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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
花蓮編
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SOS

 大きなブロック塀。まるでヨーロッパに修学旅行に来たのか?と聞きたくなるほど洋風な作りの塀を眺める覇王は、その先にある大きな門を見て、呆れたため息を吐いた。


「いつ見てもすげえよな…花蓮の寮は」


 特待入学生の花咲花蓮の寮。


 それはこの世の贅を尽くしたような、大きなお城のような作りになっていた。


 第7学区、第7高校前駅から、学校とは反対側に歩くこと約5分。


 賑やかな商店街を抜けて、発電所の手前にある花蓮の寮は、とてつもない大きさだ。


 多分、ゴルフ場1個分は余裕で入るだろうし、ひとりの寮とは思えないほどの大きさだ。


 おそらく、第7高校の1年生生徒が花蓮の寮で生活しろと言われても、1人1人部屋が振り分けられるほどの大きさだ。


「まじで、理事や教師陣は、何を考えてこの寮を用意したんだよ…」


 とてもひとりで使いきれるとは思えない大きな寮。


 話では、花蓮が適当に、大きい寮がいい。と言ったら、拡大解釈した異能島側が、お城を作れ!と言って、この大きな寮ができたらしいが。


 いったい、ひとりの生徒にいくら金をかけたんだ?と不安になるし、高校入りたての生徒でもわかる。異能島の運営側は、筋金入りのバカだな。と。


 塀を歩いた先にある門へとたどり着いた覇王は、門がほんの少しだけ空いていることに気づき、標識の横にあるカメラ付きインターホンを鳴らすのをやめる。


 多分、花蓮のことだから、俺の顔を見たら会わずに突き返される。


 約2ヶ月間、クラスメイトとして過ごして来た覇王は、そのことをよく理解している。


 さすがに、ここまで来て突き返されたくない覇王は、静かに門の隙間から敷地内へと入ると、キョロキョロと辺りを見回し、目を輝かせる。


 覇王がここに来るのは、1度目というわけではない。


 入学直後、Aクラスのメンバーで、一度だけここへ訪れたことがあった。


 しかしながら、その時はあまり時間もなかったし、クラスメイトもたくさんいたため、周りを見る余裕などなかった。


 そんな理由もあって、門を抜けてから入り口の扉までの間にある、右側の大きな庭を見ている覇王は、感嘆の声をあげる。


「やべぇ…」


 時刻は19時を回っているため、薄暗くはなっているものの、覇王が目を向ける先には、花園や東屋、そして遊具が並べられている。


 ここが第7高校ですよ。と言われても、初めて来た人なら何の疑いもなく、納得してしまうことだろう。


 覇王が視線を向ける反対側には、大きな池まであるほどだ。


 税金を使っているのかは知らないが、税金だった場合、大炎上不可避のクオリティだ。


 そんな花蓮の寮へと入っていく覇王は、玄関先まで辿り着くと、そこにも付いているインターホンをじっと見つめ、一息いれる。


「よぉーし、押すぞ、押すぞ?」


 意識をしている女子生徒の寮のインターホンを鳴らすのには、勇気がいる。


 メールを送るのにだって、何度か文章を書きなおしたり、あれ?これ文章おかしくないよね?などと、何度も確認をするものだ。


 その要領でインターホンを押すのに慎重になっている覇王。


 それは初々しい男子のように見えるが、実は彼、松山覇王にはすでに恋人がいる。


 まぁ、一夫多妻だから驚くことではないのだが、覇王が初々しくないことだけは、知っておいてほしい。


「くらえっ!」


 まるで異能を放ったかのような掛け声をかけた覇王は、人差し指でインターホンを押し込むと、チャイムのような音が、玄関先で鳴り響く。


「押したぞ…俺は押したぞ…」


 花蓮の寮へと行って、インターホンを押した。


 ただそれだけのことなのに、一喜一憂する覇王は、足をドタバタと跳ねさせながら、喜びを露わにする。


「……」


 しかし、そんな覇王のことなどいざ知らず、花蓮の返事が返って来ることはなかった。


「え?あれ?」


 もしかすると、このインターホンにも付いているカメラを確認して、げっ、覇王じゃん。無視でいいや。などと思っているのではなかろうか?


