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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
花蓮編
92/474

未来を変えろ

「ふふふ…はははは!」



 すっかりと静かになってしまった花蓮の寮内。


 そんな中、高らかに笑ってみせるのは、眠っている花蓮と共に取り残された刈谷だった。



「手に入った!手に入ったぞ!花咲花蓮が!今日からこの女は、俺のものだ!誰にも言い寄らせはしない、この女は俺のものなんだ!」



 花蓮はまだ眠っていて、目覚めた時に刈谷が助けたと聞いても、どうなるのかはわからないと言うのに、すでに勝利したご様子の刈谷。


 玄関の先からは、まだ覇王が抵抗をしているのか、叫び声がかすかに聞こえていた。



「チッ、バカのくせに、最後の最後で気付きやがったな、アイツ…」



 最後の最後で、刈谷の差し金だと気づいた覇王。


 覇王はバカだからそこまで頭は回らないだろう、本物の事情聴取の時に、思い出したように話してくれれば、こいつ嘘の情報でっち上げやがった。と評価が下がり、誰も覇王の言うことを聞かなくなっていただろうが、少し不安要素が出てきた。



「まぁ、今頃クスリはアイツの寮の中だ。何を言ったところで、相手にされないだろうよ!」



 不安といっても、些細なことだ。


 覇王には行動に移すだけの動機があるわけで、飲み物を飲ませたのも、寮に上がり込んだのも覇王。


 終いには今頃、寮には今日使われた薬が置いてあるのだ。


 今更どう足掻いたって、無実になりました〜…なんてことはないだろう。



「ちょっとだけ…ちょっとだけ触ってもいいよな?」



 覇王がもう何も出来ないことを悟った刈谷は、薄ら笑いを始めると、魔が差したのか眠っている花蓮の元へと歩み寄る。



「病院に連れてく前に、味見くらいしていいよね?ほら、だって俺ら、未来の婚約者だろ?」



 当然、花蓮は眠っているのだから返事などない。


 まだ何も約束をしていないと言うのに、結婚前提で話を進めている刈谷は、花蓮の元へと歩み寄ると、頭を優しく撫でる。



「あー…なんてサラサラなんだ。この上質な絹のような触り心地。この綺麗な肌。大きな胸…くぅっ!最高じゃないか!」



 花蓮の全身を舐め回すように見つめる刈谷。


 花蓮の身体は、それほどに魅力的だった。


 モデルもアイドルもしているのだから、当然のことなのだろうが。



「じゃあ、悪いけど、花蓮、君の初めては全部俺がもらうからね」



 ひと通り観察を終えた刈谷は、次は本番だと言わんばかりに、花蓮へと手を伸ばす。


 次は頭などではなく、胸をめがけて一直線に。



「はい、やめようか?」



 そんな、花蓮の初めてを奪うことだけに夢中になっていた刈谷は、近くの扉から出てきた人影に気づかなかった。


 不意打ち。誰もいないと思っていた空間に、自分と花蓮以外の何者かがいる。


 そのことを知った刈谷は、冷や汗を流しながら立ち上がると、一歩後ずさって声のした方を見て、目を見開いた。



 ***



 十数分前、悠馬の寮内にて。



「どういう事だよ?花蓮ちゃんが…死ぬって…」



 星屑から衝撃の結末を告げられた悠馬は、その場で崩れ落ちて、今にも泣き出しそうな顔で彼を見上げる。



「文字通りの意味だよ。悠馬、君は重要なことを忘れている。いや、気づいていないと言うべきなのかな?」



 崩れ落ちた悠馬に手を差し伸べるでもなく、悠馬の周りをくるくると回る星屑は、まるで探偵が事件のポイントを話すように淡々と、落ち着いて話を始める。



「君と花咲花蓮の繋がりは、許嫁だけじゃないだろ?」



「……会社か?結界か?」



 そこまで言われて、星屑が何を伝えたいのかを2択に絞った悠馬。


 悠馬と花蓮の会社は、それなりに繋がりがあった。


 悠馬の父親がいなくなった後も関係は続いていると思うし、結界の件はすでに済んでいるが、繋がりといえば繋がりだ。



「結界でーす!」



「でもあれは…!俺と花蓮ちゃんの結界はなんの問題もない!解決してるはずだ!」



「そう、君の中では解決してる。でも解決してないんだよ」



 悠馬はある誤解をしていた。


 それは花蓮の結界は、完全に2人のものになっていて、暴走して使徒になる可能性はないと、そう思っていた。


 悠馬が誤解する原因となったのは、悠馬に心配をかけたくなかった花蓮が、今までずっと秘密にしてきたからだ。


