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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
異能祭編
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朱理と悠馬はデート中2

 りんご飴を舐めながら、人の多い大通りを突き進む。


 近くで競技でもあっているのか、生徒や大人たちの歓声と、そしてスターターピストルが鳴り響くのを横目に歩く2人。


 その姿は、りんご飴屋さんのお兄さんが言ったように、カップルそのものだ。


「いえ、まさか悠馬さんが、その容姿で彼女いなくて、童貞だなんて、思いもしませんでした」


「うぐっ…」


 しかし、話している内容はカップルやそれではない。


 りんご飴をぺろりと舐めながら、じっとりとした目で悠馬を見つめる朱理は、面白がって悠馬を馬鹿にしている。


「か、彼女が居ないからって、童貞とは限らないだろ…!」


 精一杯の悪足掻きをする悠馬。


 もちろん、悠馬は正真正銘の童貞で、新品未使用という烙印が押されて売ってある商品と、なんら遜色がない。


 しかし、その烙印を馬鹿にされるのが恥ずかしい悠馬は、あたかも自分が彼女は居ないが童貞ではない。と思わせるような発言をする。


「童貞じゃないんですか?」


「そ、それは…」


 見栄を張ったせいで、言葉に詰まる悠馬。


 この結果は予測できたはずなのだが、何も考えずに自分のプライドを守ろうとした結果、もっと恥ずかしい結果に陥ってしまった。


「そ、そんなことよりさ!朱理は本土のどこの学校に通ってるんだ?」


「はあ…学校、ですか」


 苦し紛れの話題逸らし。


 自分が新品未使用だという話から、朱理の学校の話題へと話を変えた悠馬は、朱理が童貞の件について追求する気はないのだと知り、一安心する。


「そうそう。本土の学校は異能使えないだろ?どんな授業してるのか気になってさ」


 異能島と、本土のルールは全くの別物だ。


 異能島では、他人を害するような異能の使用は禁止されているものの、正当防衛や体育、ちょっとした異能を使ったくらいでは怒られもしない。


 しかし本土は厳しい制限がされていて、正当防衛であっても、相手へ向けての異能の使用は禁止されているし、異能を使ったと知られた時点で警察が飛んでくるのだ。


 悠馬も中学までは本土にいて、その厳しいルールの中で生活してきたのだが、本土の高校生活ではどうなのかが気になる。


 学習カリキュラムは同じなのかー、とか、異能についてはどうやって学んでいるのか、とか。


「すみません、私、高校に通っていないのでわからないです」


「……ごめん」


 笑顔で答える朱理を見て、申し訳なさそうに頭を下げる悠馬。


 悠馬の脳内では、朱理は先が短い病気の女の子だ。


 そんな彼女が、学校に通う余裕などあるはずもなく、病院で生活をしているのだろう。


 そんな解釈をする。


「いえいえ。こちらこそお役に立てず、すみません。ところで悠馬さん、あそこのモニターに映っている学生は、優勝インタビュー的な何かですか?」


 朱理が指をさしたモニターを見る悠馬。


「げっ…」


 そこに映し出されていたのは、悠馬の同じクラスの男子、襟足の長いヤンキー系の、栗田だった。


「まぁ、正直余裕っすね!俺、足めっちゃ早いんで!」


 ヒーローインタビューでもされているのか、ドヤ顔でマイクとカメラに向かって答える栗田。


 栗田の異能は、身体強化系の中でも部分的な、脚力強化だ。


 部分的な異能というのは、全身に満遍なく異能を使うよりも、遥かにコントロールがしやすく、その部分にしか異能を発動させれないため、特に制御については考えなくてもいい。


