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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
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開幕の狼煙

 時刻は16時過ぎ。


 悠馬は今、小さなクルーザーの上に立っていた。


 合宿の時の豪華客船とは比べ物にならないほど小さい、漁をするような船だ。


 潮風が鼻を吹き抜け、6月になるとまだまだ明るい太陽が、ギラギラと照りつけて来る。


「少しソワソワしてる?」


「そりゃあ、フィナーレですからね。しかも離島でするなんて、聞いてませんし…」


 悠馬の背後から歩み寄ってきた、生徒会長の柊神奈。


 水色に近い明るい髪の毛を潮風に揺らしながら、颯爽と現れたその姿は、凛々しいお姉さんのようだ。


「そういえば言ってませんでしたね。すみませ〜ん、忘れてました」


「別に、どこでやろうが結果は変わらないですけどね」


 ごめーん、と、自分の頭をコツンと叩き、あざとい笑顔を見せる神奈。


 そんな姿をガン無視した悠馬は、やけに真剣そうな表情で、遠くに見える離島を眺めている。


「あらら。やる気満々ですね〜、本気?本気でやる気ですか?」


「流石に結界は使いませんが…ある程度本気ではいこうと思います」


 結界というのは、不特定多数の前、つまりはこういう大きなイベントごとで、中継されているタイミングで使うのは馬鹿のすることだ。


 その理由は、記憶に新しい夕夏の結界事件のようなものに、巻き込まれる可能性があるからだ。


 自ら厄介ごとに足を突っ込みたくないのなら、結界は使わない方がいい。というのが、常識的な判断だ。


「おーおー。こちらとしては、君が本気を出してくれると、かなり喜ばしいですね。なにしろ今は1位を独走中なので」


 現在のナンバーズ間の順位。


 1位が悠馬の通う第1。


 2位が昨年度優勝の第6。


 3位が第8


 4位が第4


 5位が第7


 6位が第3


 7位第5


 8位第9


 最下位の9位が第2という形になっている。


 ちなみに、悠馬たち第1が出落ちすれば、5位の第7高校までが逆転をできるポイント差の為、ナンバーズ同士での実力差はほとんどなく、お団子状態になっている。


「柊会長、出落ちだけは勘弁してくださいよ?」


「あはは。後輩のくせに生意気。私だって、それなりに実力はあるんですから。見くびらないでください」


「それはすみません」


 そしてここで、フィナーレの内容について話しておこう。


 フィナーレの制限時間は、60分。


 その間、ナンバーズと呼ばれる9つの国立高校から選出された、各2人ずつ、計18人で競技が開始される。


 ルールは至って単純で、相手高校の生徒を戦闘不能に追い込むことによって、ラストアタックを加えた生徒の学校にポイントが加算され、制限時間の60分を耐え抜く、若しくは制限時間内に他校生を全て戦闘不可にすることによって生存ポイントが加算される。


