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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
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会長はお怒りのようです

 悠馬がなんの躊躇いもなく放った氷の異能・コキュートスによって、森や山が、一直線上に凍りついている。


 その中に第4高校の生徒の影がないことから、悠馬の異能の直撃を食らった生徒たちは、離脱機能によってうまく脱出できたと判断していいだろう。


「よし!」


 自身の異能で2人の敵を撃破。


 その戦果に喜びを感じている悠馬は、腰に手を当て仁王立ちすると、自身の目の前から一直線に伸びた、龍状のコキュートスを見て、満足そうな表情を浮かべている。


 しかし、体操着の端が凍りついているもう1人の女子生徒は、悠馬とは真逆の表情を浮かべていた。


「何がよし!よ!?私危うく凍るところだったんだけど!?味方の攻撃で退場とか、前代未聞の恥さらしになるところだったんですけど!?」


 いつもの年上お姉さんキャラが完全に崩れ去っている神奈。


 それほどに、悠馬のコキュートスは身の危険を感じさせたのだろう。


「あはは!でも避けてるじゃないですか〜!」


「あのね…避けたんじゃなくて、偶々なの!本当に偶々だから、今みたいな神回避はもうできないから!いきなり大規模な異能使うのとかやめてよ!?」


 激怒する神奈。


 神奈が言っていることは、まさに常識的なことだ。


 つい先ほどの、一言声をかけるだけでコキュートスをぶっ放した悠馬が異常なだけであって、神奈が激怒するのは至極当然のことなのだ。


 なにしろ、神奈は悠馬がコキュートスを使えることも、しかも自身が敵と接近している真っ最中にぶっ放すことも、完全に想定していなかった。


 いや、おそらく異能島でこの行動が予測できるのは、連太郎くらいのものだろう。


 普通の人間なら、今の一撃に反応できずに凍りついている頃だ。


「いやぁ!でも楽しいですね!入試の時は…なんというかかなり加減しましたけど、本気でぶっ放せて気持ちよかったです!」


 興奮気味の悠馬。


 悠馬の異能は、神奈や悠馬からは視認できないだろうが、島の真反対の位置にまで辿り着いている。


 距離にして2000メートルほど。


 こんな馬鹿げた異能を使って、本人は笑い事で済ませているのだから、悠馬の感覚が狂っているのは誰でもわかるだろう。


「っ…移動しますよ…派手にしすぎました」


「はい!了解です!」


 神奈の話を素直に聞き入れる悠馬。


 ニコニコと笑う悠馬の姿を見た神奈は、自身が人選を誤ったのではないかと、頭を抱えるのであった。


「仲間に退場させられるなんて絶対いや…」


 ***


 一方その頃、悠馬たちが競技をしている離島の一角。


 悠馬が発動した異能によって、地震のような大きな揺れと、それから生じた冷気。


 それらを全て無視して歩く影が2つ。


「お、おい!待ってくれよ!」


 7と記された体操着を着た男女2人は、神奈と悠馬以上にギクシャクしていた。


 金髪の長い髪を揺らしながら歩く女子生徒、花咲花蓮と、それを追う黒髪の男子、松山覇王。


「…ちょっと、付いてこないでくれる?流石にウザいっていうか、私本気でアンタのこと嫌いなの」


 相当怒っているのか、いつものような可愛らしい表情とは全く違う形相で男を睨みつけた花蓮。


 それに対して、覇王が何も言い返してこないと知ると、ふん。と鼻を鳴らして、歩くペースを早める。


「わ、悪かったよ!」


 後ろから花蓮を追う覇王は、バツの悪そうな顔で、しかし意を決した様子で声を荒げた。


 この競技は、島内全域で放送されているが、離島からの音声は一切入らず、各校の放送委員が交代制で解説を入れることになっている。


 そのため、ここで何の話をしていたとしても、見ている側からは何を話しているのか、憶測でしか測れないということになる。


 何故、2人の間に流れる空気は、こんなにもピリピリしているのか。


 その原因は、競技開始前の会話が原因だった。


 競技開始直前。


 悠馬たちと似たように、落ちていたアタッシュケースを拾いながらの会話。


「えぇ!?もしかしてお前の好きな奴って暁って奴なのか!?まさか花蓮が面食いだとは思わなかったわー!噂で聞いたことあるけど、あんな顔だけで中身のない奴のどこがいいわけ?」