 つまりは、全身を強化する系がバランス型とするなら、身体の一部分しか強化できない異能は、特化型というわけだ。


 そんな彼がリレーを走ったら、1位になるのはほぼ確定のようなものだ。


 自分の異能と、順位、そして名前と顔がモニターに映し出されて嬉しいのか、ドヤ顔の栗田は、アナウンサー役の放送部女子の質問に、事細かに答えている。


「優勝インタビューだろうね…」


 リレーの様子や、他の競技の様子が中継されるのは知っていたものの、まさか優勝インタビューがあるとは思っていなかった悠馬。


 自分があの場に立たなくて本当に良かった!と心の中で安堵している悠馬だったが、その安堵はすぐに崩れ去ることとなった。


「おい!おいおいおいおい暁!テメェ!リレー1位の俺を差し置いて、デートかよ!?」


「うげっ…」


 悠馬たちの背後から迫ってくる、ギャーギャーとうるさい声。


 それはつい先ほど、モニター越しに聞こえてきた声と全く同じものだ。


 どうやら1位になって、自分がキャーキャーされると思っていた矢先、悠馬が女子と手を繋いで歩いているのを見て、不満に思ったようだ。


 あたりが騒がしいというのに、ズカズカと聞こえてくる足音を聞いた悠馬は、めんどくさそうに振り向く。


 そこには予想通りの人物、襟足の長い栗田が立っていた。


「なんとか言ったらどう…ぇえええええええええええええええ!?なんだよその娘!彼女か!?彼女なのか!?クッソ可愛いじゃん!セコイぞお前!フザケンナ!」


 悠馬に突っかかろうとした栗田は、悠馬と同時に振り返った朱理の容姿を見て、目を白黒とさせると、一瞬仰け反り、半泣きの表情で悠馬に摑みかかる。


「俺がこの日のためにどれだけ修行したか!女の子にキャーキャー言われるためにどれだけ頑張ったと思ってんだ!それなのにテメェ、まだ何もしてねぇくせにそんな美女連れて歩きやがって!天罰が下るぞ!」


「お、落ち着けよ栗田!」


「クソ!お前はいけ好かねぇ八神の奴と違って、仲良くなれると思ってたのに!」


 掴みかかって泣き叫ぶ栗田を宥めようとする悠馬だが、裏切られたと勘違いしている栗田は止まることを知らない。


 クラス内で広まったある噂。


 それは悠馬が中学時代、同学年の女子全員に告られて振ったという噂と、八神が結婚すると言って、8股をしたという噂だった。


 もちろん、その噂を聞いた本人たちが否定をし、その噂の熱りが冷めたはずなのだが、栗田や他の男子たちは、八神を怪しんでいた。


 悠馬はというと、表立って女子と話しているようなそぶりは見せないし、容姿以外はあまり敵視しなくても大丈夫。


 彼女いない歴=年齢だし、夕夏や美月を狙っている男子たちからは、顔はいいけど人畜無害な村人として判断されていた。


 対する八神は、いつも女子に囲まれている。


 本人は8股の噂を否定しているが、女子に対する対応が妙に手慣れているし、レベルも高く、容姿も良い、そして運動もできるというハイスペック男子なのだ。


 その、妙に女の扱いが手慣れている八神というのは、モテない男子生徒からすれば恨めしい存在である。


 人畜無害な悠馬と、本当に8股していたんじゃないかと噂される八神。


 栗田は、悠馬のことは信用していたものの、八神のことは嫌っていた。


「さっきもよぉ!八神の奴、俺のこと煽ってきたんだよ!」


「何されたんだよ?」


「俺がリレーを走る直前に現れて、アイツは女の子4人くらいに囲まれてキャーキャー言われててよぉ!」


「あ、ああ…」


 なんとなく察しがついた悠馬。


 合宿の時に悠馬が注意したように、八神は天然で周りに敵を作ることが多い。


 相手を持ち上げようとして発言してくれていることはわからなくもないのだが、八神がいうと嫌味ったらしいというか、なんだかムカつくのだ。


「俺が声かけたら、俺は忙しいから先に行くけど、栗田のこと応援してるから。って!なんだよアイツ!忙しいって!女と遊んでるだけだろ!アホ死ね!」


 憤慨する栗田。


 確かに、クラスメイトが声をかけたのに、女の子を優先させて俺は忙しい。などと言われると誰でもムカつくだろう。


 しかも、競技前の神経質になっている栗田の前で、そんなにたくさんの女子を見せるものじゃない。


「そ、そうなんだ…」


「お前も八神側だったのか!?なぁ!」


 自分を除け者にして、女とキャッキャウフフするのか!?と言いたげな栗田。


 もともと、栗田と悠馬は仲が良いわけじゃないから、除け者、というより関わらないようにしていたというのが正しいのだが。


 どう答えれば良いかわからない悠馬。


「すみません、私と悠馬さんは、その八神って男子みたいに女子をはべらせて遊んでいるのではなくて、れっきとした恋人同士なので」


「っ…羨ましい…」


 悠馬は女遊びをしているわけではなく、恋人とデートをしているのだから、女遊びをしている八神とは違う。と栗田を丸め込む朱理。


「ま、まぁ?これでお前が島の女子に手を出す可能性が減ったから、万々歳か…」


 黒髪ロングの美女。


 浴衣を着ていて、真っ白な肌と、優美な曲線描くその姿を見た栗田は、こんな美女に見慣れていたら、並大抵の女じゃ靡かないだろうと安心する。


 悠馬に彼女がいたのは裏切られた気持ちだが、夕夏や美月を奪い合うメンバーの中から、イレギュラー要素とも思われる悠馬を、ほぼ完全に除外できたから嬉しいのだろう。


「では、私たち、今日この日が終わると、いつ会えるかわからなくなってしまうので。この辺りでお暇させていただきますね」


「あ、ああ、ごめんなさい!せっかくのデートを邪魔しちゃって!末永くお幸せに!」


 さっきまで泣き叫んでいたのは、一体何処のどいつだったのだろうか?


