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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
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思惑

 異能島内、第7高校の生徒会室にて。


 まるで野球部のように、髪を坊主にしている男子生徒は、生徒会室内にある小型のモニターを眺めながら、歪んだ笑みを浮かべていた。


 その男の制服には、第7高校の生徒会長のバッジが、黄金色に輝いている。


「ふふふ…はははは…!」


 モニターに映る、控え室へと離脱した花蓮の泣き顔。


 そして室内には、花蓮と悠馬の会話が響き渡っていた。


 本来、各校の放送部が実況を行い、中継では聞こえないはずの、離島で戦う生徒たちの会話。


 なぜその音声が、第7高校の生徒会室に流れているのか。


 その理由は至って単純だ。


 花蓮の着る予定だった体操着に、盗聴器を仕込んでいた。ただそれだけ。


 そして、控え室が映してあるのも、花蓮の泣き顔が中継されているわけではない。こちらも盗撮だ。


「あぁ…ずっと待っていて良かったよ。ここまで粘って正解だった!幸運は俺の元に訪れる!」


 第7高校生徒会長、刈谷光男。


 彼は日本支部で最大手の警備会社刈谷の社長の一人息子であり、毎年行われる異能島の異能祭でも、彼の父親の警備会社が全ての警備を務めるという、異能島、いや、国家のお得意様である。


 そんな彼には、ある歪んだ考えがあった。


 先ずは、そんな超有名な会社の一人息子が、なぜ晩年最下位と馬鹿にされるような第7高校に入学したのか。


 その理由は、刈谷が善人で第7を復興しようと思ったから。などという理由ではない。


 刈谷のレベルは7。


 本来であれば、異能島の国立高校の入試に合格できる平均レベルよりも1つ下。


 入学はできなくはないが、実力的にもかなり落ちこぼれの分類に入るのだ。


 そんな彼が、どうやって入試を突破したのか。それは至極単純だ。


 親に頼み込んで、コネで入学した。


 国立高校、しかもナンバーズともなると、入学しただけでも、ものすごい肩書きとなる。


 将来的にはナンバーズを卒業したと言えばあっと驚かれるようになるわけだし、どこの学生だって、異能島を目指して勉学に励んでいるのがほとんどだ。


 そして刈谷も当然、異能島への入学を希望した。


 幸いなことに、彼は親が異能島と提携している警備会社だというのをいいことに、異能島の理事を脅して入学を決めることができた。


 脅しの内容は、「息子を入学させないなら、来年からの異能祭で私の会社は警備をしない」という内容だ。


 それを聞いた理事会は大慌て。


 日本支部の中でもトップクラスで盛り上がるイベントが来年から警備員不足で廃止となってしまえば、国民からの反感を買いかねない。


 背に腹は変えられないということで、当時の理事会は、刈谷の入学を渋々承諾した。


 もちろん、トップの第1、第6に入学させては、どうやって入試を突破できたのかと怪しまれるため、第7高校に、だ。


 そしてそんな理事会の配慮も知らずに、刈谷は不満を抱いていた。


 なぜ、自分が第1や第6ではなく、弱小の第7高校なのかと。


 自分の実力が足りないことを棚に上げて理事会を恨む刈谷。


 しかし彼の恨みや不満というものは、ある計画を思いついた時点で消え去っていた。


 刈谷は、卒業後の道はすでに決まっている。


 親の警備会社を継ぐこと。


 国立高校、ナンバーズ卒業という肩書きを手にしていれば、誰も文句は言えないことだろう。


 将来の就職先、そして収入が安定することを約束されていた彼は、それだけでは飽き足らず、あることを行おうとしていたのだ。


 就職が決まっていて、高収入も期待できる。そんな彼に足りないものは、何だろうか?


 レベル?学力?腕っ節?全て違う。


 肩書きが大好きで、ブランドを買い漁るような男が、そんなものに興味を示すはずがない。


 ならば、何が足りないのだろうか?


