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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
71/474

異能島にて

 場所は変わり異能島内。


 離島にて行われている最終種目を、モニター越しに眺める大人、生徒たちからは、2種類の悲鳴が聞こえてくる。


 その理由は、開幕と同時に悠馬が発動した名前付きの異能、氷系統における最高位として知られるコキュートスを放ったからだ。


 悠馬が放ったコキュートスは、ギリギリのところで神奈を回避して、第4高校の生徒2人を、開始僅か数十秒で退場させてしまった。


 まだまだ優勝が現実的だった、巻き返す可能性もあった第4高校に起きてしまったアクシデント。


 第4高校の生徒たちは、悲鳴をあげながら、絶望の表情を露わにし、その他の生徒や大人たちは、いきなり名前付きの異能を観れたことにより、ヒートアップしている。


「は!?暁くんってこんなに強かったの!?」


「アイツレベル8って言ってたじゃん!」


 第1高校近くの駅の大画面で最終種目を見ていた生徒たち。


 殆どが第1高校の生徒たちのその空間は、喜んでいる。というよりも、呆気にとられていた。


 その理由は、離島が中継された直後。


 第1の生徒たちは、1年である悠馬が出場していることに激怒していた。


 去年の権堂の一件もあった為、尚更だ。


 上級生たちは下級生を睨み付け、お前ら知ってたんじゃないか?と脅すほどに。


 しかし、それも長くは続かなかった。


 多くを語るよりも、実力で知らしめたというべきか。


 昨年の権堂は、開始数分で第6高校と相対し、そして敗北した。


 しかし今回の悠馬は、いきなり大きな見せ場を作った。


 権堂だって、見せ場さえあれば上級生を黙らせれただろうが、終わったことを嘆いても仕方がない。


 悠馬が見せた異能は、生徒たちを黙らせるには十分すぎるものだった。


「…あれがレベル10」


 銀髪の少女の横にいる、グレー髪の少女、湊がそう呟く。


 悠馬が発動した異能は誰でも知っている技だ。


 知っているだけで、実際に目にしたことはないだろうが、それを見ただけでも、悠馬のレベルというのはわかってしまうものだ。


「湊?」


「ご、ごめん。少し驚いて…さ」


 悠馬の異能を観て、呆気にとられる湊。


 悠馬は、入学直後にレベル8だと自己紹介して、体育では大した結果を残していないのだから、驚くのは当然のことだろう。


「あーあーあー!こりゃあ、権堂の分も派手にやってますね〜」


「うるさいぞ美幸。俺は関係ないだろ」


 そして湊たちから少し離れたところでモニターを見ていた2年グループの美幸。


 彼女も、悠馬がド派手に異能を使ったおかげかかなり上機嫌だ。


 先輩たちへの叛逆の一手を、悠馬が打ったと言ってもいいくらいだ。


 このまま行けば、今の環境は全て崩れ去る。


 学年間の軋轢も、何もかも。


 自分の古傷を抉られた権堂は、口では文句を言っているものの、表情はヤケに上機嫌だった。


 無念が晴れたような、安心したような。


「俺も…いつまでもクヨクヨするんじゃなくて、頑張らないといけないのかもしれないな…」



「はぁー、悠馬くんカッコいいよ!加奈!」


「はいはい。落ち着きなさいよ。アンタ、そんなにはしゃいでたら周りにバレるわよ?」


 大はしゃぎで加奈に抱きつく夕夏と、それにめんどくさそうに付き合う加奈。


 夕夏はつい先ほどまで競技に参加していたのか、ほんのり汗をかいているように見える。


「あ…うん…そだね!」


 加奈に指摘をされて、手を離した夕夏は、下手な芝居をするように目を泳がせると、モニターを見ていないフリをする。


「それにしても、アンタが言ってた通り、彼本当に強いのね」


「うんうん!でも私の時は、雷使ってたよ!」


「…はぁ?」


 それが当然のことのように言ってのける夕夏。


 夕夏の発言からするに、悠馬は夕夏より強い雷系統の異能を使える挙げ句、氷でもとんでもない異能を使えるときた。


 夕夏はレベル10だから、悠馬や自分が普通だと思っているようだが、それは十分異常だ。


 凡人には理解できない、レベル10基準の話である。


 もう何も驚かないと言いたげな表情を浮かべる加奈は、キョトンとしている夕夏を見て、深いため息を吐いた。


「おうおうおうおう!八神が入試で言ってた通り、悠馬はヤベェ奴だったんだな!」


