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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
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第2高校は戦意を喪失したようです

 秋雨と神奈の激突、そして悠馬と花蓮、覇王とレオの勝敗が決した直後。


 第2高校、第3高校、そして第6高校は、三つ巴の大乱戦を始めていた。


 しかも、悠馬たちの三つ巴と違って、6人が同じ空間で、連携もなしに戦うという、もはや敵も味方もわからない状態だ。


「ぐ…!」


 第3高校の生徒が踏ん張ったような声を上げ、背後にあった木に激突する。


「大丈夫か!?」


 そんな彼を見ていた同じ第3高校の生徒も、助けに行く余裕はないが、心配する余裕はあるようで彼に向かって声をかける。


「ああ……これが、双葉戀…日本支部の異能島で、最も異能王に近い男…!」


 吹き飛ばされた第3高校の生徒の視線の先にいる、真っ黒な髪の男子生徒。


 瞳は赤く、好戦的に見えなくもないが、さらに攻撃を加えるそぶりは見せない。


 彼の名前は双葉戀。真っ黒な髪に真っ赤な瞳が特徴の、第6異能高等学校の3年生だ。


 昨年度の異能祭で、一切のダメージを負うことなくフィナーレを終え、第6高校を優勝へ導いたとして、この異能島で生活する学生のほとんどは、彼の名前を出されるとすぐに誰かわかる始末だ。


 異能島のナンバーズからも、〝総帥に最も近い男〟〝日本支部の中で最も異能王に近い男〟と噂され、実力は相当なものだ。


「だが!今年は負けてもらう!!」


 吹き飛ばされた第3高校の生徒が、地面の砂を浮かし、石器の様な形にすると、容赦なく戀へと放つ。


「辞めといたほうがいいよー、戀くんに攻撃当たんないから、他のやつを優先したほうがいいと思うよ。僕は」


「うるせぇ!最下位の第2高校は黙ってろ!落ちこぼれ学校が!」


 間違いなくレベル10で、最強と謳われる戀への攻撃を行う第3高校の男子生徒。


 そんな彼に対して優しく注意をしたのは、茶色の髪に、茶色の瞳の、体操着に2と記されている生徒だ。


 彼の名前は一ノ瀬炎也。整った顔立ちと、落ち着いた表情はアイドルを彷彿とさせてしまうものだ。


 そんな彼もまた、異能島の中ではトップクラスの実力を保有している。


 第2高校に在学する唯一のレベル10能力者で、炎の使い手。戀と同じく高校3年で、今年で卒業してしまうのだが、戀さえいなければ一ノ瀬が異能島で1番強かったかもしれないとよく噂される生徒だ。


 去年の異能祭にて戀に敗北し、ダメージすら与えられなかったものの、他の生徒と違ってド派手なバトルを見せた為、異能島のナンバー2は一ノ瀬だと言われている。


「…僕も好きで最下位やってるんじゃないけどなぁ…」


 最下位は黙れという第3高校の言い分に少し苛立ったのか、表情を強張らせた一ノ瀬は、飛んでくる葉を華麗に回避すると、残った葉を自身の異能で燃やし尽くす。


「僕を狙うのは得策とは思えないんですけどね、第6高校の生徒会長さん」


「お前を足止めしなければ、後々厄介になるからな」


 草木を操る、連太郎とよく似た異能を持っている、6という数字の描かれた体操着を着ている、戀のペアの第6高校の生徒会長。髪は特徴的な緑色で、ザ・植物操れます!と言った雰囲気だ。