 鋭い人なら、薄々感づいてはいるだろう。


 そう、刈谷は自分には可愛い彼女が足りないと考えていた。


 みんながあっと驚くような、羨むような、完璧な彼女。


 ブランドバッグのように扱えて、みんなから羨ましがられる女。


 入学2年目にしてそのことに気づいた刈谷は、ある行動に出た。


 それは生徒会選挙で、生徒会長になるということだ。


 生徒会長になれば、教師たちの許可を得て、学生データベースを覗き見ることも可能になる。第7高校全生徒の、個人情報と過去の経歴。


 学生データベースに映る女子生徒のなかから、自分に相応しい経歴、そして容姿の持ち主を探し出す。


 それは本来であれば犯罪行為なのだが、親が権力者ということもあり、いつでも揉み消せる環境下にある刈谷は、何の躊躇もなく、その行動を実行へと移した。


 第7高校は、実績が実績な故、第1の教員側が生徒会を選ぶようなシステムではなく、革命を起こしてくれそうな生徒、みんなからの人気を博している生徒が生徒会長になれる、生徒の投票制によって生徒会長が決まる。


 理由は、教員が選んだところで、第7の異能祭の成績は伸びなかったからだ。


 幸いなことに、刈谷は友人も多く、表向きでは温厚な性格を見せていたため、刈谷が生徒会長に立候補するというと、殆どの生徒が支持してくれた。


 そのおかげで、刈谷は難なく生徒会長という席を手に入れたのだ。


 しかし、刈谷の計画は、そこで一度止まることを余儀なくされた。


 よくよく考えてみれば、すぐにわかる。


 第7高校に入学している生徒なんていうのは、現状に満足している人間で、お零れを待っているような生徒が殆どだ。


 口では革命革命と言いながら、自分は動こうとしない。


 最下位の国立高校ということもあってか、有名な女子生徒たちは、ほとんどが第7高校以外の高校へと入学してしまっている。


 自分の横を歩くのは、1人だけでいい。


 中途半端な女は嫌だ。


 そんなことを考える刈谷にとって、めぼしい生徒なんているはずもなく、刈谷は新1年生が入学してくるまでの1年間、大人しく過ごすことを強いられた。


 そしてようやく、運が巡ってきた。


 それは、晩年最下位、実質私立高校という汚名を返上したい第7高校、そしてそれを見かねた理事会がとった苦肉の策。


 その代での実力の向上と、そして来年から異能島に通いたいと考えている生徒たちの入学意欲にも繋がるような存在を、特待生枠として入学させることだ。


 その特待生枠で入学することとなったのが、花咲花蓮。


 レベル10能力者であり、アイドル、モデルとしても認知度の高い彼女は、同年代で知らない奴はいないと言っても良いほどの、人気を博していた。


 美人でレベル10。しかも特待生でアイドルにモデル。

 対する自分は、ナンバーズの生徒会長で、日本支部最大手の警備会社の跡取り。


 自分の肩書きと並べて、勝るとも劣らない花蓮の肩書きを欲しいと判断した刈谷は、すぐに行動を起こした。


 入学前の花蓮の学生データベースを盗み見て、その情報をもとに、自分の持ち得る情報網と財力を駆使して、彼女の素性を丸裸にした。


 そしてわかったことが2つ。


 花蓮も刈谷と同じく、親が社長であること。


 そしてもう1つ。


 彼女にはすでに、許婚がいたことだ。


 再び壁にぶち当たった刈谷は、ショックと絶望に苛まれた。


 自分が手に入れたい女が、すでに他の男と契りを結んでいる。


 いくら自分のバックと肩書きが凄くても、許婚を略奪するなんてことはできない。


 なにしろ、自分が裏で手を回していたと知られれば、それこそおしまいだ。


 今の地位も失う挙げ句、手に入れた女まで失ってしまう。


 それでは本末転倒だ。


 そんな悩みに悩む彼を救ったのは、つい先ほどの、悠馬の発言だった。


 彼女の許婚である悠馬による、許婚解消宣言。


 悠馬の発言は、刈谷にとっては神からの啓示に等しいものだった。


 運が、この世の全てが自分に味方をしてくれている。


 この世界は、俺を中心に回っているのかもしれない。


 そんなことを考えてしまうほど、刈谷の描いた理想は現実に近づいてきていた。


「俺は何でも知ってるよ。花咲花蓮チャン。君のことを愛してるからね」


 そしてここから先のシナリオは、すでに刈谷の脳内で完成している。


 悠馬と花蓮の許婚解消。


 となれば、彼女の持っている結界はどうなるだろうか?


