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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
81/474

後夜祭

 時刻は20時。


 第1異能高等学校の敷地内は、やけに賑やかな声が響きわたっていた。


 校門を抜けて、大きな階段を上った先にある大広間では、調子に乗った生徒たちが一発芸をしたり、石像に登って踊ったり、花壇の中に入り込んではしゃいでいる生徒もいる惨状だ。


 終いには、小さな水路に挟まって抜けなくなった、そんな間抜けな生徒まで現れる始末。


「優勝!優勝!」


「いよっしゃぁぁああ!」


 その一角。1年生のAクラスのみで固まったグループは、他の輩のようにふざけてはいないものの、ヤケに上機嫌な様子だ。


「いやぁ、やっぱ、俺がリレーで1位になった貢献度が高いよな?」


「いやいや、それを言うなら、俺様だって借り物競走1位だったぜ?」


「お前は異能使って相手の足重くしてたから不正だろ不正!よって貢献度は低い!」


「ぬぁにをぉ!?」


 リレーで1位になった栗田と、借り物競走で1位になった通の言い争い。


 どうやら通は、相手選手に向けて異能を発動させて1位を獲得していたようだ。


「不正じゃねーよ!だって俺の競技異能の使用可能だったし!?」


「それでも卑怯な小細工であることには変わらないだろ!俺より貢献度は低いっての!」


「キー!ちょっと足が速いからって調子に乗るなよ栗田ぁ!」


「へっ、何を言っても負け犬の遠吠えだぜ」


 勝ち誇った様子の栗田は、地団駄を踏む通を鼻で笑いながら、Aクラスの女子生徒たちの元へと歩いていく。


 多分、俺が優勝の立役者だからフォークダンス踊ろうぜ!などと言いにいくのだろう。


「おい、通。あんま恥ずかしいことすんなよ。先輩にも見られてんだからさ…」


「おいおい八神、俺だって1位取ったんだから褒めてもらいたいんだぜ?」


 賑やかな様子を眺めながら通へと近づいてきた八神は、通の横にあった花壇の煉瓦に座ると、通を横に座るように促してから話を始める。


「あーあー凄い凄い。でもまぁ、みんなでとった1位だろ?誰のおかげとかじゃなくて、みんなの貢献がないと、総合得点勝負なんだから、勝てるはずがない」


「ま、そうだな!みんなが頑張ったから、第1が1位だった!それでいいぜ俺は!」


 八神が諭すと、素直に納得した通は、おもむろに立ち上がると、両手を腰に当ててから満足そうな表情を浮かべる。


「じゃ、俺はフォークダンス踊ってくれる可愛い女子を見つけてくるぜ?いつまでもお前の横にいちゃ、嫉妬するばっかだからな!」


「お、おう…いってらっしゃい…」


 周りにはチラチラと様子を伺う女子たちがいるようで、八神が顔を上げると数人の女子と目が合う。


 そんな空間が嫌だったのか、自分から離れていく通を見送った八神は、絶望した表情を浮かべる。


 そう!!八神は後夜祭のフォークダンスを、誰とも踊りたくないのだ!


 別に、男が好きとか、そういう理由で踊りたくないわけじゃない。


 夕夏や美月に誘われれば、八神だってホイホイついていくことだろう。


 しかし、その2人から誘われることはほぼないだろう。


 だからこそ、興味のカケラもない女子たちに誘われて、断るという作業はどうしようもなく苦痛だったのだ。


 そして、唯一の救いが通の横にいること。


 通は女がいる空間でも下ネタを大声で叫んだり、下心アリアリの発言をするため、女子からは敬遠されがち。


 そんな彼の横にいれば、女子たちはあまり近づきたがらなくて、フォークダンスが終わるまでの時間をやり過ごせる。


 それが八神の考えた最強プランだった。


 しかしながら、その計画は始動1分ほどで失敗してしまった。


 唯一の隠れ蓑をなくした八神は、ショックのあまり顔を手で覆う。


「あー…どうしよう…」


「おい、1年」


 先のことを考えて顔を隠す八神に、不意に投げかけられる声。


 それは渋く野太い声で、女子生徒からの声ではないことが容易にわかる。


「なんだよ…っ!?は、はい!なんでしょうか?」


 テンションだだ下がりの八神がめんどくさそうに顔を上げると、そこに立っていたのは黒髪のイカつい男。


 体格だけでいうなら学生という領域を超えていそうな見た目を目にした八神は、自分に声をかけてきた想定外の人物を目にするや否や、立ち上がると深々とお辞儀をする。


「ご、権堂先輩…ですよね…」


「そうだが」


 権堂のことは、八神も知っていた。


 去年の異能祭のフィナーレで、1年にして抜擢されたものの、開始直後に第6高校の戀のペアと相対し呆気なく敗北。


 上級生たちは、そんな権堂のことをバカだ無能だ雑魚能力者だとバカにしていたし、当時島のモニター越しに中継を見ていた八神も、大したことがない奴が出場している程度の、甘い認識だった。


