表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは日本の異能島!  作者: 平平方
花蓮編
96/474

幕間(エピローグ2)

「ふぅん、寂しい部屋ね。これからずっと、私が一緒に住んであげようか?」


 玄関を上がり、廊下を抜けた先にあるリビングへと入った花蓮の第一声。


 前も言ったが、悠馬の寮はかなり寂しいものだ。


 最近、華やかさを〜とか言って、花瓶とお花を買ったものの、それだけ。


 一昨日の異能祭の体操着が脱ぎ捨てられたり、服が散乱しているものの、それを全部回収すれば、モデルルームと言われても違和感がないほど、生活感のない部屋だ。


「何のご褒美ですか?それ!」


 花蓮に一緒に住んであげようか?と提案された悠馬は、大はしゃぎだ。


 好きな女の子と、同棲。


 しかもずっとと言うことは、卒業までずっとと言うことになる。


 入学して2ヶ月と少し。一人暮らしを寂しいと感じていた悠馬からすれば、願っても無い提案だった。


「嘘よ。流石にここから学校に通うのはキツそうだし、ごめんね?」


「はは、ですよね〜…」


 舌を出しながら、嘘と告げた花蓮を見た悠馬は、ショックのあまり砂へと変容していく。


 まぁ、悠馬はそんな異能を持っていない為、本当に砂になったわけではないのだが。


「でもまぁ、毎週金曜日の夜から、日曜の夕方くらいまではここに来てもいいかしら?」


「うん!来てよ!時間がある時なら、いつでも来て欲しい!」


 悠馬を落として上げた花蓮。


 毎週花蓮とのお泊まり会ができると思っている悠馬は、先ほどの同棲発言時のようにはしゃいで見せる。


 実際は悠馬の寮の真正面に泊まることになるだろうが、それは2人からしてみると些細な問題なのだろう。


「…ところで悠馬、お風呂ってどこ?」


「ええと…そこの扉を開けた先だけど」


 不意な質問。


 少し身体をさすりながら、恥ずかしそうに質問をした花蓮は、悠馬が指をさした方向を見ると、その方向へと一直線に歩き始める。


「ごめん、シャワー借りていい?少し肌がベタベタして…気持ち悪いの」


「あ、うん。いいよ!」


 時刻は昼過ぎだ。この時間帯、流石に夕夏がいるはずもないし、偶然鉢合わせて大惨事なんてことはないだろう。


 それに、もし仮に2人が遭遇したとしても、花蓮は悠馬から話を聞いているわけで、揉め事には発展しないはずだ。


 そう判断した悠馬だったが、悪羅の一件で、自分が闇堕ちだとバレたことを思い出して、ほんの少し凹んだ表情を浮かべる。


「それじゃあ、行ってくるわね」


「はーい、行ってらっしゃい」


 悠馬が考え事をしているうちに、扉を開けていた花蓮は、脱衣所の中から手を振り、消えていく。


「問題はまだまだ山積みだな…」


 花蓮との許嫁問題は、完璧に解決したと言ってもいいだろう。


 残るは、夕夏の件と、悪羅への復讐の2つ。


 大きな山が2つも残っていることに気づいた悠馬は、頭を抱えながらそう呟いた。



 ***



 コンコン、と、木の扉を叩く音が脱衣所内に響き渡り、花蓮は一度深呼吸をして口を開く。


「美哉坂さん。来たわよ。花咲です」


 左には洗濯機と、脱いだ服を入れるカゴが置かれ、右側にはお風呂に続くであろう扉がある。


 布団が2人分敷けるほどの大きさの脱衣所の中で数秒間待った花蓮は、ドタバタと聞こえる足音を聞いて、声を漏らした。


「何をそんなに慌ててるのかしら…?」


 花蓮がそう呟くと同時に、勢いよく開かれる扉。


 突然のことに驚き、ビクッと身体を震わせた花蓮は、扉に手をかけ、大きく肩で息をする亜麻色の髪の少女へと目を落とす。


「お、お待たせしました!初めまして、美哉坂夕夏です。突然話をさせて欲しいなんて言って、ごめんなさい!」


「初めまして。ううん。大丈夫よ。私も話したかったし。それと、敬語はよしてよ。私たち、同い年じゃない」


 初めて出会う2人。


 顔を上げた夕夏を見た花蓮。


 花蓮が夕夏へ抱いた第一印象は、可愛い女の子。


 亜麻色の髪に、真っ白な肌。茶色の瞳で、スタイルは抜群。


 第1高校では、さぞモテモテなことだろう。


 そして、花蓮の夕夏へ対する好感度というのは、最初からマックス値であった。


 なにしろ、悠馬の話からするに、夕夏は悠馬のことが好きだ。


 悠馬のことを好きになるなんて、見る目がある。お互いに、どんなところが好きかを語り合いたい。などという気持ちを花蓮は抱いていた。


 対する、夕夏が花蓮へ抱いた第一印象は、美しい人。


 さすがはモデルにアイドルをやっているだけあって、オーラも体つきも、容姿も普通の女子とは完全に違う。


 男を魅了するために生まれて来たような、そんな感じだ。


