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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学試験編
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入学試験6

  悠馬は森の中を駆けていた。

 木々を掻き分け、なるべく遠くへと。


 その理由は、数分前に大規模な異能、氷のコキュートスを使用したからだ。


 あの規模で使うのは間違いだった。

 あの後、すぐに氷漬けの大地を発見した生徒たちは、王だ!間違いない!と口々に騒ぎ、周囲を捜索し始めたのだ。


 近くにいたら狙われると判断した悠馬は、こうして走っているというわけだ。


「はぁ…はぁ…きっつ…」


 ただでさえ不慣れな山道を全力で走れば、当然かなりの体力を消耗する。


 そこそこの距離を走った悠馬は、少し開けたスペースで膝に両手をつくと、上下に肩を動かしてきつそうな表情を浮かべながら息をする。


「ああ。…わかってる……必ず1人は見つける」


 悠馬が休憩をしていると、木の陰からそんな声が聞こえてきた。

 

  入学試験中に電話でもしているのだろうか?

 耳元の無線のようなものに話しかける人影を見て、悠馬は首を傾げる。


 残念な事に、角度的な問題で顔は見えなかったが、なにやら良からぬ事でも企んでいるのだろうか?


 その人物は悠馬の存在に気づいたのか、戦闘を仕掛けることもなく真っ先に逃げ出した。


「まぁ、みんながみんな好戦的ってわけじゃなさそうで、安心した」


 1人森の中で感想をつぶやく悠馬。

 近くからは、本気で苦しんでいそうな悲鳴が聞こえていた。


「ぎゃぁぁぁあ!なんだよこれ!なんで植物が!」


「ひ、引きずり込まれる!助けてくれ!」


「お、おい!引っ張るなよ!俺まで…うわぁぁあ!」


  既に誰か捕まっているのか、複数の植物は人の形になって活動を止めており、不気味さを醸し出す。


 そして新たに植物の餌食となってしまいそうな男子生徒たちは、植物に足を掴まれ宙づりになりながら悲鳴をあげていた。


「誰だよ!こんな卑怯な能力使ってる奴は!」


「こんなの不正だ!不正に決まってる!」


  何度叩いても、引っ張っても千切れる様子がない植物に恐怖を感じながら、捕まっている男子生徒たちは何度も叫ぶ。


「隠れた所からコソコソと俺らを見てそんなに楽しいかよ!」


「卑怯者が!」


「早く降ろせよ!放せよ!」


「あははは!俺ずっとここにいるんだけどなぁ?もしかして焦りすぎて気づいてなかった?悲しいなぁ〜」


 ふとそんな声が聞こえ、捕まっている生徒たちは宙づりのまま顔を上げた。


  木の上に立っている、髪の毛を金色に染めた男子生徒。


  入学試験に臨んでいるというよりは、遊びに来たという形容がぴったりな表情で3人を見る男子生徒は、愉快そうに笑みを浮かべた。


「こんな方法で得点稼いで恥ずかしくないのか!?」


「なぁ?俺らも人生かかってんだよ。わかるだろ?」


「頼む、見逃してくれよ!」


「どうしよっかなー。迷うなー」


  金髪の男子生徒が人差し指をクイっと動かすと、男子生徒3人の足を掴んでいた木は徐々に全身を包み込み始める。


「ふざ、ふざけんなよ!俺はこんなところで終わっていいような…」


「た、助けて!助け…」


「放せぇぇえええ!」


  まるで断末魔のように彼らの声は山中に響き渡り、先ほど並んでいた人型を模った植物と同じ様になる。


「大丈夫だよーん、その木は対象の体力を吸って絡みつく。つまり体力がゼロになったら勝手に解けるから!まぁ、体力ゼロで入試乗り切れるかは知らないけどねぇ!」


  愉快にそう呟き、木の上でくるっと一回転した金髪の男子は、目の前に突如現れた茶髪の男子生徒を見て、「うわ!」と驚きの声をあげながら木からずり落ちた。