 だから何が起こったって、これから先花蓮に結界に関する事故は起こらないと、そう思っていた。



「君は知らないんだろうけど、花咲花蓮のシヴァの結界は、ギリギリ器に収まっている状態なんだよ。揺らせば溢れるし、重みに耐えきれず器にヒビだって入る」



「そんなはずないだろ…!だって!俺たちはゴッドリンクをしたんだぞ!」



 結界をリンクしている。


 花蓮が器に取り込めなかった分を、悠馬が取り込んだ。


 そのことを覚えている悠馬は、それならゴッドリンクをした時に自分の器に流れ込んできているはずだと主張した。



「確かに、今の悠馬だったら、ちゃんと花咲花蓮の負担は減らせていただろうね。でも君、4年も5年も前に、今ほどの器が自分にあったと、本気でそう思ってる?」



 それを聞いた悠馬は、ハッとしたようだ。


 小学校の時の悠馬は、確かに神童などともてはやされてはいたものの、異能において花蓮に勝つことはできなかった。


 結界の入る器が異能で決まると言うのなら、あの時、悠馬がゴッドリンクをした時により多くの結界を取り込んでいたのは、花蓮だったはずだ。


 悠馬が、自分のギリギリのところまで取り込んだところで、お互いに等分の負担を背負ったわけじゃない。



「もうわかったろ?花咲花蓮は今も君のことが好きで、そんな彼女に、君は揺さぶりをかけたんだ。器が壊れるのは時間の問題。そして今、わるぅいセンパイが、花咲花蓮を手に入れようとしてる。君ならこの意味、わかるよね?」



 自分のせいで花蓮の器が壊れる。


 花蓮を手に入れようとしている人物がいる。


 何をされるのかはわからないが、星屑の話が事実なら、その悪いセンパイが花蓮を手に入れようとして、花蓮が死んでしまうということなのだろう。



「でも…俺に…花蓮ちゃんを助ける権利はあるのかな…?」



 居ても立ってもいられない悠馬だが、その気持ちはすぐに迷いへと変わった。


 悠馬は勘違いをしている。自分の闇堕ちがバレて花蓮の器に負担がかかったのだと。


 加えて、昨日の許嫁の破棄宣言。


 そんなことをした男が、花蓮を助けに行っていいものだろうか?



「あー、やだやだ。お前のうじうじモードまじで面倒なんだよ!お前の求めてる答えは、花咲花蓮を救った先にある!だから今は何も考えずに助けに行けよ!助けたいんだろ?」



 そんな悠馬を見た星屑は、悠馬の迷いを一蹴した。


 悠馬がうじうじしているのは珍しいのだが、星屑は未来で何度も目にしているのか、不機嫌そうに声を荒げる。


 一体、何を迷っていたんだ。


 星屑から喝を入れられた悠馬は、我に返ったのか、目を見開く。




 花蓮にこっぴどく振られたって、構わない。何を言われたって構わない。


 俺は自分勝手でワガママで、闇堕ちがバレるのが怖くて君から逃げ出した最低のクズ野郎だ。


 でも、それでも…このまま会えなくなるなんて嫌だ。彼女には幸せになってほしい。幸せに生きてほしい。こんなところで死なせなくない!




 ゆっくりと立ち上がった悠馬は、決意を固めた眼差しで、星屑を一瞥する。



「さあ行け!未来を変えてこい!」



 悠馬の求めている答えは、花蓮を救った先にある。


 そう告げた星屑は、悠馬の背中を叩くと、くしゃくしゃの笑顔を見せた。



 ***


 そして現在。



「…おい、おいおい。君は第1高校の暁くんじゃないか?どうしたんだい?確か君、停学になってるはずだよね?」



 声を発した人物。


 茶髪に真っ黒な瞳をした彼、暁悠馬は、異能祭のとき、モニター越しに確認した表情とは全く違う、まるで人殺しでもしそうな形相で、刈谷を見つめている。



「うん、停学中だよ。それがどうかした?」




「やめといたほうがいいよ。勝手に外に出たら、停学期間が延びるし…オススメはできないかなぁ…」



 つい先ほどまで、下心丸出しで花蓮に飛びつこうとしていた刈谷だったが、さすがは3年近く善人を演じてきただけあって、切り替わりが早い。


 悠馬が居ると気づくや否や、みんなから支持を得ている生徒会長モードへと切り替わり、にっこりと笑いながら悠馬に忠告を始めた。



「今花蓮ちゃんを襲おうとしてた刈谷センパイも停学なんじゃないですか?」




「お、おいおい!君は誤解をしているよ、俺は花咲さんを救った側だ。うちの学校の松山くんが卑劣な手を使って花咲さんを襲おうとしていたんだ…僕は彼のことを学友だと思っていたけど、彼は目先の欲に目を眩ませて、犯罪行為に手を染めてしまった…」