 実際は2人とも甲乙つけ難い容姿なのだが、悠馬が振り向かないこともあってか、あまり容姿に自信のない夕夏は、完全に負けたと、諦めモードに入っていた。


「と、とりあえず椅子に座って話そっか?」


「ええ、そうね」


 どこかぎこちない夕夏は、立ち話もなんだから。と言いたげに、テーブルの周りにある椅子の1つを引き、花蓮を座らせると、自分は彼女の向かいの席に座る。


「まずはもう一度、謝らせてください。花蓮ちゃんの許可も得ずに、いきなり連絡先を聞き出して、挙句に話がしたいなんて呼び出してごめんなさい」


「気にしてないわ。さっきも言った通り、私は貴女と話して見たいと思ってたから。それで?話したいことって、悠馬のことなんでしょ?」


 非常識なことをしてすまなかったと、深々と頭を下げて謝る夕夏。


 そんな彼女の頭を上げさせた花蓮は、夕夏へと鋭いひと刺しを入れる。


「うぐっ…タイミング的にお見通しだよね。そう、悠馬くんの話」


 いきなり話したい内容を見透かされた夕夏は、花蓮の攻撃がクリティカルヒットしたのか、引きつった表情で花蓮との会話をする。


「私は悠馬くんのことが好き。悠馬くんが花蓮ちゃんと付き合ってるってことを知っても、その気持ちは変わらなかったし、それでいてもたっても居られなくなったから、学校を早退してここに来たの」


 本来ならば学校の授業があっている時間帯。


 その時間に、なぜ寮内に居るのかの事情も織り交ぜながら話す夕夏の瞳には、決意がにじみ出ている。


「うんうん。それで?貴女はなんで、私に連絡を寄越したの?好きなら、私のことを無視して悠馬に告白だってできた筈でしょ?」


「そ、そんなことできないよ!だって、恋愛なんて早い者勝ちでしょ!だから、常識的に考えて、悠馬くんに告白する前に、花蓮ちゃん、貴女に告白の許しをもらうのが、当然のことなんじゃないのかな…?」


 別に、花蓮に話をせずとも、悠馬への告白なんてできた筈だ。


 しかし夕夏は、自分なりに考えた結果、いきなり悠馬に告白するよりも、花蓮に許しをもらってから告白をした方がいいと判断した。


 その理由は、もし仮に夕夏が告白をして、悠馬がオッケーをした場合の話だ。


 それを知らない花蓮を置き去りにして、2人は惹かれあい、花蓮を見捨てる。なんていう略奪愛は、夕夏は望んではいないし、付き合った後にギクシャクするのも、振られた後に、アイツ何勝手に人の彼氏に手出してんの?と罵られるのも嫌だからだ。


「あは…はははは!あははは!」


 そんな、夕夏の事情を聞いて、笑いを堪え切れなくなった花蓮は、オドオドとしている彼女の方へと身を乗り出し、肩を掴む。


「うん、いいよ!私、貴女が悠馬の彼女になってくれるなら、嬉しい!悠馬の気持ちは正直わかんないけど、私は貴女のことを応援するわ!」


「え!?ほんと!?独り占めできなくなるんだよ!?いいの?」


「構わないわよ!だって、私は悠馬の夢を知ってるから!」


「夢…?」


 悠馬の夢。


 笑いながら彼の夢を知っていると話す花蓮は、そのことについて気になっていそうな夕夏を見て、言葉を発する。


「ま、小さい頃の話なんだけどね。悠馬の夢は、異能王になることだったの。だからいつか、悠馬が解放されて、その願いが叶う日が来たら…ね?」


 世界でも1人しかなることのできない職業、戦争の抑止である異能王。


 異能王は、基本的に、11人ほどの婚約者を持つことができる。


 異能王直属の、戦乙女部隊。


 異能王秘書に、そして正妻だ。


 悠馬の将来のことを見越して、ある程度人数を揃えておきたい花蓮からしてみれば、夕夏という少女はかなりの優良物件だった。


 悠馬への愛は本物だし、実家は金持ち。


 最悪、悠馬が異能王になれなくても、自分のお金と夕夏のお金、そして悠馬のお金を合わせれば、就職しなくてもそれなりには生きていける筈だ。


 まぁ、結婚するわけでなく、交際だからそこまで考える必要はないのかもしれないが、花蓮はそこまで見越して話を進めていた。


「その様子だと花蓮ちゃんは…悠馬くんが暁闇だってことは知ってるんだよね?」


 悠馬が解放される日、という意味を考えた夕夏は、その件についての質問を投げてみる。


「ええ」


「悠馬くんの復讐、止めれないかな?」


 闇堕ちを知っていると告げた花蓮は、夕夏の提案を聞いて、黙り込む。


 悠馬の復讐を止める。それはきっと、悠馬が本気で愛している花蓮がお願いをしたって、辞めることはできないだろう。


「無理よ。私がどうこう言ったところで、悠馬の気持ちはわからないもの。この件に関しては、悠馬が自分で答えを出すまで待つしかない。だから私は、悠馬が自分で答えを見つけるまで、側で支えるだけ」


 悠馬は気づいていないが、果たして、親が自分の息子に対して、復讐を願うのだろうか?


