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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
53/474

暁闇

「これ結構マズくね?」


 重く身体に響く、大きな衝撃波と、地面の揺れを感じながら連太郎は嘆いていた。


 その理由は、言うまでもなく暴走した神宮のせいだ。


 つい先ほどまで南雲の異能によって一方的な勝負になるものと思われていた戦いは、どんでん返しが起こったのだ。


 異能によって現れた、複数体の南雲の分身は、実力も南雲と同じということもあって、最初は南雲が圧倒するように見えた。


 だから連太郎は基本援護に回り、神宮の足に木を絡めるなどの、ねちっこい攻撃を繰り返していたのだ。


 加えて、真里亞の異能は自分の任意の人物のレベルを1つあげるという強化系の異能。


 側から見れば、神宮をいじめているようにしか見えない。


 真里亞に異能を使ってもらった南雲の勝利は揺るぎない。


 そう南雲も、真里亞も、連太郎も確信していた。


 しかし、事は思い通りには進まなかった。


 先ほども言ったように、どんでん返しが起こったのだ。


 神宮の異能は、碇谷と同じく身体強化系の異能。


 その異能がなぜか、格段に、潜在能力の全てが引き出されているのか、肉体がかなり硬化しているのだ。


 つまり、物理的な攻撃がほとんど通らない。


 分身するという異能しか持たない南雲と、他人のレベルを上げるという異能しか持たない真里亞。


 そして植物を操る連太郎からしてみれば、硬く攻撃力も高い敵というのは、かなり分が悪い。


「南雲、体力は?」


「あと1時間くらいは持つだろうが…正直、アレを倒せる気はしねえな」


 神宮と南雲の分身を戦わせている3人は、一度木の陰に隠れると、打ち合わせを始める。


「三枝さんは?レベル2とか、上げれる?」


「いえ…レベルを2つも上げれるなら、私のレベルは10の筈ですから」


 レベルが9の時点で察しろと言いたげな真里亞。


 他人のレベルを上げれる時点でかなり優秀なのだが、今回ばかりは連太郎が高望みをし過ぎている。


 単純計算でいうと、真里亞がレベルを2上げることが可能なら、南雲も連太郎もレベルは11になるのだから。


「あの硬い筋肉をどうにかしねえと、話になんないなぁ」


「目を潰すのはどうでしょう?」


「図体がデカすぎる。3メートル以上のデカさになってるアイツの目に届く異能を、俺は使えねえ」


「俺は多分できるけど…目を潰したあと、無差別に暴れ始めたら手に負えないぜ?アレは歩くだけでも災害レベルだ」


 真里亞が思いついた、柔らかそうな目を狙う、という手もあるが、それをすると無差別攻撃が始まる可能性がある。


 今は南雲の分身体をモグラ叩きのようにして、自分の力を確認してはしゃいでいるが、死ぬ可能性が出てくれば、容赦なく暴れまわることだろう。


 目を潰した程度であの化け物が止まるとは思えない以上、無力化するにはある程度の火力が必要ということになる。


「俺の最大火力試してみてもいいか?」


「いいですけど…貴方、植物でどうにかできるんですか?」


 連太郎の異能は、植物を自在に操るというもの。


 さっきから援護しかしていない彼の異能しか見たことのない真里亞からすれば、かなり不安な申し出なのだろう。


 不安そうな表情で、連太郎を強化しながら尋ねる。


「まぁ、どんな異能でも使い方次第じゃ強くなれるんだよーん!」


「南雲ぉぉお!出てこいよ!ビビってんのかぁ!?」


 神宮が大声で叫ぶと同時に、木の陰から飛び出した連太郎。


 彼の背後には、巨大な樹木が、槍のような形をして控えている。


 長さでいうと10メートル程だろうか?太さは1メートル以上もある丸太のような樹木だ。


 しかしその先は、鋭く尖り、神宮を止める、というよりも、殺すために作られたものと言われた方が納得のいく形状だった。


「ちょ!?紅桜くん!?」


「特に話したことないけど、さようなら神宮!生きていたらまた会おう!」


 流石の真里亞も、連太郎が殺す気満々で異能を使うとは思っていなかったようだ。


 真里亞が連太郎を止めようとすると同時に放たれた異能は、時速100キロを超えるスピードで、神宮へ向かって一直線に飛んで行った。


 直後、バキバキッ!という鈍い音と、神宮の変わり果てた巨体が、遥か後方へと吹き飛んでいく。


「ふぃー…まじかよまじかよ…」


 後方へと吹き飛ぶ神宮。


 連太郎は、今の一撃で神宮仁という人間の人生を終わらせる気だった。


 何故なら、彼はもう二度と、人の形には戻れないのだから。


 人格は保っているものの、使徒と同型になってしまえば、人型に戻る事はできない。


 体の一部だけが使徒になってしまった場合ならまだ救えたかもしれないが、全身がすでに使徒へと変わり果てた神宮はもう、人格を失い暴れまわるバケモノになるしかないのだ。


