 怒鳴りながら振り回した男の腕を一歩下がりかわす。拳はそのまま鈍い音をたて、石の壁に当たった。男は悲鳴の様な声をあげうずくまってしまった。


「俺は何にもしちゃいないよ」


 料理をしていた男が厨房から飛び出てきて俺とうずくまった男を交互に見ていた。

 奥の席で見ていた男の仲間がうずくまった男を連れて店を出て行く。


「同じのもう一個たのむよ」


 席に戻り、空になった皿をユムアに見せながら俺はそう言った。


そろそろ終わらせたい

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