 数分が経過したというのに、返事も足音も聞こえてこないことに不信感を抱いた覇王は、数歩後ずさると、花蓮の寮の電気が付いていることを確認する。


 電気はついてる。寮の中にはいるはずだ。


 いや、学校を途中で無断欠席したのだから、寮に引きこもっていることは間違いないだろう。


「おーい、花蓮。プリント届けに来てやったぞー…顔くらいみせろよー」


 いつものような煽り口調ではなく、優しく呼びかけるように声を上げた覇王は、これなら出て来るだろうと満足げに、部活バッグの中をガサゴソと漁り、花蓮のプリントを手にする。


 覇王が考えているのは、ただ1つだけ。


 どうやって彼女に、プリントを渡すのか、だ。


 叶うことなら、花蓮の寮に上げてもらって、ほんの少しだけイチャコラしてからプリントを渡したいものだ。


 いや、それが出来なくても、花蓮の寮に入れれば上出来だ。


 1人で花蓮の寮に入ったともなれば、高校3年間、誰にでも自慢できる武勇伝となること間違いなしだ。


 密かに悪巧みをする覇王は、これから花蓮が出て来たら、どんな口実で寮に入れてもらおうかと、必死に無い脳みそを回転させる。


「しっかし…おせぇな…風呂か?」


 インターホンを鳴らしても、声をかけても出てこない花蓮。


 あまりに遅すぎる対応に、風呂という考えを頭に入れた覇王だったが、覇王は女心というものを知らない。


 そのまま連絡を取ればいいものの、そんな手間をかけない覇王は、連続でインターホンを鳴らすという、女子から嫌われる行動ナンバーワンであろう暴挙へと出た。


 ピンポーンピンポーン。と、幾度となく鳴り響くインターホンの音。


 これは、プリントを届けに来たというよりも、嫌がらせをしに来たと言われた方が、しっくりくるかもしれない。


 多分、悠馬がここに来ていたら、覇王を引っ叩いて激怒していただろうが、現在、覇王を止める人物はこの場に誰1人いない。


 調子に乗ると止まらなくなる覇王は、扉が開くまでインターホンを鳴らそうと決意をし、歯を食いしばりながらインターホンを連打した。


「うおおおおおお!くらええええ!」


「っ…うるさいのよ…バカ覇王…」


 覇王がインターホンを鳴らすことに夢中になっていた頃。


 小さく空いた扉の隙間から、元気のない花蓮の声が聞こえた覇王は、インターホンを鳴らすことをやめ、キョトンとした表情を浮かべた。


 今のが花蓮の声?


 いつもなら、「うるさいのよバカ覇王!あんた消しとばされたいの?」とか、「マジでキモい!インターホンに触らないでよ!」などと罵って来るはずなのに、やけに角がないというか、まるで赤子に殴られたような気分だ。


 元気のない花蓮の声を聞いた覇王は、ほんの少しだけ空いている扉を握ると、ゆっくりとその扉を開き、そして玄関に立っていた花蓮を見て、焦りの表情を浮かべた。


 熱があるのか、いつも真っ白な肌が真っ赤に変わり、呼吸はかなり荒い。


 服はぐしょぐしょに濡れているし、これが汗だとするなら、救急車で搬送した方がいいレベルだ。


「お、おい!大丈夫かよ花蓮!?風邪か!?なんかの病気か!?」


「大丈夫よ…私はいつも通りだし…元気だし」


 覇王の問いかけに、いつものように返している花蓮のだが、その言葉には、いつものようなキレはない。


 フラフラしているし、目は虚ろだし、完全に病気だと思っていいだろう。


 覇王が知らないのは当然のことだが、今花蓮の身体に起こっているこの現象は、結界の暴走の第1段階だ。


 悠馬とゴッドリンクをしてようやく抑え込んでいたシヴァの結界が、悠馬という支えを失った花蓮では制御ができなくなり、溢れ出ている。


 ギリギリ器に収まっていたものの、器が揺れたことにより、亀裂が入り、溢れでて来ている状態の花蓮は、熱という形で、身体に影響を及ぼしていた。


「大丈夫なわけないだろ!と、とりあえず、楽な姿勢になれよ。壁に寄りかかるとか…いや、ベッドか?」


「うん…」


 大人しく壁に寄りかかった花蓮は、頭を抑えながら、荒い呼吸をする。


 その様子は本当に、重度の病気に感染しているようだ。


 それがまさか、結界の暴走などとは知らない覇王は、焦りながらも、無い脳みそを回転させ、部活バッグへの手を突っ込んだ。


「あった!これ飲め!」


 それは会長から渡されたペットボトル。


 なんの確認もせずにそれの蓋を開けた覇王は、花蓮の口の中へと、その飲み物を流し込んだ。



 ***



「………はぁ」


 幾度となくため息を吐いている悠馬は、ベッドに倒れこんだまま、天井を見上げていた。


 今度こそ、本当に花蓮とはお別れだ。


 異能がバレたため、完全に脈なしとなってしまった悠馬は、死んでいるかのように動かない。


 そんな悠馬の寮の中には、怪しげな影があった。


 悠馬のベッドから少し離れた、電気の付いていないキッチンの中から、にっこりと笑う不気味な顔。


 その顔を目にしたら、間違いなくお化けを見たと卒倒してしまうことだろう。


「ねぇ」


「ん…?って、うわぁ!?!?」


 声がかけられたような気がした悠馬が振り返ると、真っ暗なキッチンの中に浮かぶ首。


 その光景を目にした悠馬は、心霊体験をしたようにベッドの上で一度跳ねると、目を見開きながら壁へと張り付く。


 お化け?生首?なんにせよ、鍵は閉めたはず。ならばこの生首は、どこから現れた?