「っぶねー…おい悠馬!驚かせんなよ!危うく木から落下して脱落になるところだったじゃねえか!」


  ギリギリのところで、先ほどまで立っていた大きな木を掴んでいる金髪の男子生徒は、呑気に木に寄りかかっている悠馬に怒鳴りつける。


「連太郎、お前相変わらず酷いことしてんな。この人たちが可哀想」


  人の形をした樹木を見ながら、気味が悪いと言いたげに両腕を擦った悠馬は、ドン引きした表情で金髪の少年、連太郎を見た。


「いやぁ、そんなこと言うなら当然、こんなとこするなら王である俺を討て!とか言ってくれるんだよねぇ?」


  落ちかけた木へと両腕を使いよじ登った連太郎は、悠馬の横に座りながらニヤッと笑ってみせた。


 まるでペットがご主人様を見ているような目だ。


  その様子にさらにドン引きした悠馬は、引きつった表情で口を開いた。


「悪いけど、合格にさせたい奴が居るんだ。それにお前、実力で合格くらい勝ち取れんだろ?なんであんな回りくどいやり方で戦ってんだ?」


  連太郎の異能を持ってすれば、こんな回りくどいチマチマとしたやり方じゃなくて、一気にこの場を制圧できたはずだった。


  それなのにチマチマとしたやり方を取っている連太郎を疑問視した悠馬は、不思議そうに問いかけた。


「んまぁ、なぁんか、外と通信してる学生さんがいるみたいだからさ。あんまり派手なことして目つけられたくないんだ〜」


  だらーんと両手を伸ばしながら、連太郎は足だけをかけて木にぶら下がり、物干し竿に掛けられている洗濯物のような体制になる。


「なるほど。それじゃあ、俺行くわ」


  特に何かを話したいわけじゃなく、連太郎の能力なんじゃないか?と軽い気持ちで近づいた悠馬は、話すことがなくなったのか木から飛び降りるとその場から去って行く。


  その様子を見てニヤリと笑みを浮かべた連太郎は、先ほどの植物のようなものから木の刀のようなものを作り、地面に飛び降りると悠馬を背後から奇襲した。


  全力で走り、悠馬の頭を目掛けて木刀を振り下ろす。


  容赦なく振り下ろされたその一撃は、空を斬り、硬い地面へと直撃すると、連太郎の手に鈍い痺れだけを残す。


 1メートルほど先に立っている悠馬は、やや不機嫌そうに振り返っていた。


「ちぇっ、いけると思ったんだけどなぁ」


  連太郎は、本気で悠馬を倒すつもりでいたのだろう。悪びれもせずに舌打ちをすると、笑いながら悠馬との距離を置いた。


「お前、赤チームだろ?次やったら知り合いのお前でもこの試験から脱落させるからな」


「うっわ、こっわ!それが友達にかける言葉かよ!」


  不機嫌な悠馬に向けて、お前はクズだ!最低だ!人でなしだ!と指をさしながら罵る連太郎を無視して、悠馬は歩き始めた。


「おい!この試験で結界だけは使うなよ!」


「ん?ああ。わかった」


  連太郎の忠告を聞いて、素直に受け入れた悠馬は、5つ目の異能を発動して、その場から一瞬にして消え去った。


「ま、アイツのチート能力なら心配するだけ損か」




 ****




  悠馬と連太郎が会話をしている真っ最中。

 彼らの会話が終わるのを、遠くから見守る影が2つ並んでいた。


「なぁ八神、なんでせっかくのチャンスを無駄にしたんだよ!赤と黒のアイツらを倒すチャンスだったじゃんか!」


  離れて行く連太郎と悠馬を何度も指差しながら、鼻息を荒くした白チームの小柄で黒髪の男子。


  先ほど夕夏の事をほんの少しだけ励ました男子生徒だ。


  その横に待機しているのは、白髪に青い瞳をした、好青年という形容が相応しい男子だった。


 こちらも白チーム。八神と呼ばれたその男子は、悠馬と連太郎が見えなくなるのを待ってから話を始めた。


「あの2人、この距離で俺らに気づいてた」


「そりゃあ俺らが視認できるってことはアイツらも視認できるだろうさ。それがどうかしたのかよ?」


  キョトンとする黒髪の男子生徒。

  何も気づいている様子のないその姿を見た八神は、呆れと哀れみの篭ったような微妙な表情で彼を見つめた。