「だろ?」


 そしてこちらも、悠馬の異能を観て声を大きくしていた。


 八神が入試で直感した通り、悠馬がヤバいやつだと判明して驚く通と、自分の判断通り悠馬がヤバいやつだと判明して嬉しそうな八神。


「俺ぁてっきり、八神がホラ吹きなのかと思ってたぜ!見直した!」


「んだと!お前こそ、大きい蜂に刺されたとか泣き叫んでたクセに、ミツバチに刺されてた時あったろ!ホラ吹きってのはそういう事を言うんだよ!」


 ホラ吹きだと言われたことが納得いかない八神は、通に怒鳴りつける。


「あ、あれは…!痛かったんだよ!本当に!そこそこデカかったし!俺はホラ吹きじゃねえ!」


「でもスズメバチでもアシナガバチでもなくてミツバチだったのは事実だろうがよ!お前と違って、俺はホラ吹きじゃねえからな!」


「キー!クソ!お前もミツバチに刺されて泣き叫べ!」


 反論できない通の叫び声が、駅前に広がっていく。



 ***



 場所変わりセントラルタワー90階の1室。


 異能島を一望できるその空間の中には、3人の男が座っていた。


 異能島の景色を眺める訳でもなく、ただ、無言でモニターを見つめながら。


「おお!この少年は将来有望だな!高校生でコキュートスを使えるとなると、既にそこらの軍人より強いかもしれない!」


 まるで小学生が大好きなスポーツを観戦するように、両手で握りこぶしを作りながら目を輝かせる、黒髪の男。


 ツンツンと尖らせた髪をワックスで固め、紺色のスーツに身を包んだ男の胸元には、日本支部総帥のバッジが付けられてある。


「フ…寺坂、お前はまるで遠足に来たガキだな」


「うるさいな…俺の母校なんだから、応援したっていいだろう…そうですよね?美哉坂師匠!」


 上手く言い返せないからか、それともこの場では言い返したくないからか。


 自分が間違ってないか先生に確認するような瞳を、少し白髪混じりの、それでいてそこまで年には見えない美哉坂師匠と呼ばれた人物に向けた。


 彼は美哉坂夕夏の父親で、日本支部の前総帥である美哉坂総一郎だ。


 そして、寺坂を指導をして、総帥になるまでの力を付けさせたのも、この人だ。


 そのため、寺坂からは美哉坂師匠、師匠と慕われて、総一郎は寺坂を、まるで息子のように可愛がっていた。


「私とて母校には勝ってもらいたい気持ちがあるからな。寺坂と同意見だよ」


「ほらぁ!」


 総一郎の言葉を聞いて、まるで子供のように死神を指差してドヤ顔をする寺坂。


 その様子は、総帥の器というよりも、ただのガキにしか見えない光景だ。


「…しかし寺坂。今日のお前ははしゃぎ過ぎだぞ。何か嬉しいことでもあったのか?」


 そんな寺坂を見て、不思議そうに尋ねる総一郎。


 日本支部でも最も権力がある人物が、こんなにはしゃぐというのはかなり異常だ。


「あ、いえ…特に何も…」


 総一郎の鋭い眼光を見て、大人しくなる寺坂。


 特に何も…などと言っているが、それは全くの嘘だった。


 寺坂は今、未だ嘗てないほどテンションが上がっている。


 その理由は、自分の総帥秘書である鏡花と、久しぶりに会うことができるからだ。


 学校の教師というものは、常日頃から忙しい。


 明日の授業の準備をしたり、課題のチェックをしたり、生徒たちの不始末の処理に部活動の顧問。


 加えて鏡花は総帥秘書の仕事までしているのだから、本土へ帰る時間どころか、至福の時間すらほとんどない。


 そして、そんな彼女に恋をしている寺坂からしてみると、今日は約3ヶ月ぶりに鏡花に会うチャンスなのだ。


 好きな人と数ヶ月離れて、もうすぐ再会するチャンスが訪れる。


 それは、学生が修学旅行に行く前に調子に乗っているそれと、同義のものだ。


「…ところで死神。夕夏は?」


「んん?」


 そんな寺坂のことなどいざ知らず、落ち着いた表情の寺坂を一瞥した総一郎は、死神へと話題を振る。


「変な男につるまれていないか?どんな人と仲がいい?名前は?レベルは?性格は?」


「待て待て待て。落ち着け美哉坂」


 身を乗り出して食い入るように死神を見る総一郎。


 総一郎は、夕夏大好き人間だった。


 夕夏と直接話すときは厳しい父親を演じてはいるものの、彼女の動向は毎日気にしていて、夜も眠れないほどだ。


「待てるわけがないだろう!早く話せ!夕夏の父親として、知る義務がある!」


「お前、娘にかなり嫌われてるぞ?携帯端末では着信拒否設定にされてるし、親子として終わってるぞ」


「なん…だと…」


 夕夏の生活態度、そして人間関係を知ろうとする総一郎に対して、死神が放った火の玉ストレート。