「あははは!そんなに驚かないでくれよ!この僕がわざわざアドバイスをしに来てあげたっていうのに!」


「…誰だ?お前」


 悠馬の反応を見て、高笑いを始めた生首。


 目が慣れてくると、その顔は、生首などではなく、きっちりと胴体が付いている、ごく普通の人間だということがわかる。


 連太郎よりも薄いクリーム色の金髪に、真っ黒な瞳をした男は、両手を広げながら、キッチンから出てくる。


 悠馬はこの男のことを知らない。


 そもそも顔を合わせたことがないし、来てあげたと言われたって、どこの誰?としか質問できない。


「あー…そっか。こっちでは初対面だもんね。ごめんごめん。俺は星屑駿太。第7高校の都市伝説になってるヤツって言えばわかるかな」


「ああ…」


 星屑と名乗った男の説明を聞いた悠馬は、恐怖が冷めたようにベッドの上に座り込む。


 都市伝説というのは、曖昧だから怖いのであって、科学的、現実的になってしまえば、恐怖すら感じなくなる。


 合宿の時、アダムが話をしたときは実体がなくて不気味、怖いなんて思っていたが、その男が目の前に立っていたって、普通の人ならば恐怖なんて感じない。


「おおー、それはわかってくれるんだ?まぁ、異能島にいたら嫌でも聞く話だよねー」


「それで?お前は俺のことを知ってるようだけど。どこかで会ったことあるのか?」


 こっちでは初対面。という言葉を聞いた悠馬は、島に来る以前に星屑と顔を合わせていたのではないかと考える。


 つい先ほど、悠馬が星屑に声をかけられるまで存在に気づかなかったように、この男は気配を完全に遮断できるようだし、どこかで会っていたとしても、覚えていないかもしれない。


 自分が失礼なことを言っているのではないかと承知しつつも、大事なことのため星屑へと訪ねた悠馬は、やつれながらも真剣な表情を星屑へと向けた。


「いや。会ったことないよ」


「なんだよ…本当に初対面じゃねえか…」


「でもね、ぼくは未来を見れるんだ。だから、ここでは初対面だけど、僕と悠馬は何度も顔を合わせてる。…まぁ!君には関係のない話だよね!」


 ちゃっかりとんでもない異能を保有していることを暴露した星屑は、くるくると回転しながらリビングへと向かうと、椅子に飛び乗り、「日本の夜明けぜよ」などと言いそうなポーズをとる。


「…そうなんだ」


 未来を見れる、そして悠馬は、星屑とそこそこ親しい仲になっているということになる。


 一体これから何が起こるのかはわからないものの、そのことだけ知った悠馬は、自分の未来を知りたくないのか、星屑の異能について、深く聞こうとしない。


「んで僕は、いくつもの分岐点の先の未来も見れる。例えば今話せるのは、花咲花蓮の行く末、とかね」


「な…」


 悠馬が興味を示さないことも織り込み済みだったのか、悠馬の気をひく内容を口にした星屑は、驚いた悠馬の顔を見て、にっこりと笑顔を浮かべる。


「はは、悠馬なら1番気にしてることだよね?」


「知っていること、見たこと全部話せ」


 花蓮のことと聞いて身を乗り出した悠馬は、星屑へと詰め寄ると、鋭い眼差しで睨みつける。


「無理無理〜、未来ってのは、そう簡単に話せるものじゃないんだよ。僕の異能には、色々な制約があってね。でもまぁ…このくらいならいいかな」


 未来を見通せたとしても、その結末を好き放題言いふらして、自分の望んだ結末にできるわけじゃない。


 もしそれが可能ならば、星屑は今頃、こんな島で生活はしていないだろうし、この世の贅を尽くしたところで好き放題やっていたはずだ。


 それができてないということはつまり、自分でも未来に干渉できない、もしくはなんらかの原因で自分が弾き出されるか、だ。


 例えば、分岐点をさらに増やそうとしても、肝心なところで体が動かなくなる。とか、分岐点を無理やり切り替えることは不可能。とか。


 そこまで考えたところで、黙って星屑の次の言葉を待つ悠馬は、彼の口から発せられた衝撃の結末を聞いて、絶望することとなった。


「花咲花蓮、あと30分もせずに死ぬよ?」


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