 しかし今回のフィナーレを見れば、嫌というほど戀の実力を見せつけられる。


 攻撃が完全に通らない、攻撃が見えない。加えて去年は、もう1人レベル10能力者がいたのだから、凶悪極まりないことだろう。


 そしてこの、権堂の容姿。


 今にも殴りかかって来そうな鋭い眼光を見た八神は、彼から目をそらすと、いそいそと距離を取る。


「何か用…ですか?」


 流石にお前、女に人気でムカつくから。と言って殴ってくるとは思えないが、念のため身構えながら尋ねる八神。


 気づけば、八神の様子を伺っていた女子たちは彼から目を逸らして、逃げるようにしてその場から去っていくのが見える。


「ああ。別にお前に用がある、というわけではないんだがな」


 少し戸惑ったような、頬を擦りながら、少し緊張しているご様子の権堂。


「な、なんでしょうか?」


「暁がどこにいるのか聞きたくてな。どこにいるのか知っているか?いくら探しても見当たらなくて困っている」


「あ、え…?」


 想定外の質問。


 カツアゲや良からぬことばかりされるものだと考えていた八神は、権堂の質問を聞いて呆気にとられる。


「そういえば…フィナーレ終わってから見てないですね…」


 20時半からフォークダンスが始まるというのに、この場に現れない悠馬。


 第1を優勝に導いた、いや、第1を優勝のまま維持させた張本人なのに、何をしているのだろうか?


「まさかアイツ…!」


 女子たちにフォークダンス誘われるのが嫌で逃げたのか!?