 一ノ瀬の実力は知っているが、彼に好き勝手されると厄介だと判断した為、一騎打ちでの時間稼ぎを始めるらしい。


「うーん…僕としては、ちょっと…ねぇ?」


 最下位は黙ってろと言ってきた第3高校の男子生徒をチラッと見て、あっちを狙いたいと言いたげな一ノ瀬。


 一ノ瀬はつい先ほどの、第3高校の生徒の発言を根に持っている。


 異能祭。ポイント的には最下位といえど、ここまで学校全員の生徒たちが繋いでくれたバトン。


 今から逆転は不可能。フィナーレが開始される前に、その事実は確定していた。


 それでも、思いは違えどみんなが頑張って、ここまで繋いでくれたことには変わりない。


 そんなバトンを、第2高校の生徒たちの思いを、落ちこぼれ学校という単語で纏められてしまうのは、彼にとっては我慢ならないことだった。


 いや、誰だってそうだろう。自分のことや、努力をしてきたことを見下される様な発言をされれば、誰だってムカつく。


「じゃあさ、戀くーん、代わりにそいつ潰してよー。去年みたいに」


「…人聞きの悪い言い方をしないでもらえるか。俺は去年、そんな酷いことをして勝った記憶はない」


 第2高校の一ノ瀬が、第6高校の戀に代わりに倒してほしいとお願いする、異様な光景。


 もちろん、3年間異能島で過ごしてきたのだから、それなりに顔を合わせたことがあるだろうし、話したこともあるのだろう。


 しかし、まさかフィナーレで協力を仰ぐような発言をするとは思っても見なかった、一ノ瀬と相対する第6高校の生徒会長と、一ノ瀬に指名された第3高校の生徒は立ち尽くす。


「まぁ、言われるまでもなく、やることは決まってるけど」


 一ノ瀬に言われなくても、ポイントを獲得するためにやることは決まっている。


 なんの躊躇もなく、無造作に右手を前に伸ばした戀は、数秒間そのまま立ち尽くし、その後に手を下ろす。


「っ!?」


 戀が手を下ろすのとほぼ同タイミングで、遥か後方へと吹き飛ばされた第3高校の男子生徒は、大木に直撃する寸前で、離脱機能が作動し見えなくなる。


「いつ見てもすっごいなー…目に見えないんだから、どこにあるのかわからないしね…」


 不可視の一撃。


 遠くへ吹き飛んで退場した第3高校の生徒の方を見ながら、嬉しそうな顔をした一ノ瀬は、戀のペアの第6高校の生徒会長の攻撃を軽々と回避し、回し蹴りを入れる。


「ぐふっ!」


 異能での攻撃が来ると思っていたせいか、蹴りがモロに腹部に入った男子生徒は、腹部を抑えながら顔を歪める。


「僕が不意打ちなんて、許すわけがないでしょう?龍田会長」


 腹部を抑える、緑髪の第6高校生徒会長、龍田。


 まるで背中に目でもついてるのかと聞きたくなるような、人間離れをした動きを見せた一ノ瀬を強く警戒したように睨みつける龍田は、地面に手を触れると、そこに生えていた植物たちを急激に成長させ、一ノ瀬へと放つ。


「あらら。最初から結果は目に見えてるのに、健気だよね。会長の意地って感じかな?」


「戀!お前は残りの2人を倒してくれ!一ノ瀬は俺が時間を稼ぐ!」


「了解」


 一ノ瀬の質問を無視しながら、緑色の髪をなびかせ戀へと声をかける龍田。


 戀はその指示を素直に受け入れると、ちょっとした距離で戦っている残された第3高校の傍と、一ノ瀬のペアの生徒を目指し、不可視の異能を発動させる。


「すぐに蹴りをつけるから待っててくれよ。龍田」


「ああ。なるべく早く、な」


 戀の小声を聞いた龍田は、汗を流しながら作り笑いを浮かべる。


 一ノ瀬の異能は、炎。それもレベル10の炎で、悠馬や夕夏と並ぶ火力を放てる超のつく強者だ。


 対する龍田の異能は、植物を操る異能。葉っぱなどの軽い植物は自在に操れる上に、地面に生えている小さな植物を急激に成長させ、自分の意思通りに動かすことは可能だが、連太郎の異能と違って、木を自由自在に操ることや、触れた木々から木刀を作り出すような、並外れた芸当は行えない。


 そんな龍田にとってすれば、炎の異能力者というのはかなり厄介な相手だ。


 なにしろ、炎を纏われてしまえば攻撃が通らない。


 相手が炎を纏って突進をしてくれば、それから身を守る術は持っていないし、植物だって燃えて使い物にならなくなってしまう。


 まさに相性最悪。


 勝てるとは微塵も思っていないことだろう。


「あらら。会長!戀くんに負けないでよー!さすがに、僕1人で戀くんと一騎打ちとか、去年と同じ展開絶対に嫌だからー!」


「善処はする…が!無理だった時はすまん」


 第3高校の生徒を押し気味の、第2高校の生徒会長。一ノ瀬のペアである彼は、最強と謳われる戀に負けるなという無茶振りを聞いて引きつった表情を浮かべながらも、絶望した様子はない。


「あはは。僕より先に落ちたら、罰として退任式で1発ギャグね」


「ぬ…!それは絶対に負けられないな…!」


 学校の教師たちからの推薦を得て生徒会長になったであろう彼は、一ノ瀬の発した罰ゲームの内容を聞いて、あからさまに嫌そうな顔をする。


 生徒会長。神奈や刈谷と同じように、周囲から羨望の眼差しを向けられ、皆が憧れ、品行方正だなんだと褒め称えられる生徒会長という職業からしてみると、退任式で1発ギャグなど論外。