 そして、今回のフィナーレでは入学試験とちがって、一定量のダメージを負った場合、本人が動けると判断していても、自動的に離脱するようになっている。


 離脱は悠馬の保有する異能であるゲートと似た作りになっていて、病院もしくは控え室に送り届けられるそうだ。


「でも、これで後輩イビリも最後になると思うと、私の世代で何かを残せたことになりますかね?」


「あはは…フィナーレ開始直後は大炎上間違いなしですけどね」


 後輩イビリが消えることを期待している神奈と、苦笑いを浮かべる悠馬。


 実はというと、神奈はフィナーレで誰とペアを組むのか、それすら誰にも話していなかった。


 知っているのは教員たちと権堂と美幸、そして悠馬と神奈、朱理くらいのものだ。


 その理由は、当然のことだが、いくら第1の生徒たちが仲間といえど、フィナーレに出る生徒の名前を話すと、他校生にも噂は知れ渡る。


 そうすればフィナーレ開始前に対策をされる可能性もあるわけで、厳しい戦いを強いられることもあるかもしれない。


 そんなことを予期して、神奈はフィナーレ本番までのお預け。と、全校生徒を焦らしてきたのだ。


 だからこそ、開始直前は1年生が出ていると知った生徒たちで炎上することだろう。


「その時は暁くん、君が全員黙らせてください」


「会長って、見かけによらず鬼畜ですよね」


「そうですか?女の子って、案外みんなそうですよ?」


 黙らせるにも2通りの方法がある。


 実力を見せつけて黙らせるか、暴力を振るって黙らせるかだ。


 悠馬の頭に真っ先に浮かんできたのは、後者の方。


 神奈が暴力を振るって解決しろと言っていると誤解をした悠馬は、頬をピクピクさせながら、笑顔を浮かべる神奈を見る。


「少なくとも、俺の友達にそんな女子はいないと思いますけど…」


「あら〜……それはそれは。暁くん、君は幸せな環境で生活してますね」


 悠馬の知っている夕夏や美月といった友達は、そんな怖い発言をしない…はず。


 心の中で彼女たちを美化している悠馬は、神奈が異常なのだと決めつけている。


「ってか、こんな呑気な話してて良いんですか?」


 離島までもうすぐというタイミングで、雑談を辞めた悠馬は、ある重要なことを思い出して神奈に問いかける。


 それは、この異能島から離島までの移動時間が、唯一の打ち合わせ手段だったからだ。


 神奈と悠馬は、先月からほとんど連絡のやりとりもしてこなかったし、打ち合わせもしていなかった。


 どのように動くかも話していないし、最初にどこの学校を狙うのかも決めていないのだ。


「実は結構、マズかったりします」


「……会長には失望しました…よくそれで会長やって来れましたね…」


 悠馬の質問に、苦笑いを浮かべる神奈。


 それを見た悠馬は、彼女がノープランであることを悟り冷ややかな視線を向けた。


 これだけ上級生との軋轢を無くしたいと意気込んでいたのに、本番数十分前でノープランとは、大した奴だ。


「わ、私だって好きで会長になったわけじゃありませんよ!?ただ、成績とレベルと性格の面で…私は書記が良かったんです!」


「もう会長になって1年でしょ…しっかりしてくださいよ…」


 好きで生徒会長になったわけじゃないという言い訳が通じるのは最初の1ヶ月ほどだ。


 就任して間もないならまだしも、神奈はもうすぐ生徒会の任期を終える。


 約1年間も生徒会長をしてきたのだから、そんな言い訳は通じるはずもない。


「…じゃあ、例年通りなら、現状1位の我々が真っ先に狙われる可能性が高いので、開幕は最大限、周りに気を配ってください」


「了解しました」


 神奈は他人に指示を出す。と言うのが苦手だ。


 他人の意見に耳を傾けることが多いため、周りの意見の方がいいんじゃないか?と流されてしまうことも多々ある。


 だからこそ、悠馬は合宿まで、生徒会長が小学校の時の先輩だったなんて知らなかったし、なんなら生徒会長の存在すら知らなかった。


「あとは…第6高校。あれと前半激突するのは避けたいです。いくら暁くんでも、体力を消耗しすぎると思うので」


「そんなに強いんですか?」


 悠馬が神童と呼ばれていた頃を知っている神奈ですら、避けたい相手。


 そんな相手が、第6高校には在学している。


「強い…というか、攻撃が無効化されるんですよね。君ならなんとかするでしょうけど、それをするには手数と体力が必要なわけで、前半ぶつかると体力がなくなっちゃいますし」


「なるほど…」


 異能を無効化する異能。というべきなのだろうか?