 ならば、せめてもの情けで人の記憶があるうちに殺してあげよう。


 それが連太郎の下した判断だった。


 鋭く尖った木の槍が、神宮の装甲を貫いたならば、その場で心臓部に穴が空いたまま、立ち尽くすはず。


 それなのに後方へと吹き飛んだという事はつまり、風穴は開けれなかったという事だ。


 自身の最大火力、しかも真里亞に強化までしてもらってその異能を防がれた連太郎は、微妙な表情をして、2人の方を見た。


「生きてる。アイツの装甲貫けねえな!」


「生きてる、って…」


「クク…じゃあまた俺が時間を稼ぐ」


 聴覚強化の異能を使って、神宮の心臓が動いていることを確認した連太郎は、先ほどとは違う位置の木の影に隠れると、2人の話を黙って聞く。


「時間を稼ぐって…貴方ね、助けが来るかもわからないんですよ?」


「ああ。心配には及ばねえぜ。俺の異能は、さほど体力を使わねえ。さっきも言った通り、あと1時間程度なら同じ数の分身を作れる」


 瞬く間に分身を増やした南雲は、1時間は持つと言ってはいるものの、表情から余裕はなくなっている。


「痛えなぁオイ紅桜ぁ!まずはお前から殺してやろうかぁ!?」


 2人の会話を遮るようにして響き渡る怒鳴り声。


 致命傷にはなっていないが、ほんの少しくらいのダメージは負っているようだ。


 本日初のダメージを食らったということもあってか、かなり怒っているのがわかる。


「せめて神器があればなぁ…」


 連太郎の結界、契約神は句句廼馳神。


 神器を使用すれば、神宮の体力を吸収して、植物に変えることだって可能だろう。


 しかし残念なことに、ここは無人島。


 当然、神器を持ち歩いているわけもなく、この場に神器を持っている生徒など、誰1人としていないだろう。


「どうしますか?とりあえず紅桜くん。貴方は退避が最優先ですよ。現状殺害される可能性が最も高いので」


「まじかよ、神宮物騒すぎるだろ!」


「クク…殺す気満々で異能をぶっ放した奴がそれを言うか?」


 つい先ほど、神宮を殺す気満々で異能を放った自分を棚に上げて愚痴る連太郎に、南雲がツッコミを入れる。


「貴方たちね!ふざけてないで真剣に考えてくださいよ!」


「いいや。俺たちの役目はもう直ぐ終わるから、こうしてふざけてるんだよん?」


 真剣に話をする真里亞に対して、あまりに緊張感のない2人。


 真里亞が怒鳴りつけると、連太郎は助けが来ると言いたげに、笑みを浮かべた。


「おー…誰か生きてるか?」


 荒れ果てた山道から聞こえてきた声。


 その声に聞き覚えのあった真里亞は、目を見開いて叫び声をあげた。


「暁くん!逃げてください!」


 念のため、アルカンジュは遠くの木の陰に、連太郎の異能を使って厳重に保護しているため、被害はないだろう。


 しかし、無防備でへし折れた大木の上に乗っかっている悠馬は、格好の的だ。


 隠れることもなく、夜目がまだ利いていないのか、目を細めて辺りをキョロキョロと見回した悠馬は、遠くに見えた巨体に気づき、鳴神を使用した。


 黄金色の雷を全身に纏わせ、バチバチと放電しながら動き始める。


「おい!待て悠馬!」


 真里亞に続いて連太郎が叫び声を上げるが、一気に加速した悠馬は、彼らの声に聞く耳など持たずに、フルパワーで拳を振るった。


 鳴神は、動きを早くする以外にも、身体能力を底上げする効果も持っている。


 まぁ、雷系統で名前付き、最高位に位置する鳴神が、単に早く動けるだけ。という効果しか持っていないわけもないだろう。


 自身の拳が壊れることなど考えなければ、コンクリートの壁を貫く程度の火力は出せることだろう。


 身体強化系の異能よりも、遥かに強い火力で放たれた悠馬の一撃は、グシャッという鈍い音と、バキッ!という音を立てて止まった。


「っ〜〜!」


 あまりの痛みに、手を抑えながら後方へと跳躍をした悠馬は、木の影に隠れてのたうちまわる。


「っだぁぁぁあ!死ぬ!まじ死ぬ!クソ!硬すぎだろ!」


 本気で殴ったということもあってか、悠馬の右腕は、肘から白い骨が飛び出て、筋肉や血管もむき出しになっている。


 加えて、手の甲も金属バットで何十回も殴られたのかと聞きたくなるほど、凹み、色も変わっている。


 その光景は、子供が見たらトラウマレベル、高校生が見ても吐き気を催すレベルのグロテスクな光景だ。


「お前本当に馬鹿だろ!ちょっとくらい人の話聞けや!この無能!」


「うるせぇな!普通に柔らかいと思うだろ!」


 連太郎の怒鳴り声に対して、怒鳴り返す悠馬。


 いつもふざけている連太郎から叱られるとは思っていなかったのか、顔まで真っ赤にして、痛みで顔を歪めがら、連太郎の声がする方向を睨む。


「暁か!お前も殺してやる!命乞いをするなら今のうちだぞぉ!」


 スピードが早すぎたため、悠馬を捉えきれていなかったのだろう、悠馬と連太郎が揉める声を聞いた神宮は、自身の気に食わないものを見つけた為か、つい先ほどまで怒っていた連太郎のことなど忘れたように、辺りを見回す。


