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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
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会長の意地

 時は遡り、悠馬と花蓮、そしてレオと覇王が激突している真っ最中。


 1番最初に、第8高校と第1高校が遭遇した森の中に取り残された2人は、落ち着いた様子で立ち尽くしている。


「柊神奈。第1高校3年で生徒会長を務めている。貴女のことは大体把握していますよ」


「やぁーん、秋雨くん、私もあなたのことは知っていますけど、ま・さ・かあなたも私のことを知っているなんて、これは運命的じゃありませんか?」


 ある程度異能を発動させた後なのか、木々はしっとりと濡れ、葉からは水が滴っている。


 地面は神奈の発動させた異能によって、ぬかるんだままだ。


 足場も悪く、迂闊に動くことを許されない2人は、距離を保ったまま話をしていた。


「はは。冗談はよしてください。反応に困る」


「うふふ、私、そういう反応に困る人の顔を見るのが大好きなんです」


「なるほど。歪んだ性癖の持ち主なようで」


 人の困る顔を見るのが好きなやつなんて、ロクな奴がいないはずだ。


 ただの偏見だが、他人が嫌がることをして喜んでいるような奴らと大差はないため、そう思われても仕方のないことだろう。


「ところで、最後通告ですが。本当に1対1で良かったんですか?僕は別に、2.2でも構いませんが?」


 同じ異能同士。


 レベルが違っても時間は稼げるが、結果は目に見えている。


 レベルが違えば、出せる異能の規模も火力も異なってくるわけで、神奈からしてみたら、秋雨との激突は詰みだと言ってしまっても過言ではないだろう。


 しかし神奈は、逃げる気配も、小細工を仕掛けるそぶりもなく、秋雨と同じように、立ったまま動こうとしない。


「それともまさか、勝機があるとでも?」


「どうですかね?時間稼ぎ半分、勝機半分といったところでしょうか?まぁ、私が負けたところで、戦況は変わらないと思うのでその辺はお気遣いせずにどうぞ」


 本当に勝ちに行く気なのか、不敵に笑ってみせる神奈。


 その様子を見ていた秋雨は、自分の考えていない何かがあるような気がして、眉間にしわを寄せる。


「まぁ、強いて言うなら会長の意地ですかね。私だってそれなりに戦えるってところを、アピールしなきゃなので」


 神奈には、生徒会長の立場というものがある。


 いくら任期が終了間際と言えど、何も目立たずに退場をして仕舞えば、会長はショボい。第1を引っ張っていく器じゃなかったと罵られることだろう。


 それに、後輩である悠馬ばかり目立たせておいて、自分は地味にやり過ごすのもごめんだった。


 レベル的には負けているものの、ある策略の中に秋雨を落とそうとしている神奈は、にこやかな表情で、一歩踏み出す。


「っと…それ以上近づくと、俺の異能で怪我しますよ」


 神奈が無造作に踏み出した一歩。


 彼女の動きを最大限に警戒していた秋雨は、ビクッと身体を震わせ一歩下がると、神奈の踏み出した先のほんの少し手前の地面に、水で出来た刃のようなものを生成し、威嚇する。


 秋雨のレベルは10。能力は水の異能のみだが、実力はかなりのものだ。


 加えて彼は、異能島の学生の中でももっとも頭が良いとされ、全国模試などでは常に1位という、並外れた学力も持っていた。


 そんな彼の発想力というのはかなり豊かで、周りもあっと驚くような、とんでもない異能を放つことも度々ある。


 今現在、神奈の足元に生成している異能も、本来の水異能の使い方とはかけ離れたものだ。


 水異能とは本来、放つ、沈めるの2択しかないとされている、あまり人気のない異能だ。


 火力を調整すれば高圧洗浄機のようになるが、他の異能の火力と比べれば見劣りするし、沈めるなんて異能は、使う機会などまずない。


「やっぱり、秋雨くんはすごいですね〜。私と同じ異能のはずなのに、私の知らない異能みたいに扱うんですから。良い勉強になります」


「ははっ。トップ校の生徒会長に褒められるとは、光栄ですね」


 お互いに手の内を隠しているのか、焦った様子もなく繰り広げられる会話。


 辺りから攻撃音が聞こえてこないことから、近くで戦闘をしている生徒はいないのだろう。


「しかし驚いた。まさか第1が、あんな隠し球を用意してたとは思いもしませんでしたよ」


「あら?うちの暁くんのことですか?」


「ええ。開始数秒で名前付きの異能を放ったってだけでも、今頃島の中は大騒ぎだろうさ…まったく。言い方が悪いかもしれないが、今年こそはあの女が居ないから王手だと思っていたのに…とんだ大誤算ですよ」