 そんな異能があるとは聞いたことがないが、どんな異能にもカラクリはある。


 例えば悠馬の出せる炎の異能に火力の限度があるように、無敵でいる間と、無敵じゃない時間が存在する。とか、目に見える攻撃じゃないと無効化できない。とか。


 常に異能を発動させれる人間なんて、この世の中には居ない。


 しかし神奈の言う通り、そのカラクリを暴くには、かなりの手数が必要となるだろう。


 それは同時に、長期戦を意味している。


 小さなポイントを獲得するために長期戦をするのは愚策だし、下手をして負けるよりは、他のポイントを取りに行った方が賢明な判断だろう。


 神奈の話を素直に聞き入れた悠馬は、落ち着いた様子で、手すりに身を預ける。


「第6高校が現れたら、最初は逃げるってことでいいですよね?」


「はい。そういうことです」


「オッケーです」


「おい!もうすぐ離島に到着するから準備しとけよー!」


 悠馬と神奈の話がまとまったところで、厳つそうな男の大声が聞こえてくる。


 船を運転している、日焼けして真っ黒な肌のゴツいおじ様だ。


 恐らくだが、異能を使わない物理的な戦闘を強いられたら、悠馬も負けてしまうだろう。


 それほど筋肉モリモリで、貫禄のあるオーラを放っていた。


「はーい」


「ありがとうございます。それでは、暁くん、そろそろ行きましょうか?」



 ***



 悠馬と神奈が島へたどり着くと、2人の目に届く場所に、銀色のアタッシュケースが転がっている。


「…漂流物ですかね?」


 砂浜に転がる銀色のアタッシュケースを、訝しそうに見つめる悠馬。


 海から流れてきたとは思えないほど綺麗で、凹み1つないそのケースは、明らかに怪しいオーラを放っている。


「いえ。例年通りなら、そのケースの中に離脱装置の腕時計が入ってるはずです」


「…船の中で渡せばいいのに…」


 これじゃあまるで、無人島に取り残された2人組みが、アタッシュケースの中に残っている食料と武器で生活する番組みたいじゃないか。


 そんなことが頭によぎった悠馬だが、今回ばかりは、そんな妄想をすぐに振り払う。


 この競技で勝つということには、様々な意味がある。


 権堂の無念や、出来てしまった学年間の軋轢の除去。そして朱理との約束。


 最後者は見ていてくれてるかはわからないが、見ていてくれることを願って、後夜祭の時に再会するしかない。


「腕時計、結構ごついですね…」


 アタッシュケースを開けて出てきた白色の腕時計。


 ゴツゴツとしてきて、大柄の男が付けていそうな腕時計を手にした悠馬は、自身の腕にそれを着用して、時間を覗き込む。


「へぇ…時計にもなってるんだ…」


「はい。離脱機能に加え、時計、そして残り人数も教えてくれるって聞いてます」


「超ハイテクじゃないですか…!」


 神奈の説明を聞いて、腕時計を食い入るように見つめている悠馬は、やけに興奮気味だ。


 別に、通常の生活では使わないものなのに、色々と説明を受けてしまうと、とんでもなく使えるものだと勘違いしてしまう人もいる。


 それが悠馬だ。


「っと、そんなことより、俺たち、ここで待機でいいんですか?他の学校の生徒に探知されたりとか、色々と不安なんですが…」


「一応、ルールというより暗黙の了解なんですが、毎年、競技開始の合図があるまでは、どこの学校も動きませんよ。…まぁ、探知系の異能を発動させている生徒はいるかもしれませんが…」


「うっわ、それズルくないですか?」


 移動は出来ないが、異能で位置を把握される可能性がある。


 探知系の異能は、何のモーションも必要ないため、いくらこの離島が異能島全土で中継されてるといえど、競技開始以前に探知していたなどとバレることはまずないだろう。


 探知系の異能を持っている生徒がこの競技に参加しているなら、今頃ほぼ全員の位置を把握できている頃だ。


 不正に限りなく近い、平等なスタートではないことを知った悠馬は、明らかに不満そうな表情を見せながら、砂浜をくるくると歩く。


「まぁ、ズルイですけど、それも戦略のうちですからね」


 ニッコリと笑う神奈。


 その表情には、探知系異能に対する不満など一切感じさせない、心からこの瞬間を楽しんでいそうなのがわかる。


『これより、最終種目。各国立高校による、学校対抗のフィナーレを開催します。各校の生徒は、速やかに話をやめて、開始の合図を待ってください』


「お…はじまりますね」


 開始の合図を待てという放送を聞いて、気を引き締める悠馬。


 その表情は、神奈と同じく楽しそうにも見える。


『各校、行動を開始してください』


 悠馬と神奈が笑みを浮かべていると、時計からそこそこ大きなアラームが鳴り響き、それと同時に放送が聞こえてくる。


「とりあえず、森の中に入りましょう!」


「いや…待ってください!森から誰か来ます!」


 競技開始と同時に、砂浜を抜けて森の中へと入ろうとする神奈を抑止する。


 最初から全開の悠馬は、入学試験で加奈に目潰しをされた時に見せた、炎の熱を周囲に放ち、異変を察知する。


「へへっ!ビンゴだぜ!」


「第1が居なくなれば、俺らもまだ可能性があるからな!」


 悠馬が声を上げると同時に、森の中から出てきた男子生徒2人。


 体操着に4と記されていることから、第4高校の生徒だろう。


 しかし、競技開始の合図があってから僅か数秒。明らかに早すぎる。


 間違い無く、悠馬が不満を漏らしていた探知系の異能を使っていることだろう。


 点数的にも、まだまだ1位を狙える場所にいる第4高校からしてみると、第1高校にはここで退場願いたいのだろう。


「喰らえや!」


 立ち止まる神奈と、それを的にしようとする第4高校の生徒2人。


 片方の生徒が異能を使用して、石を浮かせると、神奈に向けてその石を全て飛ばす。


「会長!避けてくださいねー!」


「え?は?」


 石を回避しようとすると神奈に投げかけられた、悠馬の能天気な声。


 避けろ、という単語を聞いた神奈は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべ、徐々に表情は青ざめていく。


「いけ!コキュートス!」


 そう呟くと同時に、悠馬の周りには冷気が漂い、彼の吐く吐息は、白いものへと変わる。


 それと同時に、悠馬の発動させたコキュートスは、大地を揺るがすような轟音を響かせながら、第4高校の生徒と、神奈に向かって突き進み始めた。


「絶対すると思ったぁぁ!」


 競技開始から僅か数秒。


 神奈は半泣きで、悲痛な叫び声を上げることとなった。

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