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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
55/474

鏡花と死神

「まず再確認だが、お前にかけられた催眠は解けてるんだな?」


 悠馬に対しての、死神の再確認。


 催眠、暗示が解けていない部分がある可能性も考慮してか、鏡花が総帥秘書であるとは明確に断言せずに、話を進める。


「…ああ。まさか担任教師が総帥秘書だとは思わなかったけどな」


「なら話が早いな。鏡花は総帥直々の任務で、身分を詐称してこの異能島で教師をしている」


 鏡花が異能島の全ての人間に向けて使用した、認識を阻害するという暗示が解けていることを再確認した死神は、倒れた大木に腰をかける。


「俺が知りたいのはその先だ。死神さん」


「そう急かすなよ。お前の知りたいことは全部話してやる。あと、俺のことは呼び捨てでいい。本名でもないしな」


 いち早く、担任教師がなぜこんな大問題を引き起こしているのかを知りたい悠馬は、死神にはぐらかされるのではないかと結論を急がせる。


 しかし、はぐらかすつもりのない死神は、焦る悠馬を宥めながら、話を続けた。


「今年の第1の1年の中に、レベル10は何人居たと思う?」


 1年の中のレベル10。


 入学式で王になった生徒は計3人で、アダムと夕夏と悠馬だ。


 すでに悠馬と夕夏はレベル10であることが判明しているから数に入れるとして、問題はアダム。


 特に目立った成績も残さず、平凡そのものに見えるアダムだが、入試時に連太郎や南雲を差し置いて王に選ばれたことを鑑みると、ほぼ確実にレベル10だろう。


「3人。合ってるか?」


 脳内でその結論に至った悠馬は、特に気にした素振りもなく、死神に答える。


「異常だとは思わないか?」


「異常?」


 異常と言われて、首をかしげる悠馬。


 悠馬からしてみれば、レベル10が3人もいるということはごく普通のことで、自分がレベル10なのだから、周りにレベル10が何人いようと、それが普通のことだと判断してしまっている。