 相討ちになってまで、悪羅を殺せと考えるだろうか?


 答えは否だ。きっと、家族なら、生き残った悠馬だけでも、幸せに生きて欲しいと願う筈だ。


 しかし、花蓮や夕夏がそれを告げたところで、悠馬は納得はしてくれないだろう。


 この件ばかりは、他人に口出しされることなく、悠馬が悠馬なりの、自分自身の答えを導き出さなければならない。


 もちろん、間違った道へ進もうとすれば止めて、正しい道へ案内はするだろうが、そこを走るのは悠馬なのだ。


 その走行を、妨害することだけはあってはならない。


「やっぱり…そうだよね…」


 考えていたことだが、悠馬が答えを出すまで待つという花蓮の言葉を聞いた夕夏は、少し不安そうな声を上げる。


「ていうか、貴女は悠馬が闇堕ちだって知っても、気持ち変わらないんだ?」


「うん。だって、私の決めた気持ちだから。そんな些細なことじゃ、私の気持ちは揺るがないよ」


「よし、言ったわね!それじゃあ今から告白よ!」


 自分の気持ちは揺るがないと明言した夕夏を見て、楽しげな表情になった花蓮は、夕夏へと駆け寄り、椅子から立ち上がらせると脱衣所へ通す。


「え?ええ!?」


 今から告白などとは考えていなかった夕夏は、悲鳴にも近い驚きの声を上げながら、花蓮に押されながらその場を後にした。



 ***



 扉が開く音が聞こえた悠馬は、散らかった服を片付けながら、口を開く。


「早かったね、花蓮ちゃん」


「うん、だってシャワーなんて浴びてないもの」


「えっ…?」


 花蓮の発言を聞いて、驚いたように振り返る悠馬。


 彼女の後ろに立っている亜麻色の髪の女子生徒を見た悠馬は、まるで猫が蛇を見たように飛び跳ねると、慌ててキッチンの柱へと隠れ、そこから顔を出す。


 一昨日、隠していた異能がバレてしまった悠馬からしてみれば、1番会いたくなかった相手。


 まだ夕夏への弁明も、どういう言葉をかけるのかも考えていなかった悠馬からしてみれば、後数日は待って欲しいと土下座して頼みたい状況だった。


 今すぐジャンピング土下座をして、寮から出て行ってもらうか、それとも自分が逃げ出すか。


 そう簡単に弁明できることじゃないとわかっている悠馬は、逃げることを最優先に考えていた。


「悠馬。夕夏が話したいことがあるそうよ?逃げずに聞きなさい?」


「あっ、はい…」


 逃げようとしていた悠馬だが、彼女の花蓮に釘を刺されては、逃げ出すことはできない。


 大人しく花蓮の指示に従った悠馬は、観念したように、柱から顔を出し、夕夏の話を待つ。


 きっと、なんで隠してたの?最低!もう関わらないで!などと罵られて終わることになるだろう。


 そして花蓮は、そんな俺を見て笑いそうだ。


 勝手に妄想をしている悠馬は、花蓮が悪戯でこんなことをやっているんじゃないかという恐怖を感じている。


「悠馬くん。私は貴方のことが好きです!だから付き合ってください!ずっと貴方のことを側で支えます!私を選んで良かったって、思ってもらえるように努力します!だから!お願いします!」


「っ…へ?」


 悠馬の予想とは大違いの、夕夏の告白。


 想定外の事態に直面した悠馬は、柱から出ると、花蓮の方を一瞥し、無言で首を縦に振る彼女を見る。


「…俺で…いいの?もう知ってるだろうけど、俺は闇堕ちだ。幸せにできるかなんて、わからないよ?」


「君がいいの。私は悠馬くんのそばにいることが幸せだから…!」


 花蓮からの承諾は得た。


 後は自分の気持ち次第だ。


 思い切って告白をした夕夏を見ている悠馬は、差し出された右手へと手を伸ばし、その手を握る。


「よろしく。美哉坂。俺なりに、君と花蓮ちゃんを、幸せにできるように頑張るよ」


 悠馬が夕夏のことを考えたとき、頭の中に残った気持ち。


 それはそばにいて欲しいという、依存のような感情だった。


 花蓮に抱いていた感情と似た感情を夕夏にも持ってしまった悠馬は、笑顔を浮かべると、涙を流す夕夏の頭を優しく撫でた。




 復讐が終わったら…2人と幸せに暮らしたいな…




 いつしか悠馬の心には、そんな気持ちが芽生えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