 本土の人間は、このイベントが終わると、来年の異能祭が始まるまでこの島へ入ることはできない。


 加えて、島で過ごす生徒は、親族の忌引や危篤状態でなければ、平日や休日に島から出ることを許されない。


 夏休み、冬休み、春休みは別なのだが、何ヶ月も先なのだから、このデートに賭ける気持ちの熱さもわかる。


 朱理の言葉を聞いて、2人の本気デートを邪魔しちゃいけないと思ったのか、悠馬を掴んでいた手を離すと、大きく手を振って、悠馬と朱理を見送る。


「ふふっ、上手くいきましたね」


「…ごめん朱理、恋人がいるっていうことの方が、色々と問題になりそうなんだけど…」


 笑顔の朱理と、青ざめた顔の悠馬。


 許嫁がいるというのに、他に彼女がいるなどという噂が流れれば、悠馬の人生は破滅に向かって一直線だ。


 その場をしのぐために、今後いつ爆発するかもわからない地雷をいくつも撒かれた悠馬のショックは、計り知れないものだろう。


「あらら…良い案だと思ったんですけど…すみません、打ち合わせもせずに勝手に発言をしてしまって」


「いや、いいよ。もう終わったことだしさ。後のことは後で考えればいいし」


 今考えたところでラチがあかない。


 考えたところで、自分が破滅をすることは確定なのだ。


 それを悟った悠馬は、その結論に至ると同時に考えることをやめる。


「あ、やきそば…」


「よし、買おうか?」


「悠馬さん…もしかしてお金持ちなんですか?」


「え"」


 なんの惜しげもなく、初対面の女の子のためにお金を使う悠馬。


 普通の学生ならば、他人に使うほどお金の余裕があるはずがないし、そもそも仕送りで生活している学生が殆どなのだから、他人のためにお金を使おうなどとは思わないのだ。


 りんご飴くらいならまだしも、屋台の名前を口にしただけで、買いに行こうなどというのは、いくらなんでもおかしすぎる。


 それを知らなかった悠馬。


 悠馬はというと、小学校以来、買い物などほとんど行かなくなってしまったし、自分が欲しいものというのがほとんどない。


 加えて、親の遺産と死神の金を持っている悠馬からすれば、親の金は将来のための貯蓄。死神の金は、どこへ消えてもいいいらないものという判断なのだ。


 だから悠馬は、初対面の朱理にでも、死神の金なら使っても構わないや。と思ったわけで。


 加えて言うなら、朱理が病気だと勘違いしているから優しい、と言うのもある。


「もしかして、大企業の跡取りとかですか?」


「いや…俺基本無欲だからさ…お金が貯まるだけで…」


「そうなんですね。羨ましいです」


 自分が他人から億単位の供給を受けたなどと話したくない悠馬は、適当な嘘をついて、焼きそばの屋台へと向かう。


「すみません、焼きそばひとつください」


「はいよー、箸は2つでいいか?毎度!」


「え、あ…」


 りんご飴屋さんと違って、業務的な言葉しか交わさない、焼きそば屋の大将。


 悠馬が携帯端末で支払いを終えると、朱理がいることに気づき、割り箸を二本つけてから焼きそばを悠馬へと手渡す。


「あは♪もしかして、私たち2人で食べると思われたんですかね?」


「そう、みたいだね」


 そこそこ行列もできていたため、箸は1本で大丈夫ですなどと言えなかった悠馬は、渡されたものをそのまま受け取り、その場を後にする。


「まぁ、私は悠馬さんと一緒に食べても構いませんけど。悠馬さんの奢りですし」


「あ、いや、悪い。俺結構重要な競技に出るから、あまりご飯は食べないようにしてるんだ」


 箸が二膳あるわけだし、2人で食べればいいという朱理。


 しかし悠馬は、フィナーレという最も重要な競技に出るため、調子に乗って大量にご飯を食べるわけにはいかない。


 朱理と一緒に、焼きそばを突っついて食べるというのはかなり魅力的だったが、それを断念した悠馬は、あからさまに残念そうな表情で、朱理に焼きそばを渡す。


 叶うことなら朱理の唾液のついた焼きそばが食べたい。


 そんな人間性を疑う考えを行う悠馬だった。

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