 しかし、悠馬の常識が、他人にとっての常識とは限らない。


 少し考えてみよう。


 昨年の異能祭で、レベル9である権堂が1年であるにも関わらず、もっとも点数の高いフィナーレに大抜擢された。


 今年の3年は、レベル9が1人で、他は全員レベル8。


 そして今の2年の中で、フィナーレに大抜擢された権堂がレベル9ということは、2年の中にもレベル10は1人も存在しないのだ。


 それなのに、1年にはレベル10が3人も在学している。


 それは異能島始まって以来、前例のない出来事であって、決して普通の出来事ではないのだ。


「異能島に在学中のレベル10は合計で11人。その中の3人が同じ学校の、同じ学年に在籍している」


「…なるほど」


 言われてみると、その異常さに気づく。


 国も放置しておけないというわけだ。


「それに加えて、お前は暁闇で、美哉坂は前総帥の娘。そしてアダムもとある事情を抱えている」


「俺の監視役ってことか?」


 その発言を聞いた悠馬は、自身が暁闇であることを知られているために目をつけられたと判断した。


 国からすれば、悪羅と同じ闇堕ちなのだから、厳しいマークを受けていても仕方がないだろう。


「フ…フフフ…お前は自意識過剰だな。お前とアダムはオマケだよ。鏡花の仕事は美哉坂夕夏の安全の保証だ」


「……イマイチ話が読めないな。美哉坂は前総帥の娘であって、寺坂総帥の娘じゃないだろ?何故総帥直々の任務になるんだ?」


 娘が気になるから〜!などという理由なら、ドン引きはするが理解はできる。


 しかし、寺坂と夕夏の繋がりを見つけられない悠馬からしてみたら、鏡花がこの仕事を任せられる意味がわからない。


「寺坂は美哉坂父の弟子だからな。師匠の娘を自分の子供のように可愛がっているし、師匠にいいところも見せたいんだろ」


「…そういうものなのか…」


 兎に角、夕夏の監視という任務を行なっていることだけを知った悠馬は、てっきりもっとスケールの大きなことが起こっているのかと思っていた為、落胆する。


「…ところで死神…いや、鏡花先生でもいい…神宮を治せたりしないか?」


「…意外な質問だな」


「無理だ。使徒は生命の道から外れたものだ。生き返らせることは不可能。それにお前も頭では理解してるはずだ。それが神宮の選択だった。違うか?」


「そうだけど…」


 確かに、死神のいう通りだ。


 神宮は、悠馬が刀を納めた時に、諦めて元の姿に戻る道を模索するのではなく、力をさらに求め、暴走するという決断を下した。


 それは神宮自身の決断であって、悠馬が罪悪感に苛まれる必要は、全くと言っていいほど無いのだ。


 しかし、そうだと知っていても、人を殺めたという事実は変わらない。


 鏡花が総帥秘書だということに驚いたり、神宮との戦闘でアドレナリンが出ていた悠馬は、それがようやく冷めてきたのか、自身の震える手を、そっと隠す。


「お前が気に病む必要はない。この件に関しての記憶は、鏡花とオレ、そしてお前の3人の頭の中にしか残らない」


「っ…」


「暁。お前のために言っておくが…非情に成りきれなければ、お前はまた、失うだけだぞ。迷いは今のうちに捨てて置け」


「フフフ…人生の先輩からのアドバイスか?」


「黙ってろ。お前には関係のない話だ」


 鏡花は、今の悠馬と同じような経験に陥ったことがあった。


 他人を救うために、殺すしかなかった。


 だけど、それでも、後悔と罪悪感というもの、重く、自身の身体にのし掛かってきた。


 まるで過去の自分を見ているかのような、そんな気持ちになってしまった鏡花は、悠馬にそう忠告をしたが、死神に冷やかされたのが嫌だったのか、プイッとそっぽを向いた。


「また失う…」


 その単語を聞いた悠馬は、真っ黒な瞳の奥で、あの日の光景を思い出していた。


 迷いを捨てないと、また同じことを繰り返すだけだ。


 知り合いであろうが、悪じゃなかろうが、邪魔をする奴は、俺の大切なものを奪おうとする奴には、容赦しちゃいけないんだ。


「ありがとう。鏡花先生。少しわかった気がする」


「なら良かった」


「ところで暁。今回の謝礼金、並びに口止め料についてだが…」


 自分なりの、狂った答えを導き出した悠馬と、落ち着いた様子の悠馬を見て微笑んだ鏡花。


 その2人の心情などガン無視した死神は、学生が持っている携帯端末とは異なった、真っ黒な携帯端末を操作すると、その画面を悠馬に向けた。


「お前の端末にはすでに、これからの迷惑料と、口止め料、そして謝礼金は振り込んであるはずだ。あとは臨時で金が増えることもあるだろうが、それを受け取っている以上、文句は受け付けない」


「…これから?」


 その発言はまるで、これから起こる出来事を予測しているような、すでに確定化しているような、そんな風に聞こえた。


 不気味なトーンで話をした死神を見ながら、眉間に皺を寄せた悠馬は、理解ができないと言いたげに、黙り込む。


「そう。これからの分も全て含まれてる。返金は認めないし、文句も受け付けない」


「んな勝手な…せめて文句は受け付けろよ」


「金は返す気がないのに文句は受け付けろとは、とんだクレーマーだ」


「じゃあ金も返すから文句も受け付けろよ」


「断る」


 結局どっちもダメじゃねえか!


 心の中でそう怒鳴った悠馬は、悠馬の発言を予測していたのか、画面越しに笑っている死神に若干の苛立ちを覚えながら、軽く頷いてみせた。


「なら話は終了だ。さっきも言ったが、お前と俺、そして鏡花以外の記憶では、神宮が暴れて、お前がそれを止めて、鏡花が警察を呼びそのまま護送されたということになっている」


「俺の異能のことはどうなってるんだ?」


 神宮が死んだのではなく、捕まったという設定、そして使徒になったということが綺麗さっぱり忘れ去られるのなら、真里亞や南雲にとっても精神的には安心できるものになっていることだろう。


「闇堕ちだということは、南雲と真里亞に気づかれている筈だ」


「そっか。わかった」


 ほんの少しだけ、自分の闇堕ちのことについても暗示がかかっていることを期待した悠馬。


 しかし、自分の思い通りには進まないようだ。


「あとこれ。お前に渡しておこう」


 聞きたいことを聞き、辻褄合わせもなんとか行きそうな悠馬に向けて、死神は銀色に輝く何かを投げつける。


 大きさ的には15センチ大だろうか?