 そんな可能性を示唆した八神は、1人だけ逃げ出した悠馬に不満を感じ、権堂の前で微妙そうな表情を浮かべる。


「そうか。ありがとう。また日を改めるとする」


「すみません。お役に立てず」


「いや、お前の気にすることじゃない」


 そう言って去っていく権堂。


 彼を見送った八神は、悠馬のことを恨みながらフォークダンスを踊らないことを固く決意したのだった。



 ***



 一方、その頃。時計塔の真正面に位置する噴水の前では、賑やか(?)な男子生徒たちの声が響き渡っていた。


「南雲ちーん、遊ぼーよー!」


「おい紅桜!南雲さんを変な呼び方で呼ぶな!」


 Bクラスの南雲のことをちん付けで呼ぶ連太郎と、そんな連太郎を怒鳴りつける碇谷。


「クク…碇谷、俺は呼ばれ方にこだわってねぇ。別に誰がなんと呼ぼうが構わねぇよ」


「な、南雲さんがそう言うなら…」


 特に呼び方にこだわりがない南雲が、連太郎のちん付けを許すと、碇谷は素直に言うことを聞く。


 南雲と連太郎は、合宿で共に死線を潜った仲だからか、それなりの関係を続けていた。


 南雲は連太郎の心の闇を感じ取り、そして連太郎は、悠馬と似ている南雲の雰囲気に興味を抱き、共に観察をしているような状況だ。


「んじゃ南雲〜、お前はフォークダンス誰と踊るんだ?」


「ちん付かねえのかよ!」


 わざわざ南雲からちん付けの許可まで貰ったのに、その次から南雲のことを呼び捨てで呼び始めた連太郎にツッコミを入れる。


「あ?オレと踊りたい女なんざいねぇだろうよ。それにオレは、踊れば結婚できるなんていう噂話には興味がねぇ。やりたい奴らだけやってろ」


「マセガキみたいな発言するなよ〜、ノリ悪いって、女子のみんなから距離置かれちまうぜ〜?あ、もう距離置かれてるか!あははは!」


 南雲の好きな奴だけやってろ発言。


 それはクラスではぶられた生徒が、不貞腐れて呟くような、冷めた発言だ。


 高校1年の体育祭、しかも後夜祭。


 勝て!負けろ!という概念が存在しないのが後夜祭のため、ほとんどの生徒がハッチャケているのに大人びた態度をとる南雲は、連太郎が言った通りマセガキなのかもしれない。


「テメェ!南雲さんはBクラスの女子からは人気なんだからな!お前らのクラスの女子は変な噂鵜呑みにして寄ってこないだけだ!勘違いすんな!」


 自分のことじゃないのに、自分のことのように怒る碇谷。


 入学当初の南雲の暴力行為というのは、目撃した生徒たちからすれば南雲はいい奴。噂だけ聞いた生徒たちからすればやばい奴。という認識で終わっていた。


 そのため南雲は、他クラスの生徒たちからの人気はないが、自クラスの生徒たちからはかなりの人気だ。


 特に神宮が退学(死亡)した今、南雲が正しいことをしたと判断する生徒が増えている。


 つまり南雲は、Bクラスの女子とならフォークダンスを踊れるのだ。


「クク…そういうお前はどうなんだ?紅桜。オレをおちょくって来る割に、お前の横には女がいないようだが?」


 連太郎が投げた言葉のブーメランは、鋭さを増して連太郎へと戻ってくる。


 さっきまで他人のことを散々煽っていた人物が、実は自分も同じです〜なんてことがあれば笑い者だ。


「んん?俺?俺は今から、愉快な女の子のところに行こうかなーって思ってる!」


「ハッ、どうせケバいギャルのところに行くんだろ?お前の外見にはギャルがお似合いだぜ。しっしっ」


 愉快な女の子。と言ってAクラスの女子生徒たちの方向を指差す連太郎。


 そんな彼を馬鹿にする碇谷は、南雲のことを散々馬鹿にしたお返しにと言わんばかりに、意地の悪い言葉を並べる。


「俺は黒髪の不思議ちゃん系がいいんだけどなー。ちょっと性格のどぎつい奴!」


「あー…そんな奴、今日見たような…」


 碇谷の悪口を悪口として捉えていない連太郎は、ギャルではなく黒髪の女の子が良いとほざき始める。


 そんな連太郎を見て、顔を見合わせた南雲と碇谷の2人は、今日の昼ごろの出来事を思い出していた。


「クク…そういえば、イイ女を見かけたな」


「えぇ!?マジ!?どこにいるんだ!?」


 長い黒髪にオッドアイ。


 不思議なオーラを放ちながらも裏ではドギツそうな少女、朱理のことを思い出した南雲は、面白そうにその話を始める。


 連太郎は連太郎で、自分の好みの女の子と聞いてか、やけに興奮気味だ。


「でもまぁ、お前じゃ無理無理。釣り合わねぇもん!なにしろその娘、超絶イケメンの彼氏いたし!」


「んなの、俺にかかればちょちょいのちょいでころっと俺のものにできるって!まぁ、相手が八神や悠馬だと無理かもしらねぇけど!」


 釣り合わない、彼氏がいると聞いても興味津々の連太郎。


 今自分が発した人物の片方と付き合っている(実際は付き合っていない)ことを知らない連太郎は、南雲に詰め寄ると餌を欲しがる犬のような瞳を向ける。


「ここに来るんじゃねえのか?腰近くまである長い黒髪で、確か青色メインの紫陽花の刺繍が施された浴衣を着てたな。顔はお前のクラスの美哉坂にも勝るとも劣らない美貌。肌は真っ白だ」


「おおおお!最高じゃん!それにここに来るのか!?俺ナンパする……って、アレ?ここに来るってことは、彼氏第1のやつ?」


 フォークダンスが行われる後夜祭で、第1高校に訪れる。


 それはつまり、第1の生徒の中に彼氏がいるということになる。


 さすがの連太郎も、自分の学校の生徒とは揉め事を起こしたくないのか微妙な表情を浮かべると、少し冷めたように一歩後ずさる。


「ははは!聞いて驚け!暁の彼女だよ!お前じゃ無理無理!あの娘は誰も横取りできないね!」


 まるで自分が勝利したように豪快に笑う碇谷は、連太郎の呆気にとられた表情を見て、彼がぐうの音も出ないと捉えたのか、さらに高笑いをしてみせる。


「え?悠馬が彼女?」


「ん…?お前も知らなかったのか?暁のことを詳しく知ってそうだから、彼女のことも知っていると思ってたが…」


 悠馬が闇堕ちだと知っている生徒は、第1の中では南雲と真里亞、そして連太郎と美月のみ。


 そんな限られた情報を共有している中で、最も悠馬と仲が良い、そして合宿以前から悠馬のことを知っている連太郎が、悠馬の彼女を知らないというのは、意外なことだ。


「いや、聞いたことないし…」


 まるでわけのわからないと言いたげな連太郎。


 なにしろ連太郎は、悠馬の許婚の一件を知っている。


 それが終わるまでは誰とも付き合う気は無いと言っていたし、さらに言えば花蓮との件が破談に終われば、悠馬は一生独身で過ごすだろうとも予想していたほどだ。


 そんな彼が、花蓮との話をつける前に彼女を作るなんてことはあるはずがない。


 いくら悠馬の性格が歪んでいると言えど、それは女関係のことで歪んでいるわけではない。


 間違いなく、何か裏があるはずだ。


「まーた面倒ごとに足突っ込んでるのか?アイツ…」


 そこまで考えたところで、連太郎は悠馬の善人っぷりに呆れながら、小声でつぶやく。


「ん?何か言ったか?」


「いんや!もうそろそろ女の子探そうかなって!情報提供ありがとな!それじゃ!」


 意外な収穫をした連太郎は、南雲と碇谷に手を振りながら、Aクラスの女子生徒たちの方へと向かう。


「俺を巻き込むなよ〜…」


 毎度毎度悠馬にこき使われる連太郎は、次の一件では巻き込んで欲しくないと言いたげに、小さな声で嘆いた。

今日で投稿を始めて半年でした。


6ヶ月って、案外早いものですね…

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