 不意に投げかけられた言葉に、花蓮は口を開いたまま硬直した。


 たしかに、花蓮は船内やここに来るまでの間、少し浮ついていたが、それを覇王に悟られ、ましてや悠馬のことが好きだなんてバレるはずがないと思っていた。


 しかし現実は違った。離脱用の時計には、この競技に参加している生徒の名前を見る機能もあるようで、1年でこの競技に参加している他校生は悠馬のみ。


 早速そのことに気づいた覇王。


 想定外の事態に焦りを隠しきれない花蓮は、覇王の会話を無視しようと決意した。


「あんな奴のどこがいいんだよ?花蓮、男見る目ないよな。今からでも遅くないから俺と…」


 自分の方が優良物件だとアピールする覇王。


 しかし花蓮からしてみると、その発言は納得のいかない、ストレスのたまる発言だった。


「…何も知らないくせに…!偉そうにぶつぶつぶつぶつ…アンタのそういう所が嫌いなのよ!何!?アンタ悠馬と話したことあるわけ!?見た事も話した事もないくせに、偏見だけで悠馬のこと語らないでよ!」


 人は、他人の情報に流されやすい。


 特に新しい環境、新しい人との接触時こそ、自分をよりよく見せようと嘘をついたり、人気者を妬んで噂を流したりするものだ。


 その中にいくつかの事実はあるかもしれないが、大抵は真っ赤なウソ。そのウソで踊らされているのが、今花蓮の目の前にいる男だった。


 花蓮は知っていた。


 悠馬がどんな人なのか。どれだけ優しいのか。どれだけ他人のことを思いやってくれているのか。


 悠馬が優しいからこそ、よくない噂だってきっと聞き流したり、許容してくれているのだろう。


 しかし、花蓮にはそれが出来ない。いや、したくないのだ。


 悠馬の傷つく姿は見たくない。彼が苦しいのに笑っている姿なんて見たくない。


 花蓮が悠馬の弱さを知っているから。知っているつもりだから…だからこそ…


「アンタとのペアなんてごめんよ。私は勝手に動くから。アンタは付いてこないでよ」


 そう冷たく告げて、花蓮はしばらくの間、1人で行動するはずだった。


 否。


 少しの間、1人にさせて欲しかった。


 異能というのは、発動者の感情によって、規模も火力も変わっていく。


 だから、怒っている花蓮が異能を使えば、暴発の危険性まであるわけで、本来なら冷静さを取り戻してから、覇王と再合流するつもりだった。


 それなのに、花蓮の後ろをついて来る覇王。


「ヘコヘコ謝るな!余計ムカつく!」


 まるで女の気持ちをわかっていない。


 後ろから追いかけて来る、この男は他の男たちとは違う。


 普通の他の男子生徒なら、花蓮が冷たくあしらうと、控えめになってくれる。


 なのに、現在背後にいるこの男、松山覇王は粘着質で、しかも花蓮の神経を逆なでするのに特化している。ような気がする。


「あー!もう!ついてこないでって言ってるでしょ!?アンタストーカーなの!?まじキモい!」


 怒り心頭に発した花蓮は、振り向くと怒鳴り声を挙げる。


「で、でも会長に絶対一緒に行動しろって言われたろ!あの会長は、一見いい人そうに見えるけど…なんか…裏がありそうな気がして…」


 不安そうに話す覇王。


 覇王は、第7高校の生徒会長に、不安感を覚えていた。


 まるで花蓮を品定めするかのように向けられた視線を思い出すと、全身に寒気が走るほどに。


 男だからこそわかる、あからさまに花蓮を狙っている様子の生徒会長。


「それもまた噂なんでしょ!?いい加減にしなさいよ!」


 噂を信じ込んだせいで言い合いに発展したのに、この期に及んで曖昧な、噂のような話を始める覇王。


 そんな覇王に対し、キレたように振り返った花蓮は、覇王に言葉を遮られる。


「違えよ!ただ…あの会長は良い奴じゃない…と思うから…」


 先ほどまでの、悠馬の噂を話していた時のようなヘラヘラとした表情ではなく、至って真剣、不安を募らせたような表情を浮かべ、様子を伺っている覇王を見た花蓮は、立ち止まりため息を吐く。


 今回の覇王の発言は、噂ではなく、自分で考えて、引っかかるところがあっての発言なのだろう。花蓮はそう判断した。


「わかったわよ。一緒に行動すれば良いんでしょ?してあげるわよ…」


「あ、ありがとう…」



 ***



 競技が開始されてから、早くも5分が経過し、悠馬と神奈は、コキュートスから遠ざかるようにして、森の中を散策していた。


 散策をしている理由は至って単純、他校の生徒を待ち伏せできる場所があるかもしれないからだ。


 こちらからは死角じゃなくて、相手からは死角。


 そんな都合のいい空間が見つかればいいな。という願いと、そして少しでも地形の把握をしておきたかったからだ。


 この離島の説明は、誰1人として受けていないし、地形を把握できている生徒もかなり少ない。


 1年に1度しか開放されない離島なのだから、そんな離島の地形を把握している生徒は、尚のこと少ないだろう。


 だからこそ、こういう場合では、少しでも地形を把握しておいた方がいい。


 もし仮に、逃げなければいけない場面で、地形を知らずに逃げ込んだ先が行き止まりだったら?