 花蓮の合宿先にも盗聴器を仕掛けていた刈谷は、花蓮の結界の危うさと、そしてどんな結界なのかを把握していた。


 結界が花蓮の精神的な影響で暴走をしてしまうのは間違いない。


 なにしろ、心の支えが消えてしまったのだ。それはもしかすると、使徒になってしまうほどの絶望かもしれないし、彼女の精神はズタボロになってしまうはず。


「完璧だよ」


 先のシナリオを頭の中で想像してみせた刈谷は、その先にある花蓮と横に並び歩き、そして彼女が自分なしでは生きていけない存在になっている光景を妄想し、歪んだ笑みを浮かべた。


 そんな、誰もいない空間で1人笑う刈谷の耳に、扉を叩く音が聞こえてくる。


「どうぞ」


 その音を聞いた刈谷は、自身が盗撮していた花蓮の控え室のモニターを切ると、盗聴器の電源も落とし、ノックをした生徒の入場を待つ。


 その姿は、裏でクズなことを考えているとは思えないほど品行方正な、頼れる生徒会長像そのものだ。


 机の上で腕を組み、それに顎を乗せると、薄っすらと笑みを浮かべ、余裕のある姿を見せる。


「失礼します」


 そして、数秒経ってから開いた扉の隙間から入ってきた女子生徒。


 黒髪で眼鏡をかけている女子生徒の制服の胸元には、銀色の、生徒会長副会長のバッジが輝いている。


「堅苦しいのはよしてくれ。1年間、この日のために努力をしてきた学友じゃないか」


「ふふ、報告くらい、秘書っぽくさせてください」


 裏の刈谷のことなど知らないであろう副会長は、この日のための努力。と聞いて会長も確認をしていると思ったのか、嬉しそうな笑みを浮かべながら、タブレットの表を見せる。


「異能島、日本支部国立第7異能高等学校は、本年度を持ちまして、異能祭晩年最下位を脱出し、第3位以上でフィナーレを終えることを確定しました!」


 嬉しそうな副会長の手元にあるタブレットには、異能祭のナンバーズの得点表が映し出されていた。


 1位は変わらず第1高校。


 2位も変わらず第6高校。


 そして3位が、レオを倒したことによりランクアップした第7高校。


 そして4位が、レオの在学する第8高校となっていた。


 ポイントの開き的に、もうこれ以上順位が下がることのないことも確定している。


 これぞまさに、大革命だ。


 弱小校の快進撃。


 破竹の勢いで順位を上げていく第7高校を応援している人々からすれば、さぞ爽快だったことだろう。


「ようやく…だね」


「はい、我々、本年度の生徒会が掲げた、最下位からの脱出という目標が、叶いました!やりましたよ!会長!私たち、第7高校の歴史に名前を、爪痕を残せるんですよ!」


 そんなことどうでもいい刈谷だが、嬉しそうに話す副会長を眺めながら、作り笑いを浮かべながら相槌を打つ。


 刈谷は表向きでは、第7高校の最下位脱出、そして次の代では、異能島ナンバーズの中で、3位以内の成績を納められるように努力をしてきた。


 それは、刈谷にとっては些細なことであったものの、副会長にとっては、人生を大きく変えるほどの大きな出来事だった。


「ようやく、肩の荷が下りて楽になった気がするよ」


「そ、そうですね!任期を終える直前に、目標を達成できて、何よりです!会長、ご苦労様でした!そして、お疲れ様です!」


 しかし、刈谷の肩の荷が下りたのは事実だ。


 口だけの男などと言われたくない刈谷は、自身の発言が有言実行されたことによって、ほんの少しの安堵をしていた。


「はは。まだ終わってないよ。勝手に退任させないでくれ」


 嬉しそうな副会長の、ご苦労様とお疲れ様発言を聞いた刈谷は、苦笑いを浮かべながら、反論して見せる。


 彼女の発言は、まるで今すぐ退任するような、そんな勢いの話し方だった。


「す、すみません!私ったら…興奮しちゃってつい、わけのわからないことを…」


「ははは、いいよ、気にしなくて。俺が嬉しいのも、興奮してるのも君と変わらないからさ」


 もっとも、刈谷の興奮も嬉しさも、副会長とは全く違う、別の意味でなのだが。


「で、では!一応の報告はこれにてお終いですので、会長は後夜祭に話すスピーチの内容を考えておいてくださいね。失礼しました」


「はいはい。考えておくよ」


 初めて最下位を脱出した第7高校の生徒たちに向けて話すこと、ね。


 深々と頭を下げて、扉を閉めた副会長を見送った刈谷は、自身の座っている生徒会長の椅子を一回転させると、ニヤニヤと笑いながら声をあげた。


「待っていてくれよ!花咲花蓮チャン!君は是が非でも俺のものにしてあげるからね!」

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