「お前、その声。神宮か?」


「ああそうだ!俺は力を手にした!お前らなんかよりもずっと強い!俺は選ばれたんだよ!お前らみたいな凡人と違って!レベル10に辿り着いたんだ!」


 赤黒い、既に人のものではなくなった両腕を掲げた神宮は、自身を止めるものは誰もいない。と言いたげに、無防備な姿を見せつける。


 しかし、その瞬間を攻撃する人間は誰もいなかった。


 いくら無防備といえど、肉体が硬すぎる為、攻撃が通らないからだ。


 意図的に隙を見せたとも言えるその光景を目にしたメンバーは、悠馬以外は息を潜めている。


「なぁ、お前はもう忘れたのか?俺は言ったよな?邪魔をされるのは嫌いだって」


「ああ!そんなこと言ってたねえ!覚えてるよ!でも安心してくれよ!お前を消したら、次は美哉坂にも復讐してやるからさ!あの世で仲良くしたらどうだい!」


「そっかそっか。覚悟は出来てるんだな?」


 力を手に入れ、自惚れている神宮。


 悠馬の最後通告を無視した神宮は、勝ち誇ったような笑顔を見せていた。


 対する悠馬は、レッドパープルだった瞳の色を真っ黒な瞳に変えて、右腕を眺めていた。


 悠馬の右腕は、つい先ほどの大怪我などなかったかのように、殆どが完治していた。


 軽い打撲程度にしか見えなくなっていたその右手を何度か動かし、感触を確かめた悠馬は、歪んだ笑みを浮かべながら、ゆっくりと動き始める。


「なぁ、連太郎。周りには誰がいる?」


「三枝さんと南雲。あとは意識を失ってるアルカンジュさんだけだ」


「おっけぇ…」


 悠馬の心の中には、迷いがあった。


 それはここへ来る直前に、美月に止められ、彼女が何を心配しているのかを察した為だ。


 この半分使徒のようになってしまった神宮を止めるには、神器を用いて、最も得意とする闇の異能を放つのがベストだ。


 しかしそれをしてしまうと、今後の学校生活に支障が出かねない。


 下手をすると、学校から退学案内が来てしまうかもしれないし、下手をせずとも、学校内で闇堕ちだとバレ、今まで作り上げて来た関係は全て失ってしまうかもしれない。


 復讐を成し遂げるために生きていると言えど、その友との繋がりまでは捨てたくない悠馬からしてみれば、闇の異能を使うというのは、覚悟が必要だった。


 友を失う覚悟が。


 これからまた、ひとりぼっちになる覚悟が。


「いや、違うか」


 悠馬はもう、ひとりぼっちなんかじゃない。美月がいる。連太郎がいる。


 自分が迷ったせいで人がたくさん怪我をするより、他人を救うために異能を使った方がいいに決まっている。


「悪い、南雲と真里亞。今から起こることは、出来れば見なかったことにしてほしい」


 覚悟を決めた悠馬は、右手を伸ばし、何もなかったはずの空間から、漆黒の鞘に刀身を収めた日本刀のようなものを手にする。


「結界。クラミツハ」


「おいおい!暁!隠れてないで出てこいよ!それともビビってんのか?」


「言われなくても出て来るよ」


 南雲と真里亞の返事を待たずに神宮の前へと飛び出た悠馬は、結界を発動させながら、鳴神を纏い、ゆっくりと神宮へと歩み寄る。


 その歩みには、一切の迷いも、恐怖もなく、恐ろしいほど単調に、無機質に。


「死ねや暁!」


「雷切。黒雷」


 2人の間合いが、悠馬の日本刀が届く距離まで縮まった瞬間。


 容赦なく振り下ろされた神宮の拳のことなど意に介さず、日本刀を抜刀した悠馬。


 その日本刀とは、クラミツハと契約している悠馬だからこそ使用が許されている、神器だ。


 銀色の刀身と共に、先ほどまで黄金色に輝いていた雷は、漆黒の雷へと変貌しする。


 黄金の雷と、漆黒の雷が混ざり合い、幻想的な輝きを放ちながら、それはやがて、漆黒へと染まっていく。


 真里亞に南雲に連太郎。


 3人が木の陰から見守る中、悠馬の持つ日本刀・神器の白銀の刀身は、無数の漆黒の雷を纏いながら、神宮へと向けて放たれた。

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