 花蓮を襲おうとしていた刈谷は、覇王から花蓮を助けてあげたんだと弁明をする。


 刈谷のその様子は完全に善人であって、なんの証拠もなく悪人だと言ったところで、誰も納得はしないだろう。


 それほどに、刈谷の生徒会長としての人格は完成していた。



「へぇ…そうなんですか。じゃあ、花蓮ちゃんを救った刈谷センパイの勇姿をまとめたこの動画、ネットにあげてもなんの問題もないですよね?」



 薄ら笑いを浮かべた悠馬は、手に持っていた携帯端末の画面を刈谷へと見せ、再生ボタンを押す。



「手に入った!手に入ったぞ!花咲花蓮が!今日からこの女は、俺のものだ!誰にも言い寄らせはしない、この女は俺のものなんだ!」



 悠馬が再生ボタンを押すと同時に大音量で流れ出した刈谷の嬉しそうな声。


 それはつい先ほど、覇王が連行された後に嬉しくて叫んでいた、刈谷の動画だった。


 その動画は、刈谷が花蓮は俺のものだ発言をするところから、花蓮の胸に触れようとするところまでを捉えた動画だった。



「な…暁くん、それをすると君もこの場に居合わせた事になるんだよ?君だって、それ相応の罰は受けるんじゃないかな?」



「花蓮ちゃんを救えて退学になるなら、本望だよ」



 携帯端末を操作しながら、何の迷いもなさそうにそう告げる悠馬。


 その瞳は、退学になど臆していない、本気だという気持ちがこもっている。



「そっか…そっかそっか。お前は大人しく帰らないんだな?暁。人の忠告は素直に聞くもんだぜ?まぁ、聞いたところですることは変わらないんだけどなぁ?」



 悠馬が現れた途端、みんなが憧れの生徒会長を演じていた刈谷だったが、悠馬の気が変わることがないことを悟ってか、口調を元どおりに戻す。



「木場!こいつが持ってる携帯端末を壊せ!」



「はいよ、坊ちゃん」



 刈谷が木場と叫ぶと同時に現れる迷彩服の男。


 悠馬の背後に突如として現れたらその男は、冷たい眼差しで悠馬を見下ろすと、拳を振るった。



「っぶね!」



 認識阻害系の異能か?


 超至近距離まで近づかれていたというのに、まったく気づくことのできなかった悠馬は、木場と呼ばれた男の攻撃をギリギリのところで回避して、背中を壁にあずける。



「坊ちゃん、例のブツは設置完了してますぜ。んでコイツは…あれ?標的と顔違くないっすか?」



 先ほど刈谷がモニター越しに見ていた人物とは、全く違う顔。


 なぜ違う人物を狙っているのかわからない迷彩服の男、木場は、不思議そうな表情で訊ねた。



「イレギュラーだ。動画を撮られた」



「ははっ、坊ちゃんは詰めが甘いなぁ」



 動画を撮られたと聞いた木場は、面白そうに笑って見せると、悠馬の携帯端末をじっと見つめ、手を差し出す。



「痛い目見たくないなら、その携帯、置いてったほうがいいよ?」



「それはやだなぁ…この端末、お気に入りなんだよ」



 また消えた。


 悠馬が断ると同時に、姿を消した木場。


 ほんの1秒ほど前までは目の前に立っていたというのに姿が見えなくなる異能。



「透過か?」



 悠馬の脳内に最も焼き付いている異能。


 透過はこの島に来るまで聞いたことのない異能であったものの、美月が保有していたことから、透過するところを見せてもらったりした異能である。


 その異能を、木場と呼ばれた男も保有している。


 そう考えたって、何らおかしくない。



「違うっすよ。認識阻害っす」



 悠馬が木場の異能について考えていると、囁く声と共に、横から拳が降って来る。



「っ!」



 その拳は、悠馬の頬を掠めたものの、捉えるには至らなかった。



「今のも避けるんっすね。坊ちゃん、彼は非正規の軍人か何かですかい?」



 楽々、とはいかないが、2発も拳を避けられた木場は、悠馬にそれなりの実力があると認識したのか、刈谷の方を見る。


 木場は元自衛隊員で、3年前に起こった世界大戦にも参戦した、実戦経験もある人間だ。


 そんな彼の攻撃を、高校生が2発も回避したのだから、木場が不思議に思うのも当然のことだろう。



「…そういう話は聞いたことはない…が。現状、この島で1番厄介な異能を持っているのがその男だ」



 フィナーレで、異能島最強と謳われた戀を追い詰め、他の生徒たちを圧倒した男。


 刈谷にとっての悠馬の危険度は今や、異能島で1番となっていた。



「へぇ…じゃあ、俺が本気でやってもいいんっすね?」



 それを聞いた木場はニヤリと笑って見せると、愉快そうに肩を動かしながら、距離を取っていた悠馬へと近づいていく。



「ああ。だが、殺すなよ」



 花蓮の寮内がピリピリとし始める中。


 刈谷は木場が負ける可能性など微塵も感じていないのか、余裕そうな表情で釘をさした。


未来、変えたいです…

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