 悠馬がいなくても、彼が所属する第8高校が1位になれるかどうかはわからないが、ショックそうに肩をすくめる秋雨。


 彼としては、学校での優勝というよりも、自分自身とレオのペアでの優勝の方が欲しいものだった。


 なにしろ、学校での優勝なんて、結局誰が立役者だったのかわからない。


 極端に言えば、ポイントを獲得した生徒全員が立役者になってしまうのだから、うちの学校が優勝した。立役者は俺だ!と言われても、はいはいすごいすごい。と、適当にあしらわれておしまいだ。


 しかし、フィナーレともなると話は変わってくる。


 フィナーレは各校選抜の、選りすぐりの生徒たちのみで行われる競技故に、難易度は壊滅的なほど高い。


 レベル10能力者が出場するのはもちろんのこと、過去には前総帥の美哉坂総一郎や、現総帥の寺坂、そして鬼神の異名を持つ八神の父など、錚々たるメンバーが優勝を手にしている。


 そんな栄冠とも呼べるフィナーレでの優勝。


 誰だって憧れるし、優勝したいとは思うだろう。


 それに、学校で優勝したのと違って、フィナーレでの優勝は自分自身の実力だと言っても良い。


 永遠についてくるステータスであって、どこに行っても凄いと思われること間違いなしだ。


「彼女の話はタブーですよ。秋雨くん。特に、双葉くんがどこにいるかもわからない環境で話す内容ではありません」


 昨年度優勝の第6高校の優勝の立役者となった人物は、2人いた。


 その2人共がフィナーレに出場していて、1人は今年も出場している、双葉という人物。


 そしてもう1人は…


 すでにこの世にはいない人物だった。


 異能島の事件に巻き込まれ、亡くなった彼女の話。


 名前は出さないものの、秋雨が口走った単語を聞いた神奈は、あまりそのことを口外しないように注意する。


「わかってます。もう話はしませんよ」


 神奈の注意を素直に受け入れた秋雨は、背後にあった木に寄りかかりながら、神奈に対する警戒を怠ることなく空を見上げる。


 秋雨は去年、第6高校の双葉・そして彼女なる人物に敗北していた。


 そんな彼からしてみれば、彼女がいなくて良かったと安堵すると同時に、心の中にモヤモヤも残ってしまう。


 同じレベル10能力者で、自分が敗北して、そのまま勝ち逃げをされてしまった。


 しかもその相手とはもう2度と、何が起ころうと再戦はできないのだ。


 複雑な気持ちが入り組んでいる秋雨は、一度頭を振ると、冷静な瞳で神奈を見た。


「それじゃあ。そろそろ異能島で野次られそうですから。俺たちも戦うとしますか?」


「そうですね。お話はまた後日でもできますからね。はじめましょうか?」


 あまり長話をして時間を潰してしまえば、異能島でフィナーレを観戦している生徒たちからの批判を浴びかねない。


 それに、学校が違うと言えど会話はしようと思えば、連絡を取り合っていつでもできるわけだが、対する異能を使ってのバトルは、この機会を逃すと神奈は任期を終え、大学入試、若しくは就職の道へと進むわけだ。つまり再戦は不可能。


 加えて言うなら、異能を使ってのバトルはそう簡単にできるものではない。


 好き放題異能を使って力比べができる場面というのは、これが最後になることだろう。


「それじゃあ。瞬殺で悪いですけど、案外楽しかったですよ。柊神奈会長。喰らえ、コキュートス」


 秋雨が放った、容赦のない異能。


 それも、名前付きのコキュートスだ。


 しかし、悠馬のコキュートスとは違って、秋雨のコキュートスは純粋な水のみ、氷などは発生していない。


 なぜ同じコキュートスなのに、ここまでも違うのか。


 その理由は単純で、コキュートスは元々水を使った異能の最高位だったのだが、応用として氷の異能でも使われるようになってしまったのだ。


 威力としては氷のコキュートスの方が上で、今では氷のコキュートスしか知らない人も多い。


 秋雨の放った綺麗な青色のコキュートスは、龍の形になりながら、水圧で木々をなぎ倒しながら神奈の元へと向かう。


 その光景はまさに幻想的で、まるで夢の世界に迷い込んでしまったようだった。


 青いコキュートスが渦を巻きながら、新緑に染まった森林の葉を散らしながら、立ち尽くしている神奈に直撃する。


 まるで激流の流れるような音と、神奈が見えなくなったことを確認した秋雨は、勝敗が決まったためその場を後にしようとする。


「初めて実物を目にしました。水のコキュートス、素晴らしい技ですね」


「っ…?どうして…」


 立ち去ろうとする秋雨に投げかけられた声。


 その声は、つい先ほどまで会話をしていた第1高校の生徒会長、柊神奈の声そのものだ。


 つい先ほど、コキュートスを放った場所には、人影1つ見当たらない。


 ならばどこから。一体どこからこの声は聞こえてくるのか?