 危うく落としそうになりながらそれを受け止めた悠馬は、手に入ったその物体を見て、目を輝かせた。


「美哉坂の神器…!摘出できたのか!?綺麗に治ってるな!」


「元どおりにするのは時間がかかったが。それはお前からあの子に返してやってくれ。きっと大喜びする筈だ。わかったらさっさと宿舎へ戻れ」


「ああ!ありがとう!」


 夕夏の神器を手にして大はしゃぎの悠馬は、鏡花の件と、お金の件のことを知れたこともあってか、すんなりと死神の指示に従い、下山を始める。


「フフ、鏡花お前、悠馬に暗示をかけたな?」


「なんの話だ?」


 神宮の件についてかなり悩んでいる様子の悠馬が、鏡花の一言だけですぐに決断を下せるわけがない。


 そのことをよく知っている死神は、鏡花が悠馬になんらかの暗示をかけたことに気づいた。


 十中八九、罪悪感を薄めるとか、そういった類の暗示をかけている筈だ。


 答えを導き出した死神を見て、笑ってみせた鏡花。


 彼女の不敵な笑みを見た死神は、その疑問を確信へと変えたのか、それ以上の追求は何もしなかった。


「さて…オレも…」


「何を言っている?お前には今から、コイツらを運ぶ仕事が残っているだろ?」


「うげっ…」


 伸びをして立ち去ろうとする死神の首根っこを掴んだ鏡花は、眠っている真里亞や連太郎たちを指差すと、悪魔のような笑みを浮かべた。


 その表情を目にした死神は、心から嫌そうな声をほんの少しだけ漏らすと、渋々残ったお仕事を片付け始めるのだった。



 ***



 夜。鏡花の異能のせいなのか、完全消灯時刻を過ぎたせいなのか。


 怪我の影響で碇谷がいなくなり、2人の空間となった部屋を抜け出た悠馬は、シンと静まり返った廊下を、ゆっくりと歩いていた。


 幸いなことに、神宮の一件はそこまで騒ぎにはなっていない。


 明日の朝には大騒ぎだろうが、今日の夜だけは静かに過ごせる。


 廊下を抜けた悠馬は、渡り廊下から外へと抜けると、ハイビスカスの花が綺麗に並ぶ空間を目にして立ち止まり、月を見上げた。


「綺麗だなぁ…」


「悠馬くん…?」


「!」


 悠馬が渡り廊下から外へ出ていると、すぐに声がかかった。


 悠馬は宿舎へ戻った後しばらくして、夕夏へと神器を返すべく連絡を入れていた。


 連絡をしてまだ5分と経っていないのに、すぐその場に現れた彼女を見るからに、悠馬に警戒心や、そういった類の恐怖心を全く抱いていないことがわかる。


 月明かりに照らされた亜麻色の髪を目にした悠馬は、死神から預かったものを手にして、夕夏へと優しく投げる。


「え!?ちょ、うわっ!?」


 出会い頭の、悠馬の不意打ち。


 今すぐきて欲しいという連絡内容だった夕夏からしてみれば、まさか物を投げられるなどとは考えてもいなかったのだろう。


 慌てふためきながらも、きちんとそれを受け取った夕夏は、ホッと安心したように息を吐いて、手元に戻ってきたものを見て、目を見開いた。


「神器…天照の…」


「ん。美哉坂に返しておいて欲しいって、警察の人がさ」


 実際は死神からの預かりものなのだが、流石にその情報を話すのは不味いと判断した悠馬は、それとなく、夕夏が信じそうな嘘をつく。


「ありがとう!」


 大はしゃぎしそうな勢いの夕夏を見て、悠馬が安心したように目を瞑った、その時だった。


 悠馬は軽い衝撃を体に感じ、驚いたように目を開く。


「っ!美哉坂!ちょ!」


 おっぱい!おっぱい当たってる!めっちゃ柔らかい!


 てかめっちゃいい匂いだし!


 夕夏に抱きつかれた悠馬は、目を見開きながら、体を仰け反らせる。


 何度も言うが、悠馬はこういうことに耐性を持っていない。


 何故自分が抱きつかれているのかもわからない悠馬は、ただ夕夏の胸の感触と、香りに少しの興奮を覚えてしまった。


「ありがとう…大好き…」


「え…?」


 夕夏との密着体制に耐えきれず、目をそらしていた悠馬は、夕夏が何か呟いたような気がして、その言葉を脳内で再生させた。


 大好き。大好き…


 そして悠馬は、誤解をする。


 夕夏が自分のことを異性として好きになっていることなど気づいていない悠馬は、その告白、というか、その想いは天照に向けてのものだと判断し、抱きつく夕夏の手を、ゆっくりと解いた。


「美哉坂、落ち着けよ」


「ご、ごめんなさい!興奮しちゃって…」


 悠馬が手を解かせると同時に、興奮が少し冷めたのか、夕夏は顔を真っ赤にして後ずさると、悠馬から2メートルほど離れて、弁明を行う。


「いいよ。気にしてない」


「そ、それじゃあ私、帰るね!おやすみなさい!」


 悠馬が気にしてなくても、夕夏は気にしている。


 それが女の子なのだし、好きな男の子に思わず抱きついて告白までしてしまったのだから、今すぐ逃げ出したいという気持ちにもなるだろう。


 慌てて手を振る夕夏は、そのまま足早に廊下へと向かい、去っていく。


 合宿最終日の夜。


 月明かりがハイビスカスの花を照らすその場には、1人で余韻に浸る、悠馬だけが残された。


「はぁ…俺も帰るか…」

もうすぐ異能祭です

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