 夕夏は父親のことが嫌いだ。


 その理由は、総一郎が形だけでも厳しい父親であろうとして、夕夏に心無い言葉を放ってきたことと、そして総一郎が許婚を作ろうとしていたからに他ならない。


 総一郎は夕夏のためを思っての行動だったが、夕夏からすればとんだ嫌がらせだった。


 着信拒否をされていると聞いて、項垂れる総一郎。


「お前、娘のことが大事なら強制はやめておいたほうがいいぞ。せめて理由は説明してやれよ」


「…大人の事情をあの子に話すわけにはいかん。出来るなら、夕夏を守れるほどの財力と、そして実力を誇る、そう、言うならば寺坂のような…」


「え"」


 総一郎が今考えている、夕夏の許婚候補。それは寺坂だった。


 自分の名前が出てくるなどと思ってもいなかった寺坂は、引きつった表情で死神を見つめる。


 なにしろ、寺坂は鏡花のことが好きなのだ。


 それなのに突然、自分の師匠の愛娘との許婚候補になっている。


 寺坂としては何としても避けたいのだろう。


 死神に目で訴えかけている。


「あー…そう言えば、お前の娘は好きな人ができたらしいな。最近はそいつのことをずっと目で追ってるらしい」


「あ?何処の馬の骨だ?私が直々に処分してやろう。夕夏とは住む世界が違うとな」


 一気に不機嫌になる総一郎。


 娘が変な男に引っかかってしまったのではないかと危惧しているのか、それとも純粋に、知らない男には取られたくないのか。


「安心しろ。お前の娘が一方的に好きなだけで、男の方は恋愛感情を抱いていない」


「それはそれでムカつくやつだな…」


 つまりどの返答でもムカつくのに変わりないじゃないか。


 好きでも好きでなくても、夕夏が好意を抱いている時点で目の敵にされるとは、好きになられた男もとんだ災難だな。


 そんなことを考える寺坂は、2人の会話を呑気に聞き流す。


「その男のレベルは幾つだ?」


「さっきコキュートスを放った男だよ。お前の娘は、あいつのことが好きらしい。良かったな。容姿端麗な男で」


「……まぁ、年齢相応の実力は認めなくもないが…」


 コキュートスを放った男。


 つい先ほどモニターに映っていた悠馬のことを告げた死神は、思考中の総一郎を他所に、寺坂の方をチラッと見る。


「あの男…どこかで…」


「ふ…ふふふ…」


 モニターに映る悠馬の表情を見て、何かが引っかかっている様子の寺坂。


 その光景を横から見ていた死神は、呆れたような笑い声を漏らす。


「なんだ?死神」


「揃いも揃って忘れたのか?お前らが重荷を背負わせた男の顔を」


「…なん…」


 死神の発言を聞いて、眉をひそめる2人は、思い当たることがあったのか、口をぽかんと開けると、お通夜のような雰囲気を漂わせる。


「…暁闇か」


「……」


「お?意外だな総一郎。お前なら何が何でも夕夏から引き剥がす!とか言いそうなもんだが。どう言う風の吹き回しだ?」


 暁闇。


 政府関係者なら悠馬が3年前、殺人を犯していないことは知っているはずだが、それでも闇堕ちなのは事実だ。


 悪羅と同じ異能で、世間からは迫害の対象にされたりもしている分類だ。


 一部の地域では、魔女裁判のような事件すら起こるほどに。


 そんな闇堕ちのことを夕夏が好きだと聞いたにもかかわらず、総一郎は拒絶をしなかった。


「いや…あれには我々の責任であるわけで…だからといって夕夏を差し出すとは言わんが…」


「…そういえば今日、暁闇と美哉坂朱理が接触して、そして暁闇と美哉坂宗介が接触していたな」


「な…!死神!なぜそんな情報を!」


 何故総一郎は、夕夏の許婚を探していたのか。


 それは宗介の復讐の対象から、夕夏を大きな権力を持つ人物に嫁がせて、引き離したかったからだ。


 朱理の父である宗介と総一郎の因縁については、そのうち話すとしよう。


 そんな理由で、総一郎は夕夏の意思を無視して、許婚を探していたのだ。


「どういう接触だ?」


 真剣な表情の総一郎と寺坂。


 彼らにとって、宗介と悠馬の接触というのは、かなり重要なものだった。


 何を話していたのか、暁闇が唆されて、宗介側に回っていないかなどなど。


 2人の思考を読んでいた死神は、仮面の下でニヤリと笑みを作ると、口を開く。


「なに。簡単な話さ。暁闇は宗介と敵対関係になった。暁闇は本気で、宗介を潰しにかかりたいみたいだぞ?」

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