 逆に、相手をおびき寄せて一掃できるような地形を見つけられたら?


 地形を利用することも、サバイバルの醍醐味と言えるだろう。


 うまく利用すれば、邪魔な斜面だって役に立つわけだし、時間はまだたっぷりとある。


 急いで敵の罠にハマるよりも、自分たちの罠を考えた方がいいだろう。


 それが神奈と悠馬の下した判断だった。


「…さすがに、嵌められるところは無さそうですね…去年も一昨年も、地形的な罠を使った生徒は殆どいませんでしたからね…」


 お互いが目に見える範囲で散策を終えた神奈は、少し残念そうな表情で戻って来る。


「まぁ、それが判明しただけでも十分な成果じゃないですか?」


 神奈は残念がっているが、悠馬の言う通り、罠を仕掛けれる、最初から張り込みできる場所がないと知れたのは、大きなことだ。


 変に警戒をする時間が減るし、その分他の場所に神経を向けられる訳なのだから。


「まぁ、そうですね。貴重な成果と言ってもいいでしょう」


 唯一死角になるのは、木々のみ。


 互いに木の陰に隠れた神奈と悠馬は、小さな声で会話を交わしながら、あたりに気を配る。


 木々が騒めく音と、海から聞こえて来る、さざ波の音。


 第4高校を撃破してからというもの、ほとんど動きがない。


 腕時計を確認した悠馬は、残りの8校すべての生徒が残っていることを確認すると、腕を下ろす。


「動きますか?それとも待機しますか?」


「うーん…私の予想では、コキュートスを見た生徒たちの中の数名は、様子を見に来ると判断しています」


「あー、それで、少し離れたところから様子を伺って、背後から奇襲をかける訳ですか」


 ただ単に、派手にしすぎて遠くへと逃げようとしたわけではなく、神奈が意味を持って動いていたことに関心する悠馬。


 悠馬の開幕直後のふざけた一撃を利用して、追加点を狙うというまさに一石二鳥のプランだ。


「そういうことです!」


「そして俺がまたコキュートスを放って、それのループをすればいいんですね!」


「ちょっとぉ!?あれは使用禁止です!何があろうと、使用しないでくださいっ!次こそ私が死にます!」


 満面の笑みでコキュートスを放つと話す悠馬。


 つい先ほどコキュートスが直撃しかけた神奈からしてみれば、今の悠馬の発言を聞いて、お願いね!などと言えるはずもない。


「あははは!冗談ですよ!」


「っ…アナタ…調子に乗ってるとどうなるかわかりますよね?」


 冗談を言って、神奈の焦る表情を見て楽しむ悠馬は、彼女のドス黒いオーラを見て、笑いを止める。


 今までの比にならないほどの威圧感だ。


 周りから出ているオーラを見るからに、神奈が本気で怒っているのは容易に理解できる。


「私、生徒会長ですよ?あと1ヶ月任期残ってるんですよ…?君をこれから3年間、ぼっちで生活させれるくらいのことはできると思いますけど」


「ひっ…!」


 にっこりと作り笑いを浮かべ神奈は、優しく悠馬の肩を叩く。


 悠馬は神奈がやばいことを考えているのを直感し、一気に血の気がなくなる。


 生徒会長の権限というのは、教員よりも低く、学校に意見できるほどのものじゃない。


 しかし例外もある。


 生徒会長になってからの実績や、学校への貢献度などによって、一部許された環境下では、教員よりも上の権限を得ることができる。


 例えば、気にくわない生徒を停学にしたり、学生データベースの情報を覗いたり。


 上層部との信頼度にもよるが、生徒会長という地位は、時と場合によっては好き放題できる特等席でもあるのだ。


 そんな彼女を、悠馬は調子に乗って怒らせてしまった。


「ご、ごめんなさい…」


「うんうん、よろしい。でも、次はないからね?」


「はい…」


 作り笑いを浮かべ、ドス黒いオーラをむき出しにする神奈と、萎縮して首を縦に降る悠馬。


 その光景は、異能島内にも中継されていた。

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