 完全に直撃したところを見送ったはずなのに、何もなかったかのように話すその声を聞いた秋雨は、目を見開いて辺りを見回す。


「上ですよ。上」


 ぐるりと一周見渡した秋雨を嘲笑うように、楽しそうな声が投げかけられる。


「……どうやってアレを回避した?」


 秋雨が見上げた木の上で、大きく太い枝に座っている神奈は、ニヤニヤ笑いを浮かべながら、秋雨を見下ろす。


「さぁ?どうしてでしょうか?もしかすると、私の異能が1つじゃなかったりするかもしれませんよ?」


「ふ…そんな嘘に踊らされるほど、俺は甘くありませんよ!」


 余裕そうな神奈に少しの苛立ちを覚えた秋雨は、水で出来た槍のようなものを生成し、それを神奈へ向けて放つ。


 しかしその槍は、神奈に直撃する直前で不発に終わり、空を舞っていく。


 いや、神奈がいなくなったというべきか。


 突如として神奈が消えたことにより、槍は空を舞う。


「どこを攻撃してるんですか?」


「っ!?一体どうなってる!?」


 まるでわけがわからないといった表情を浮かべた秋雨は、神奈が起こし得る事態の全てを予測し、分析する。


「蜃気楼…か?」


「ざんねーん、違います」


 蜃気楼の可能性を考える秋雨。


 それはレベル10の秋雨ですら考えなかった、妄想の途中で無理だと判断して、実行しなかった異能だ。


 もちろん、神奈とてそんな異能を使おうとも思っていないし、なんならそんな思考にすら至っていなかった。


 秋雨の出した答えを聞いて、少し興味深そうに頬に人差し指を当てた神奈は、無造作に秋雨の肩を叩くと、にっこりと笑ってみせる。


「!」


 相手チームの選手が、死角から現れ肩に触れてきた。


 反射的に異能を使って攻撃を加えようとした秋雨だったが、振り向いた先に神奈の姿はない。


「一体…」


「それでは、秋雨くんに質問です。私の異能は何でしょうか?」


「何を言って…」


 どこにいるかもわからない神奈の、わけのわからない質問。


 神奈の異能は、水だけではない。彼女にはもう1つ、鏡花と同じ催眠という異能があるのだ。


 鏡花よりも暗示の効果は薄いし、集団になれば効果はほぼないものだが、1対1の場面でなら、相手の意識の中から1つの思考を消し去ることは容易に出来る。


 秋雨は既に、神奈の異能の手中にあった。


「では質問です。秋雨くんは、どのタイミングで私の異能が1つだけと誤解したのでしょうか?」


「…!?まさか…」


 そこでようやく、神奈の異能が1つだけじゃないと気づいた秋雨。


 秋雨が神奈の暗示にかかったのは、秋雨が悠馬へと攻撃を加えようとした直後。


 警戒対象から自分が完全に外れていると判断した神奈は、催眠の異能を使用して、秋雨へと暗示をかけた。


 それは神奈の異能が水だけ。と思わせる簡単な異能だ。


 その暗示に秋雨がかかった後は、実に簡単だ。


 神奈の異能を覚えていない秋雨は、水しか警戒しない。


 そんな彼には、暗示をかけ放題。


 彼が場所や見ている景色にまで暗示をかけた神奈は、こうして有利に勝負を進めれていた。


 しかし、そんな神奈にも不安要素はあった。


 それは秋雨が、演技で催眠にかかったふりをしているという可能性だ。


 自分が有利な状態にあると誤解して足下をすくわれる。


 神奈が勝負は五分五分と言ったのは、秋雨が暗示にかかっていない可能性を考えたからだ。


 しかし、そんな不安も思い過ごしに終わった。


「楽しかったですよ。秋雨くん。来年は優勝できるといいですね」


「まだだ!」


 どこに神奈がいるかもわからない状態で辺りを見回す秋雨。


 そんな彼に向かって飛んできたのは、つい先ほど秋雨自身が発動させたコキュートスとよく似た、少し劣化した一撃だった。


 しかし、いくら劣化しているといえど、不意打ちを防ぎきることはできない。


 水の異能で防御をしたように見えたものの、秋雨がその場から姿を消した様子を見送った神奈は、つい先ほどまで秋雨がいた所に立ってガッツポーズをした。


「私の勝ち!」

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