 間違いなく場はシラケるだろうし、ドン引きされること間違いなしだ。


 あー…あの人、マジないんだけど。なんかいい人そうだったのに、急にギャグし始めるし。頭おかしいんじゃない?などと言われてしまうことだろう。


 そんな絶望的な未来を予感した生徒会長は、第3高校の生徒に蹴りを入れると、戀の手の向きを見て、異能の範囲外であろう場所へと逃げる。


「じゃあ、こっちも早くケリをつけようかな」


「ふ…こっちのセリフだ!」


 自身のペアの会長の、負けるわけにはいかないと頑張っている姿を見た一ノ瀬は、しばらく大丈夫だろうと判断したのか、炎を纏いながら龍田の方へと向き直る。


 そんな一ノ瀬に対して、強がってみせる龍田。


 もちろん、虚勢だ。一ノ瀬が本気で異能を使えば、いくら植物を操って防御に回したところで、負けてしまうだろう。


 過程はどうであれ、負けるのは確定事項のようなものだ。


 そんな龍田からしてみれば、やることはただ1つ。


 戀が向こうの2人を倒すまで、一ノ瀬の身動きを封じる時間稼ぎをすることだ。


「ふふ、僕的には、そういう虚勢は好きだよ。前の僕を見てるみたいで、少し燃えてくるからね」


 ニッコリと、好青年のような笑みを浮かべる一ノ瀬。


 彼は最初から、今のように温和な人間だったわけではない。


 一ノ瀬は入学当初、神宮並みの自己中さと、南雲のような腕っぷし、そして夕夏のような異能を兼ね備えていた。


 自分が顎で指図をすれば、みんながみんな指示に従い、気にくわないものは全部壊す。周りのみんなが自分に媚を売ってくるという、まさに王様のような生活。


 去年のフィナーレで第6高校に敗北するまでは。


 昨年度のフィナーレで、最後まで残ったものの敗北を喫した一ノ瀬に待ち構えていたのは、温かい声だった。


 人生で初めて味わった敗北。


 負けたことによって自分の存在意義を失ったように感じ、絶望した一ノ瀬に、その声は救いになった。


 今まで、自分が脅して、圧力をかけて黙らせて来た生徒たちは、恨みもあっただろうが、それでも応援してくれた。励ましてくれた。来年また頑張ろうと言ってくれた。


 だから彼は、負けるわけにはいかないのだ。今年こそは、少しでもポイントを稼いで、第2高校に貢献してみせる。


「悪いけど、龍田会長はここでお別れだよ。だって俺が本気でやるからねぇ!」


 一人称が僕だった一ノ瀬は、自分のことを俺といい、好青年というよりも、ヤンキーという言葉が似合うような表情で炎を纏う。


「っ…やっと本性を現したな…!」


 一ノ瀬が第2高校の順位を上げる為にできることは2つ。


 1つ目はペアである第2高校の生徒会長と2人で逃げ回り、生存点により逆転。


 2つ目は、目の前にいる第6高校の龍田を撃破し、第3高校の生徒を撃破し、一ノ瀬か会長のどちらかが生存点を獲得する。


 どちらも生存することが大前提になり、そして戀を倒すということを視野に入れていない作戦。


 触らぬ神に祟りなしと言うし、去年と同じ過ちは繰り返さないという考えの一ノ瀬は、戀と言う最大のイレギュラー要素を徹底的に省いた立ち回りで、順位を上げる算段だ。


「喰らえ!俺の全力だぁっ!」


 一ノ瀬に対して、龍田が放った一撃。


 葉と草を利用したその一撃は、威力はありそうにないものの、動きを止めるには十分なほどの量と、そして速度を保ったまま一ノ瀬へと突き進む。


「相性が悪い」


 そんな龍田の一撃を眺めながら、相性が悪いと言い放った一ノ瀬は、彼の全力の一撃を一瞬で焼き尽くし、放った炎の余力で龍田を焼き尽くす。


「すまない。戀…!私はこれまでのようだ」


「後は任せろ」


「悪い、炎也…後、頼むぞ」


「はいよ」


 一ノ瀬の攻撃をモロに喰らい、離脱システムが発動する龍田。


 そんな光景を目にしていた一ノ瀬は、ちょうど向こう側でも勝敗が決したのだと悟り、離脱するペアを見る事もなく、返事だけをする。


 残された空間には、一ノ瀬と、そして双葉だけになっていた。


「…相変わらず、見えない攻撃は卑怯だよ戀くーん…でもまぁ、第3高校の生徒は会長が倒してくれてるか…」


 フィナーレを戦う生徒たちに渡された腕時計を確認した一ノ瀬は、第3高校の撃破ポイントが第6ではなく第2に加算されていることを確認して、一歩後ずさる。


 戀に負けることは確定事項のようなものだったが、一ノ瀬のペアが第3高校を倒してポイントを獲得しているのは十分すぎる戦果だろう。


「また、俺とお前で最終戦か?」


「…いや、今回は遠慮させてもらうよ。勝てる気もしないしね」


 2つ目のプランの軌道に乗ったと判断した一ノ瀬は、なんの躊躇もなく逃げ始めると、追ってこない戀を一度だけ確認し、森の中へと消えていく。


「……残り15分、か…」


 第2高校の傍を撃破した戀は、時計を見つめながらそう呟くと、空を見上げる。


 競技開始から45分。残るメンバーは、第1高校の神奈と悠馬、そして第2高校の一ノ瀬、第6高校の戀、そして第7高校の覇王だけだ。


「一応、追うか」

1話から順に誤字脱字の訂正をしております(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

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