「なぁ、通。聞くがアイツら一度でもこっち見たか?」


「あ!見てねえ!やべぇな!アイツらバケモンだ!100パーセント王だろ!倒しに行こうぜ八神ぃ!」


  八神がヒントを与えると、通はすぐに気づいた。


 しゃがんでいた通は立ち上がると、目の前にある倒れた大木に足を乗せると、まるで新たな船出と言わんばかりに決まり顔を見せながら八神の方を見た。


 八神は絶望していた。

  中学のときから、通の事は馬鹿だ間抜けだと思ってきたが、まさかここまで間抜けだとは思わなかった。下手をするとチンパンジーの方が知能が高いかもしれない。


  偏頭痛持ちでもないのに、頭が痛くなるような感覚にとらわれた八神は、呆れてものも言えない様子だ。


「さぁ!行くぞ八神!俺らの第1でのハーレム計画の第一歩だ!俺美哉坂ちゃんにも媚び売っといたからなぁ〜、高校生活はお花畑真っしぐらだぜ!」


「待て待て待て待て!浅はかすぎるだろ!」


  遠くからは王を探せ!という声が聞こえ、占い師はどこにいるんだ!?という叫び声も続くようにして聞こえる。


  そんな中、自分の欲望を口にしながら駆け出そうとした通を引き止めた八神は、真剣な眼差しで通を見た。


「何だよ?」


「この試験で王を討つのはほぼ不可能で、罠なんだよ」


「え?どゆこと?」


  通はまだ理解できていないご様子で、首を傾げながら八神を見る。


「王を倒せたら倒した奴の入学が決まる。だけど、それは王を戦闘不可に追いやった生徒。つまりはラストアタックを奪った生徒だけだろ。1人の入学しか決まらない。それに王は上位異能力者3名ときた。そんな最初から俺たちよりも強いってやつに突っ込んで、何かアピールできるとでも思ってんのか?」


「うぐっ…」


  核心を突かれたのか通は一度よろめくと、大木の陰にしゃがみ込み、八神の話をおとなしく聞き始めた。


「俺なら、自分の力を最大限にアピールできるように、手頃な生徒で手数を見せる。ほら、上にはドローン、木にはカメラが設置されてる。学園側はこれで生徒たちを監視してるんだ。ついでにいうならこの携帯端末。俺らは中学校からこの異能島に居たのに、何でわざわざ端末を変えさせられたんだ?」


「そりゃあ、三年間使ってボロくなったからとかじゃねえの?」


「馬鹿野郎。入試前に貰ったものはきちんと確認しとけ。これはな、地図アプリを起動して。桶狭間通っと。ほら、お前の名前を検索すると位置情報が出てくるし、携帯端末って入力すると、各チームの色付きで、どこにどの色のやつがいるのかわかんだよ」


「まじかよ!なら見分け方も配布されたゼッケンだけじゃなくて、携帯端末で…お?こいつ赤から白に変わったぞ?不具合か?」


  八神が通に見せた携帯端末の画面で、動きがあったらしい。不思議そうにツンツンと端末の画面を触る通から端末を奪い返し、状況を確認する。


「試験が開始されて半分が経過したんだ。叛逆者が自分のカラーチームが不利だと判断して、チームを乗り換えたんだろうさ」


「なるほど!八神、お前頭いいな!」


 お前が馬鹿なだけだ。と言いたげな八神は、それをグッと堪えて、言葉を締めくくった。


「だから俺たちは、携帯端末を駆使して、密集しているところじゃなくて、お手頃な敵を探して自分の異能をアピールするんだよ。幸い、倒したポイント制じゃないみたいだからな。この試験は、受験生たちの異能を把握するのと、どれだけアピールできるかを目的とした試験なんだよ。みんな王っていう大きな餌に目が眩んで、その辺をわかってない」


「そかそか!じゃあ弱いものイジメと行こうか!」


  その言い方はよしてくれ。

 まるで俺たちが悪人みたいじゃないか。


  ガハハハ!と下品に笑い出しそうな極悪人の表情を浮かべた通を見て、心の中でそう嘆いた八神は、悠馬と連太郎とは真逆方向に進み始めた通の後に続いた。

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